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猛暑から人びとを守る

気候危機による人権への影響のために政府がとるべき10のステップ

A man shields himself from the sun during a heat wave in New Delhi, India, June 12, 2022. © 2022 Sipa via AP Images


(ニューヨーク)– 世界各国の政府は、気候変動が原因の猛暑が引き起こす現行および近い将来の害から人びとをまもるために行動すべきだ、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。現在、世界の大部分が記録的な暑さに見舞われている。

政府には、人びとが気候変動の影響に適応できるよう支援する人権上の義務がある。これには、近い将来の猛暑の影響、特にもっとも害を受けやすい集団に対する影響評価と、被害を軽減するための効果的な計画も含まれる。また、温室効果ガスの排出を迅速に削減し、化石燃料への助成を停止することで、最悪の気候変動を阻止し、リスクに直面する人びとの権利を保護しなければならない。

ヒューマン・ライツ・ウォッチのカタリーナ・ラル環境問題担当上級調査員は、「かつては極端とされた気温がより一般的になり、近い将来の地球の気温上昇がはっきりとわかっている今、各国政府はガスの排出量を速やかに削減し、すでに避けられない状態まできた地球温暖化に備える必要がある」と指摘する。「そして、危険にもっともさらされ、自らをまもるすべをもたない人びとの権利を保障すべく、具体的な計画を策定しなければならない。」

気候変動に関する世界有数の科学機構「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)は、人為的な気候変動により全大陸で気温が極端に上昇していると報告。この10年間は記録史上もっとも暑く、過去40年間は10年ごとに気温が右肩上がりとなっている。

猛暑がヨーロッパ全土をおそった結果、イベリア半島では1,000人超がその犠牲となった。2022年7月18日に英国は、政府が気温の記録を開始して以来、初めて摂氏40度(華氏104度)を超えたため、最初の赤色「猛暑警報」を発した。オーストラリア、中国、フランス、ドイツ、インド、イタリア、日本、ノルウェー、パキスタン、米国でも、おなじく前例のない猛暑となっている。

強烈な日差しにさらされることで重大な健康被害に繋がる。あせも、けいれん、熱疲労、熱射病を引き起こしたり、致命的または生涯続くダメージをもたらす可能性もある。高齢者、障がい者、妊婦、子どもは、暑さによる健康への悪影響のリスクが高く、場合によっては致命的な結果を招いてしまうこともある。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、屋外や高温の調理場、倉庫などで低賃金労働に従事する人びとが、一般よりもはるかに長時間暑さにさらされている実態について調査・検証してきた。又、熱波に対する政府の対応が不十分な場合も、特定の人びとのリスクを高めている。貧困状態にあったり、社会から取り残された人の多くにとって、エネルギーや冷房、相当な住居、生活飲料水、医療サービスへのアクセスは十分でない。そのため、死や暑さに関連した疾病に直面する可能性が高い。ヒューマン・ライツ・ウォッチは調査で、各国政府が障がい者、高齢者、妊婦、移民労働者および貧困状態にある人びとを保護するために、相当な暑さ対策計画を実施してこなかったことを報告してきた。

気候変動で熱波がより長く頻繁に起こるようになり、暑さ関連の死亡率も上がっている。月刊の科学ジャーナル「Nature Climate Change」で発表されたある研究は、43カ国の実験データを評価し、暖かい季節の暑さ関連死の3分の1超が気候変動に起因することを明らかにした。猛暑はすでに致命的な結果をもたらしており、関連死亡率は重大な過小報告状態にあってもなお増加している。すでに一部の場所では、人間が生きる限界を超えた暑さと湿気が報告されている。暑さはまた、食糧不安と水不足を引き起こし、大気汚染を悪化させる。それらが人間の精神的健康状態に影響し、疾病も増えることになる。

仮に各国政府が、人権に関する義務、そして気温を産業革命前のレベルよりも摂氏1.5度の高さに保つというパリ協定の義務を果たすために「迅速かつ大幅な」ガス排出削減に成功したとしても、依然としてより激しく頻繁に、より長い熱波が全大陸をおおうだろう。アフリカ大陸のサヘル地域、中東、南アジアでは3000万〜6000万人もの人びとが、健康的に人体が機能するには高すぎる、史上もっとも暑い月平均気温に直面すると予測されている。

