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日本:性同一性障害者特例法改正に向けた気運が高まる

強制断種や「精神疾患」診断などの要件を撤廃すべき

トランスジェンダー女性で教員の土肥いつきさん。京都府の高校にて。 ©2021 Shunki Kawabata

▪日本では、トランスジェンダーの人びとは、法律上の性別を変更する際に壁に直面する。

▪ 法律要件の一つとして強制的な断種手術があり、トランスジェンダーの人びとに対する広範な偏見を助長している。

▪ この人権侵害的かつ時代錯誤的な性同一性障害者特例法を改正すべきとの医学専門家、法律専門家の声に、日本政府はしっかり応えるべきである。

(東京)― 日本では、トランスジェンダーの人びとが法律上の性別認定を行う上での障壁がいまだ高いと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表した報告書で述べた。活動家や専門家は人権を侵害する時代遅れの性同一性障害者特例法を改正するよう求めている。日本政府はこうした声の高まりにしっかり応えるべきだ。

報告書「『尊厳を傷つける法律』:性同一性障害者特例法改正に向けた気運の高まり」(36ページ)は、トランスジェンダーの人びとが、性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(以下、性同一性障害者特例法)の下で、壁に阻まれ続けている実態を明らかにしている。現行の法律上の性別認定(戸籍記載変更)手続きは、断種手術と時代遅れの精神科医による診察を義務づけており、時代錯誤で有害かつ差別的だ。日本に住む多くのトランスジェンダーの人びと、国内の医療・法律・学術専門家、さらには国際的な保健・人権機関からは、同法は抜本的に改正されなければならないとの見解が示されている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチ日本代表の土井香苗は「トランスジェンダーの人びとは、人権を侵害し差別的な性同一性障害者特例法に対し果敢に反対の声を上げており、医学・法律・学術専門家の支持も広がっている」と述べた。「政策実務者は世論と現場の方針を受け入れて、最新の医学的・法的観点を反映した法律に改正すべきだ。」

このビデオの説明を読む

奈良女子大学 副学長

三成美保教授

日本でトランスジェンダーの人びとが法的性別を変更しようとすると

必ず医療的な処置を受けないといけません

この処置は体に非常に大きな負担を与えますし一旦行うと元に戻すことはできません

また、とても高額で長い時間が必要なんです

精神科医 

康純氏 

ホルモン療法を受けているトランスジェンダーの中には

日常生活の中で身体に対する違和感がないにも関わらず

手術要件があるために出術を受けざるを得ない人がいます

トランスジェンダー女性、高校教員

土肥いつき氏

手術するかどうかはトランスジェンダー本人が考えることで

それは書類上の性別記載の変更とは別であるべきです

法学者 

谷口洋幸教授

特例法そのものが性自認にしたがって生きることを保障する視点ではなく

既存の法制度にトランスジェンダーを無理やり当てはめるように設計されています

明治大学 非常勤講師

三橋順子氏

国際的な人権概念に照らして恥ずかしくない法制度を望みたいです

 

 

 

現行法では、トランスジェンダーの人が自らの性自認に基づく法律上の性別認定を望む場合、5つの要件を課している。すなわち「20歳以上であること、現に婚姻をしていないこと、現に未成年の子がいないこと、生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること、その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること」(性同一性障害者特例法第3条)である。

これら5要件はすべて日本の国際人権義務に反しており、世界保健機関(WHO)など医学専門家機関からも反対されている。特に一連の医学的要件はトランスジェンダーの人びとへの広範囲な偏見を助長している。診断要件は、トランスジェンダーというアイデンティティを「精神疾患」と捉える時代後れで侮辱的な考え方に基づいており、手術要件は、法律上の性別認定を求めるトランスジェンダーの人びとに対して、長期・高額で、侵襲的かつ不可逆的な医療処置を要求している。また離婚を強要し、20歳未満の人に法的な性別変更を認めないことは差別にあたる。

京都府の府立高校教師でトランスジェンダー女性の土肥いつきさんは、ヒューマン・ライツ・ウォッチに対して「特例法の5つの要件は、すべてトランスジェンダーの人生の選択肢を狭めるものです。トランスジェンダーの尊厳を傷つけているのです」と述べている。また、奈良女子大学副学長の三成美保教授は「5要件は、トランスジェンダーの『性』を《逸脱》から《正常》に変えるという発想に立っており、身体変更できない(変更したくない)トランスジェンダーへの偏見を助長しています」と指摘する。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは2016年から日本のトランスジェンダーに関して3本の報告書を出しており、この報告書は3冊目に当たる。2016年と2019年の報告書では、トランスジェンダーの人びとが、厳格な性別二元論に基づく硬直した学校制度になんとか対応し、仕事を探し、医療機関を利用し、家族を養うという基本的人権を実現するために苦闘する実態を明らかにした。

性同一性障害者特例法は2003年に成立し、2004年に施行された。当時にしてみれば、同法が特別だったわけではない。この時期に成立した世界各地の法制度にも、日本と同じような差別的で人権侵害的な条項が含まれている。しかし世界各国の立法府や裁判所、地域的人権裁判所や地域機関は近年、こうした要件が人権法に反するとの判断を示している。近年、世界各地では断種要件がすでに撤廃、又は手術を一切の要件としない法律が起草されている。スウェーデンオランダなどでは、過去に行われたトランスジェンダーの人びとへの強制断種を権利侵害と認め、サバイバーへの賠償が行われている。

同様に医療専門家の組織も各国政府に対し、法律上の性別認定手続から医療要件を削除するよう求めている。2019年、世界保健機関(WHO)が新たな国際疾病分類を発表し、「トランスセクシュアリズム」及び「性同一性障害」を「精神疾患」のセクションから除外した。トランスジェンダー男性の活動家の杉山文野さんは、このWHOの方針転換を受けて「WHOによれば私は精神疾患ではないのですが、自国の日本政府からは精神疾患だとされています」と訴える。年に一度の祭典である東京レインボープライドを主催するNPO法人の共同代表理事である杉山氏はこう述べる。「私は2009年に乳房切除手術を受けました。手術によって自分のアイデンティティを確認し、自分が感じるような身体にしたかったからです。しかし、私が知っている多くのトランスジェンダーの人たちと同じく、私も断種手術は望みません。」

時間の経過とともに、法的に定められた手順を踏んで、法律上の性別を変更するトランスジェンダーの人びとが増えている。2019年には948人が法律上の性別認定を受けた。しかし活動家からは、この法律のせいで性別認定手続きに踏み切れない人びとがいると指摘している。

「性同一性障害者特例法の5要件を過去のものとしなければならない」と、前出の土井代表は述べた。「日本は、早急に法改正に着手すべきだ。」

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