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ベトナム

2022年の人権状況を振り返る

Vietnamese political detainees and prisoners, from upper left: Do Nam Trung, Can Thi Theu and Trinh Ba Tu, Le Trong Hung, Trinh Ba Phuong; lower left: Nguyen Thi Tam, Pham Doan Trang, Pham Chi Thanh, Le Van Dung, Bui Van Thuan.

© 2022 Private

ベトナムは基本的な市民的・政治的権利を組織的に抑圧している。ベトナム共産党(CPV)の独裁的な一党支配のもと、政府は表現、結社、平和的集会、移動、宗教の自由などの権利を厳しく制限している。

政府は依然として、独立した労働組合や人権団体、政党の存在を認めていない。承認を受けている政府のシステムから外れて、なんらかの組織や労働団体を設立しようとすると、当局から嫌がらせや脅迫、報復を受ける。当局は、公的な集会を許可制とし、政治的に容認できないと見なす会議、デモ行進、集会には決まって許可を出さない。

8月31日付の命令は、ベトナムで活動する国際NGOがベトナムの「国益、法律、国防、治安、社会秩序、安全」および「社会倫理、わが国の優れた習慣と慣行、わが国の伝統、アイデンティティ、偉大な国民の一体性」に反する活動をしてはならないと定めている。一連の用語の定義が条文で示されていないにもかかわらず、規定に違反するとみなされた団体には解散が命じられる。

当局は、敏感な問題を扱う政治的なウェブサイトやソーシャルメディアのページへのアクセスをブロックし、ソーシャルメディア企業や通信会社に圧力をかけて、政府や与党に批判的なコンテンツを削除または制限させている。

政府を批判する人びとは、警察による脅迫、嫌がらせ、移動制限、恣意的拘束と拘禁、また不当な裁判による投獄の被害にさらされている。警察が、弁護人へのアクセスを認めないまま政治犯を数カ月にわたって拘禁し、人権を侵害する尋問を行うことが常態化している。共産党に支配された裁判所は、ブロガーや活動家に対し、国家安全保障を脅かすという偽りの罪で、長期刑を宣告している。

3月、ベトナムは国内外の移動について、新型コロナウイルス感染症(Covid-19)対策に関わる移動制限をすべて解除したが、人権活動家、反体制派、政府を批判する人びとの移動の自由は引き続き制限している。

10月、ベトナムはその人権侵害懸念にもかかわらず、国連人権理事会の理事国(任期は2023~2025年)に選出された。

 

表現・意見・言論の自由

政治的反体制派や人権活動家は、組織的な嫌がらせや脅迫、恣意的な拘束、拘禁中の虐待、投獄の対象となっている。

ベトナムは現在、基本的な市民的・政治的権利を平和的に行使した160人以上を投獄している。2022年1月~9月にかけて、裁判所は、政府への批判を公に行うとともに、人権、環境、民主主義を求める訴えかけを行ったとして、少なくとも27人を有罪にし、長期刑を宣告した。このリストには、市民ジャーナリストのLe Van Dung(以下、人名は敬称略)や民主化活動家のDinh Van Haiらが含まれる。

8月、ハノイの裁判所は、有名ブロガーのPham Doan Trang、土地権利活動家のTrinh Ba PhuongNguyen Thi Tamの控訴を棄却している。本稿執筆時点で、警察は、人権活動家のNguyen Thuy HanhNguyen Lan ThangBui Van ThuanBui Tuan Lamなど、少なくとも14人を政治的動機に基づく容疑で未決勾留している。

2022年、ベトナムはNGO活動家への弾圧を強化した。裁判所は、ジャーナリストのMai Phan Loi、環境問題で活動する弁護士のDang Dinh Bach、環境活動家のNguy Thi Khanhに対し、脱税という政治的動機に基づく罪で拘禁刑を宣告した。Nguy Thi Khanhは、草の根環境活動家の顕彰として国際的に知られるゴールドマン環境賞の2018年受賞者である。

 

メディアの自由、情報へのアクセス

政府は、独立したメディアや民間のメディアを禁止し、ラジオ局やテレビ局、印刷物を厳しく統制している。政府はウェブサイトへのアクセスを遮断し、ブログを頻繁に閉鎖させる一方、インターネットサービスプロバイダーに対して、政治的に容認できないと判断したコンテンツやソーシャルメディア・アカウントを削除するよう要求している。

10月には、テック企業に対し、ベトナム国内にオフィスを開設し、ユーザーデータを国内に保存することを義務付ける新たな命令が施行された。この命令には非常に問題が多く、政府が企業にますます圧力をかけることができるようになるとともに、表現、結社、プライバシーの自由への権利を侵害する可能性を高める。米国の経済団体は、これらの新しい要件に抗議する書簡をファム・ミン・チン首相に送付している。首相側の応答があったかは不明だ。

 

移動の自由

政府は、移動の自由への権利をはじめ、基本的人権を日常的に侵害している。活動家、反体制派、人権活動家らは無期限の自宅軟禁、嫌がらせ、その他の拘禁などの対象となっている。当局は、活動家が公の場での抗議デモ、活動家仲間の裁判傍聴、外国人外交官との会合、その他の人権関連の行事への参加ができないように、その時間だけ活動家を拘束することを頻繁に行っている。