世界人権宣言および「経済的、社会的および文化的権利に関する国際規約」は、公衆衛生に対する予見可能な脅威に政府が対応する必要性を含め、健康権の保障を定めている。 人びとを暑さから守るための国際人権義務にそった政府の対策には、次に挙げた10の措置が含まれるべきだ。これらは気候、公衆衛生、災害対策の専門家と協議した上で作成された。

  1. 公衆衛生の観点から猛暑のリスクを評:暑さ関連の死亡、けが、疾病のリスクがもっとも高い集団を特定する。また、猛暑が該当地域で危険レベルに達する値を特定する。
  2. 暑さの減と緊急対応計画を策定:策定過程でリスクのある集団の有意義なかたちでの参加を実現させ、重要な措置を実行する能力を確保する。
  3. リスク削減と実行能力の構築にかんする政策を施行:リスクのある集団をターゲットに公衆衛生キャンペーンを実施し、暑さによる害への認識を高め、緊急対応要員向けの研修を提供し、低所得者層が冷房設備・施設にアクセスすることを保障するサービスを構築、または政策を策定する。
  4. 生活飲料水、衛生エネルギーへのアクセスを確保:安定したアクセスのない地域に生活飲料水・衛生・電力サービス(可能な場合)を供給または復旧するための具体的かつ公的な計画を策定する。また、手ごろなサービス料金を確保する。
  5. 熱波到来中の差し迫ったリスクおよび緊急支援の利用オプションを広く一般に確実に通知:言語の少数者、テクノロジーにアクセスがない人びと、障がい者、子ども、高齢者を含む全人口が暑さにかんする勧告にアクセスできることを保障する。
  6. 熱波到来中に冷房対策がされた環境へのアクセスを確保:リスクのある集団をターゲットに、エアコンまたは日陰エリアへのアクセスを増やす。可能であれば、刑務所、学校、医療センター、公共交通機関など、政府が運営する公共施設・機関でそれらを提供する。
  7. 屋外働者の安全を確保:暑さによるストレスの評価、連続屋外勤務時間の制限や変更、労働者の休憩や水分補給の義務化、涼しい休憩エリアへのアクセスなどを含む予防措置を実施する。
  8. 暑さに関連した救急の健康被害に苦しむ人びとのための医療および公共サービスへのアクセスを確保:特に、熱波到来中の暑さに関連した疾病の急増に対応できる医療機関の受け入れ能力を確保する。
  9. 暑さの影響と緊急対応の有効性を継続的に監視:緊急対応措置の有効性と十分に満たされていないニーズに関して、リスクのある集団から意見を募る。特にもっとも危険にさらされている人びとをめぐり、熱波の全体像を速やかに調査する。これには、社会的・経済的・地理的要因に基づいた罹患率および死亡率データの収集が含まれる。
  10. 定期的に国家ならびに地方レベルの暑さ対応計画を改正・強化:緊急事態後の影響・対応の評価で特定された諸問題に対処するため、暑さ対策計画を更新する。

各国政府は、気候の人権への影響に備えて対処するためのリソースを等しく持っている。低所得国は、気候変動で悪化した暑さで最悪レベルのリスクに複数直面しているにもかかわらず、安定した持続可能なエネルギーや十分な医療サービスへのアクセスが欠如しており、結果としてもっとも備えができていない場合が多い。

国連環境計画の適応ギャップ報告書に基づいたある評価では、上昇し続ける気温に適応するにあたり、世界でもっとも貧しい国の4分の1が、もっとも裕福な国と比べ平均約15年遅れをとっていることが明らかになっている。今後、ガス排出量の多い発展途上国がそうでない発展途上国をよりよく支援していくことが、気候変動への公平な適応過程に必要不可欠となるだろう。

ラル上級調査員は、「暑さの影響について話すことは、予防可能な死と苦しみについて話すことだ」と指摘する。「各国政府はこの現実を受け入れ、気候変動の現行および近い将来の害から人びとを守るという人権の義務を果たすための措置を講じるべきだ。」

 

 

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