(ニューヨーク) ・宝石取引業者と宝石小売業者に対し、ビルマ産ルビーと翡翠の輸入を禁止する法律が新たに米国で制定された。「これはビルマ産宝石に関する非倫理的な国際取引の削減への大きなステップである」ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日このように述べた。2008年7月29日には、ジョージ・W・ブッシュ米大統領が、今月始めに満場一致で米国議会で承認された、ビルマ産宝石の取引禁止に関する現行措置を強化する同法に署名する。
「ビルマ産宝石の国際取引は、ビルマ軍事政権の抑圧的な政策を資金面で支えており、数百万ドルがビルマの抑圧的な支配者のポケット・マネーになっている。この新法によって、米国内の小売業者は、ビルマ産ルビーと翡翠の取引に関して合法的な形で利益を得ることはもはやできなくなる。」ヒューマン・ライツ・ウォッチのビジネスと人権プログラムのディレクターであるアーヴィンド・ガニサンはこのように述べた。
2003年から米国政府はビルマ産製品の輸入を禁止している。しかし、これには抜け穴があり、第三国(例えばインドやタイ)でカットあるいは研磨されたビルマ産宝石の購入は許可されていた。今回の新法はルビーと翡翠(両者はビルマ産宝石でもっとも売り上げが多い)に関するこの抜け道をふさぐものだ。これまでの一部報道とは異なり、今回の法律では、この両者以外の宝石は対象から外れており、従来の規制に則って米国に合法的に輸入されたビルマ産宝石の販売も禁止されていない。
ビルマでは、宝石が石油(原油と天然ガス)と農産品に次ぐ第3の輸出品である。ビルマ政府の公式統計(完全に信頼が置けるものではないが)によれば、2007会計年度のビルマ産宝石の輸出額は6億4700万米ドル(約700億円)まで達している。
欧州連合とカナダは、すでにビルマ産宝石の輸入を禁止している。
米国の小売業者のうち、ティファニー社とレーバー・ジュエラー社(Leber Jeweler Inc.)など数社は、ビルマ産の宝石用原石の購入拒否という倫理的な対応を続けている。宝石業界全体にボイコットが広がるきっかけは、ビルマ政府が2007年8月から9月に行った、非暴力のデモ隊への弾圧だった。ジュエラーズ・オブ・アメリカなど業界団体は、会員企業に自発的なボイコットに加わるよう働きかけると同時に、議会に対して全面的な法的禁輸措置を取るよう求めていた。
米国の宝石取引が抱えるこの抜け穴を塞ごうとする2007年後半の米国議会の取り組みは、下院と上院が可決した法律の条文の違いをめぐって立ち往生していた。今月に両院で可決された調整後の法案は、ブッシュ大統領の署名によって法律が成立してから60日後に発効する。同法は小売業者に対し、ルビーと翡翠がビルマ産でないことを示すため、産地を記録することを、また宝石取引業者に対し、輸入するルビーと翡翠を慎重に選別することを義務付けている。同法は、ビルマで採掘されたルビーまたは翡翠を用いる完成品の宝石(指輪など)と同時に、ルビーや翡翠の原石の輸入品にも適用される。
「宝石取引業者と小売業者は、ルビーと翡翠に関する米国の新法に従うだけでなく、ビルマが生産していることで知られている他の宝石(サファイヤ、尖晶石など)の購入についても、ビルマ産宝石の非倫理的な取引を支えていないことを確実にするために、慎重なスクリーニングを行なうべきである。」ヒューマン・ライツ・ウォッチはこのように述べた。
「ビルマ産の宝石用原石は、激しい人権侵害によって汚されている。宝石業界は、法執行当局はもちろんのこと顧客に対しても、ビルマ産の宝石を購入しないためにできる限りの対応を行なっていることを保証するために、確実な措置をとるべきだ。」ガニサンはこのように述べた。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、小売業者は宝石の供給元に対して、すべての請求書に宝石用原石の原産国を特定すること、また宝石用原石がビルマで採掘されてないことを保証するよう要求すべきであること、さらに供給元の主張が本当かどうかを確かめるべきであるとも述べた。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、小売業者に対して、今回の新法の適用前の既存の商品を含めた形で、ビルマ産宝石の購入と販売を即時全面的に停止するよう重ねて求めた。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、これまでもビルマ産宝石の取引のボイコット および国際制裁 を呼びかけている。
「宝石店はビルマ産宝石の販売を一切行なうべきではない。人権侵害の実行者を支える宝石販売を行うことは、贅沢さではなく、軍事政権の残酷さをショーケースに陳列するようなものだ。」ガニサンはこう指摘した。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、消費者に対しても、小売業者に宝石の原産地を尋ねた上で、十分な情報を提供できない、または宝石用原石が採掘された国について販売伝票などの形で、書面として提示する気のない業者からは宝石を買わないよう要請した。
今回の宝石禁輸措置は、2008年のトム・ラントス・ビルマJADE(Junta’s Anti-Democratic Efforts、ビルマ軍政反民主主義行動【注:翡翠を指すjadeと頭文字を掛けたもの】)禁輸法の一部である。同法は、2008年2月に逝去した元米国下院議員で人権問題に熱心だった同氏 にちなんで命名されたものだ。同法はまた、
金融制裁措置 の拡大といった分野を含むもので、議論を呼んでいるビルマでの天然ガス採掘事業 からシェブロン社【注:実施企業のユノカル社は同社に合併された】が自発的に撤退することも求めている。