治安当局は、私服公安を監視対象者の自宅の外に配置し、南京錠を外から掛けて家から出られないようにしたり、道路にバリケードなどの障害物を設置するなどして、当人が外出したり、誰かが尋ねてきたりすることを妨害している。また、近隣のチンピラを使って脅しをかけて、家の中から出られないようにするほか、非常に強力な接着剤(いわゆる瞬間接着剤)を自宅の鍵穴に注入することもある。

また、ベトナム政府は、人権活動家、ブロガー、反体制派とその家族の国内移動と国外渡航を組織的に妨害している。具体的には、検問所、空港、国境ゲートでの足止め、出入国に必要な旅券などの書類の発給拒否がある。

2月、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、報告書『「自宅に閉じ込められる」:ベトナムの人権活動家への移動制限』を発表し、2004年~2021年にかけてベトナム政府が行った、移動の自由に対する組織的で過酷な制限措置を明らかにした。

3月、治安当局はハノイで行われたウクライナ支援のイベント民主化支持者8人が参加するのを妨害した。8月、警察は人権派弁護士Vo An Donとその家族に対し、国家安全保障を理由にベトナムから米国に渡航することを禁じた。

 

信教の自由

政府は、法律、登録要件、監視などを行って宗教活動を制限している。宗教団体は政府の承認を得て登録し、政府が管理する運営委員会の下で運営されなければならない。当局は政府系のキリスト教会やパゴダに礼拝の実施を認める一方で、「国益」、「公序」、「国民の一体性」に反すると恣意的に判断した宗教活動(多くの通常の宗教行事も含む)を禁止している。

警察は、政府の管理下に置かれた制度の外で活動する宗教団体を監視し、嫌がらせを行い、時には暴力的に取り締まる。未認可宗教団体(カオダイ、ホアハオ、キリスト教系、仏教系などがある)は、依然として監視、嫌がらせ、脅迫などの対象とされている。独立した宗教団体の信者は、公の場での批判、強制的な棄教、拘禁、尋問、拷問、投獄の対象になっている。2021年9月現在、ベトナムは、合計で約100万人の信者を要する約140の宗教団体を公式には認めていないことを認めている。

 

子どもの権利

ベトナムでは、性的虐待を含む子どもへの暴力が、家庭や学校などで広がっている。保護者、学校教師、公務員の保育士らが性的虐待を行ったり、子どもを殴ったり、棒で叩いたりする事例が多数報告されている。

 

女性の権利

4月、詩人のDa Thao Phuongは、23年前に元同僚にレイプされたと公の場で告発し、事件が隠蔽されたいきさつも明らかにした。この件はソーシャルメディアで急速に広まり、ベトナムで「#MeToo」運動が起こるきっかけになるのではと期待されたが、後を追う動きはほとんどなく、当局は何の行動も起こさなかった。

 

性的指向と性自認

近年、ベトナム政府は、レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー(LGBT)の人びとの権利を認め、同性関係や法律上の性別認定(=性別変更)について禁止規定を撤廃するなど、緩やかな前進を続けている。

8月、ベトナム保健省は、同性に魅力を感じることやトランスジェンダーであることは精神疾患ではないことを公式に確認するとともに、病院や医療機関に対し、LGBTの人びとへの差別的・虐待的な扱いをやめるよう通達を出した。

 

主要な国際的アクター

ベトナムは、最大の貿易相手国である中国と、第二の貿易相手国である米国との関係をバランスよく保つよう努めた。ロシアによるウクライナ侵攻と米中対立のいずれについても、ベトナムはどちらか片方に肩入れすることはないとの態度を表明した。

また、中国の軍事演習や、領有権の対立がある海域での中国の軍事的プレゼンスの増大について、ベトナムは繰り返し抗議の意思を表明している。

3月、ベトナムは、ロシアにウクライナへの軍事攻撃の停止を求め、ロシアの国際人道法と国際人権法違反を非難する国連総会決議案に棄権した。10月、ベトナムは再び、ロシアによるウクライナの不法な併合を非難する投票に棄権した。2022年、ベトナムはロシアとの包括的戦略パートナーシップの締結10周年を迎えた。

5月、ファム・ミン・チン首相はワシントンDCで開催された米国・東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会合に出席し、ホワイトハウスでジョー・バイデン大統領と会見した。首脳会談に先立ち、米国の議員団はバイデン大統領に対して、ファム・ミン・チン首相に人権に関する懸念を提起するよう強く求めた。バイデン大統領は公開の場でこの問題を提起しなかったが、非公開の場で言及を行ったかどうかは不明である。

欧州連合(EU)は、ベトナムでの弾圧の激化を懸念する複数の声明を発表するとともに、同国政府との人権に関する協議(成果はなし)も行った。9月には欧州議会の国際貿易委員会のベルント・ランゲ委員長がベトナムを訪問した。EUは、2020年の二国間自由貿易協定の締結がベトナムでの自由と市民社会の活動領域との拡大に一役買うものになるだろうと主張しているが、これが誤りであることが証明された。この協定が提供するとされる、ベトナム政府による人権侵害への強力な対抗手段を、EUはまだ一切用いていない。

オーストラリアとベトナムの二国間関係は、オーストラリア国籍のChau Van Khamがベトナム政府によって非合法とされた海外の政党に関与した疑いでベトナムの刑務所に収監されたままであるにもかかわらず、発展を続けている。

日本は依然として最大の二国間ドナーである。5月、岸田文雄首相がベトナムを訪問した。そして9月、グエン・スアン・フック国家主席が訪日した。しかし、これまでと同様、日本は経済的な影響力を行使して、ベトナムに人権状況の改善を公に要求しようとはしなかった