(ニューヨーク)-スリランカ軍は、北部ワンニ地域の病院に対し、繰り返し無差別の砲撃及び空爆を加えていると、本日ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。こうした攻撃の命令・実行の責任者たる司令官は、戦争犯罪で訴追することができる。
患者、医療従事者、援助関係者、その他の目撃者たちは、2008年12月以来、戦闘地域にある常設病院及び仮設病院に対して加えられた、少なくとも30回の攻撃についての情報を、ヒューマン・ライツ・ウォッチに提供。最大の死傷者を出した攻撃は、5月2日に起きた。その日、政府指定の「戦闘禁止地域」にあるムライバイカル(Mullaivaikal)病院を砲弾が直撃、68名を殺害、87名を負傷させた。
「病院は砲撃からのサンクチュアリであるべきで、標的とされるべきでない。」とヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長ブラッド・アダムズは述べた。「医師や看護婦が、患者であふれかえる貧弱な設備の施設で命を救うために奮闘する中、スリランカ軍の攻撃が次から次へと病院を直撃している。」
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、スリランカ軍と分離独立派タミル・イーラム・解放のトラ(LTTE)の両陣営が、近時の戦闘で、戦争法規(戦時国際法)を数え切れないほど違反していると批判してきた。数万人の民間人が、スリランカの北東部海岸に沿った狭い地域に、LTTE軍によって「人間の盾」として閉じ込められている。
スリランカ軍が進軍する際、LTTEは違法にも、民間人住民を強制的に退却に同行させた。病院職員たちは常設病院から離れ、LTTE支配下地域で仮設病院を設置するしかない状態に追い込まれてきた。複数の中立的情報筋はヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、病院が新しい場所に設立される度に、医師たちは病院を攻撃から守るため、スリランカ軍に新たな施設のGPS座標を送った、と明らかにした。しかし、医療関係者たちは、病院の位置を示す座標を送った翌日に攻撃された例も複数あると述べた。
ある医療関係者は、ヒューマン・ライツ・ウォッチに、戦闘禁止地域にあるバラヤンマダム(Valayanmadam)病院への4月2日の空爆について詳しく説明した。
「私は病院内にいました。ちょうど午後12時30分、私はスリランカ軍の無人飛行機が病院上空を偵察飛行しているのに気が付いたんです。病院内にいたみんなは攻撃がすぐ始まると感じ、地面に伏せました。その直後、空中で大きな爆発音がしたのを聞き、その後、地上で小さな爆発が何回も起きました。その中の一つが、私からほんの2~3メートル位の所で起きました。私のちょうど隣で伏せていた医師の頭に破片が当たり、彼は死にました。その攻撃で4人か5人殺され、30人以上が怪我をしたんです。」
攻撃された仮設病院には、医療施設の明確な印が付けられていた、と医療関係者たちは語った。例えば、LTTEの本拠地であるプドゥックディイルップ(Puthukkudiyiruppu)にある病院は何度も攻撃され、戦闘禁止地域にあるナンスィカダル(Nanthikadal)潟の向こう、プツマッタラン(Putumattalan)にある学校に避難した。潟を挟んだ向こう側に陣取るスリランカ軍側に、その病院は大きな赤十字の印を付け、入口には赤十字を染め抜いた旗を立てていた、と目撃者は述べた。その潟を渡って3月の下旬に逃げ出してきた人がヒューマン・ライツ・ウォッチに語ったところによれば、その赤十字の印は潟の反対側1 キロにある政府軍陣地からもよく見えたそうである。しかし、その病院は何度も攻撃された。
ある医療従事者はヒューマン・ライツ・ウォッチに、4月20日の真夜中にプツマッタランの病院が激しい砲撃にあった時、直ちに防空壕に逃げ込んだと語った。その日の早朝、シェルターから出た彼が見たことは以下のとおりだった。
「建物の屋根は壊され、タイルが部屋に落ちてました。手術棟は完全に消失してましたね。第5棟には8人分、入院棟には5人分の遺体がありました。皆、以前の攻撃で負傷し収容されていた患者だったんです。怪我をした人が病院にやって来てはいましたが、病院スタッフは治療してあげられませんでした。死傷者が全部で何人か、見当もつきません。5つある病棟のうち2つの中で13の遺体を数えただけで、私は出てきてしまいました。」
2月中旬以来、赤十字国際委員会は1万3千名を超える負傷者と介護者を、戦闘地域から海上輸送で避難させた。LTTE支配下地域にある常設及び仮設の病院は、毎日数百名の患者を受け入れ続けている。多くは戦闘の結果負傷してたどり着いた患者たちだが、他にも、悪化した衛生状態や食糧・清潔な水の深刻な不足によって、病気になった人びとがいる。
目撃者たちは、スリランカ軍の攻撃の一部は、病院の周辺に展開しているLTTE部隊を標的にしたものだった、と指摘。しかし、その他のケースについては、病院付近にLTTEの部隊はいなかった、と証言した。
常設・仮設を問わず、病院は、国際人道法で特別に保護されている。他の民用物と同様、病院は標的にされてはならない。ジュネーブ協定のもと、病院は、人道上の機能を逸脱して「敵対行為に使用」されない限り保護され続ける。敵対行為に使用された場合であっても、攻撃が許されるのは、合理的な猶予期間を設けた警告が与えられたにもかかわらず、その猶予期間が過ぎても警告が無視された場合だけだ。LTTEの医療従事者や負傷戦闘員が存在する事は、医療施設であるという文民性に影響を与えない。
民間人や病院の近くにLTTE部隊を配置することは、民間人を不必要に危険な状態に置く行為であり、戦争法規(戦時国際法)に違反する。しかしながら、一方の紛争当事者による違反行為は、他方の紛争当事者による違反行為を正当化するものではない。
戦争法規のもと、紛争当事者は、攻撃の標的は軍事目標であって文民目標ではないことを確保するため、実行可能な全ての予防措置を講じなければならない。軍事目標と文民目標を区別しない攻撃は禁止されている。犯意(意図的又は重過失)をもって違法な攻撃を命令もしくは実行した個人は、戦争犯罪の責任を負う。各国は戦争法規に従って、戦争犯罪が行われたとの申立を調査し、その責任者を訴追する義務を負っている。
「スリランカ軍が、病院だとわかる目標に対して度重なる砲撃をしたことは、戦争犯罪の証拠だ」とアダムスは述べた。「自らの違法行為を正当化するために、LTTEの残虐行為を隠れみのに使うことはできない。」
スリランカ軍に対し、人口密集地帯とりわけ病院周辺での重火器使用の停止要求をさらに強めるよう、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、スリランカの主要な資金提供国(米国、欧州連合、インド、日本、中国など)に要望。政府もLTTEも、戦闘地域から民間人が逃げ出せるよう、安全な人道上の避難路(人道回廊)の設置を許可するべきである。
スリランカにおける人道状況を、ニューヨークの国連安全保障理事会の正式会合で緊急に取り上げること、及び、ジュネーブでの国連人権理事会の特別セッションで取り上げることを、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、改めて強く求めた。