(ニューヨーク)-アフガニスタンのアジザバッド村に対する2008年8月の米軍空爆で多数の犠牲者がでたが、本空爆についての米軍調査には重大な欠陥がある、とヒューマン・ライツ・ウォッチは、本日ロバート・ゲーツ米国防長官に宛てた書間で述べた。
2008年10月1日、米国防省は、ヘラート州アジザバッド村空爆(2008年8月21、22日)についてのマイケル・カラン准将による調査報告書の概要を発表。以来、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、アジザバッド村の空爆について追加調査を行ない、同概要で公表された事実を再検討、カラン准将の調査方法を分析した。
「カラン調査にこれだけ重大な欠陥があることからすれば、民間人犠牲者を避けるという国防省のコミットメントも本物なのか疑問が生じる」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局局長ブラッド・アダムスは述べた。「オバマ新政権がアフガニスタンでの米軍の空爆のやり方を即座に改善しないかぎり、避けられたはずの民間人死傷者が更に出てしまうだろう。」
国連、アフガニスタン政府、アフガン独立人権委員会が行った各調査によると、アジザバッド村では78人から92人の民間人が殺害され、その多くは女性と子どもだった。空爆後の数週間、米国はこの3つの調査を強く否定。共同統合任務部隊101 (CJTF)が当初行った米軍に対する調査では、民間人死者はわずか5人から7人ほど、タリバン戦闘員の死者は30人から35人ほどと報告された。様々なメディアのインタビューで、米当局は、村民たちがタリバンのプロパガンダを流布していたと示唆していた。
民間人が多数死亡したことを示すビデオが公表され、アフガニスタンのハミド・カルザイ大統領と国連が米軍を厳しく批判したことを受けて、9月7日、米国はカラン准将の下で新たに調査を行なうと発表。
カラン報告書の概要は、民間人死者の数について、当初米国が発表した数よりも多かったことは認めている(民間人死者は33人とした)。しかし、国連、アフガン独立人権委員会、アフガニスタン政府が指摘したほど民間人は死んでいないと結論づけ、国連などの調査方法も批判。また、当初の米国調査には欠陥はなかったと強弁し、村民たちの証言はお金ほしさ又は政治的な動機によるものだとして、受け付けなかった。
カラン報告書の概要は、米軍がアジザバッド村で行った対反政府勢力攻撃が、「必要」かつ「適切」なものだったと結論付け、米国の収集した情報に過ちがあった可能性は一切認めていない。結論を導いた理由も示さないまま、誤撃を行った者たちには何らの過ちもなく責任もないと結論付け、また、タリバン勢力が故意に民間人を「盾」として使ったと証拠を示さずに指摘している。
カラン調査の認定した民間人死者数が、実際の民間人死者数より低くなった理由として考えられる欠陥には、たとえば、殺害された人数に関する村民の証言を退けたこと、1体以上の遺体を埋葬している墓が複数あるという複数の一貫した申立がされていたのにこれを否定したこと、死亡した人びとのうち男性をほとんどすべて武装勢力と見なしたことなどがある。
「アフガニスタン国民の間には、カラン報告に対し大きな期待があった。アジザバッド村空爆に関する信頼でき留詳細な分析を行い、しっかりした責任追及と懲戒処分の土台を提供し、今後こうした悲劇の再発を防ぐための軍事作戦上の変革をもたらすのではないか、という期待だった」と、アダムスは述べた。「まことに残念だが、こうした期待は裏切られた。」
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、米国政府に対し、以下の提言/勧告を行った。
❑ 空爆による民間人被害を最小限にするために、すべての実行可能な予防措置をとる法律上の義務の順守を確保すること。
❑ 情報の信憑性が高い場合でかつターゲットを目視確認できる場合を除き、人口密集地での空爆を止めること。情報元からもたらされたのが誤情報や偽情報である危険性があることから、近接航空支援の前の米軍陸上アセスメント調査の質を改善することが極めて重要である。
❑ 人口密集地内のターゲットに対し、105mm榴弾砲など面積効果の高い広域攻撃兵器を使用するのをやめること。
❑ 民間人犠牲者が減るような空爆のやり方に変えるため、民間人の巻き添え被害と戦闘被害評価プロセスを、徹底的に見直すこと。
❑ 軍事作戦における民間人犠牲者に関する正確かつ最新の情報を提供すること。
❑ 正当な民間人犠牲者に対しては、責任を取ること。責任者に対し適切な懲戒処分や刑事訴追を行うこと。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、米国防省に対し、カラン報告書を公表するよう求めた。
「ペンタゴンは、アジザバッド村空爆調査報告書の全文は、機密解除・公表はしないと決定した。極めて遺憾だ」と、アダムスは述べた。「世界の人びとが、カラン報告書の調査方法、分析、調査結果を知ることができるよう、この決定を見直すよう国防長官に求める。」
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、民間人犠牲者を減らすため、米軍とその同盟軍が、例えば9月2日と12月8日に発行された戦術命令(Tactical Directives)や政治指導者や軍指導者によるメディアへの様々な発言の中などで、作戦変更や約束をしてきたことも指摘。
「米国は、多くの民間人の命を犠牲にした一連の攻撃を止めるため、空爆戦略とやり方を、今以上に改善する必要がある」と、アダムスは述べた。「そうしなければ、今計画されているアフガニスタンへの2万から3万の兵員増派も、民間人の犠牲者の減少どころか、更なる民間人の死を引き起こしかねない。」
2008年9月、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、空爆による民間人犠牲者問題についての報告書を発行。その報告書「『部隊交戦中』:アフガニスタンでの空爆と民間人犠牲」(https://www.hrw.org/en/reports/2008/09/08/troops-contact-0、プレスリリース日本語訳 https://www.hrw.org/en/news/2008/09/07)は、民間人犠牲を避けるための戦略を詳細に提言/勧告している。