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インドネシア:反LGBTの取締りが公衆衛生危機に火をつける

差別的な警察の踏込み捜査が権利を侵害し、HIV予防の取組みを阻害

(ジャカルタ)—レズビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダー(LGBT)の人びとに対する差別にインドネシア政府当局が加担し、HIVの流行を加速させている、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表の報告書内で述べた。警察やイスラム過激派が私的なLGBTの集まりに対し、恣意的かつ不法な踏込み捜査を行っているにもかかわらず、政府はこれを止めないでいる。これにより、弱い立場にある人びとのための公衆衛生およびアウトリーチの取組みが事実上とん挫してしまっている。

報告書「『外は恐怖、今やプライバシーもない』:インドネシアにおける反LGBTの道徳パニックによる人権と公衆衛生への影響」(全70ページ)は、嫌悪的発言がLGBTと見なされた人びとに対するインドネシア政府当局による違法な行動(時としてイスラム系過激派組織とも協力)に転じている現状の詳細をまとめたもの。被害者や目撃者、医療従事者、活動家との綿密な聞き取り調査に基づき本報告書では、2016年にインドネシアで始まった反LGBTの攻撃および発言の急増を報告書として取りまとめた同年8月の報告書内容をアップデートした。2016年11月〜2018年6月の間の主な事件や、反LGBTの「道徳パニック」が性的およびジェンダー的少数者の人びとの人生とともに公衆衛生にも広範な影響を及ぼしている現状について調査・検証している。

ヒューマン・ライツ・ウォッチLGBTの権利担当調査員で本報告書を執筆したカイル・ナイトは、「インドネシア政府が反LGBTの道徳パニックに対処しないでいることが、公衆衛生にひどい影響をもたらしている」と指摘する。「政府は、LGBTの人びとへの人権侵害をめぐる自らの対応が、HIV問題を深刻な危険状態にしたことを認識する必要がある。」

2016年初めに政治家、政府関係者、各州の事務所が反LGBTの発言を行った。内容は同性愛の犯罪化から「治癒」、LGBTの個人の情報や活動に関する肯定的な報道の検閲まであらゆるものに及んだ。

インドネシアのHIV流行に対しては、ここ数十年の政府の対応で、新たな感染を遅らせることができていた。しかし、HIVの罹患者ならびに感染の危険がある層に対するスティグマおよび差別が広がっていることから、HIVにぜい弱な層の一部が、予防や治療サービスを避けている現実がある。結果として、男性同士で性交渉をしている人びと(MSM-men who have sex with men)の間で、HIV感染率が2007年以降に5%から25%と5倍に上昇した。インドネシアにおける新たなHIV感染の大部分は異性間で発生しているが、3分の1は男性間が占めている。

反LGBTの道徳パニックと不法な警察の踏込み捜査により、もっとも危険な状態にある層への公衆衛生アウトリーチがより困難になり、HIVウィルス感染拡大の可能性が高まっていると言える。

インドネシア警察は2017年中、LGBTの人びとが中にいると疑ったサウナやナイトクラブ、ホテルの部屋、ヘアサロン、および個人宅に踏込み捜査をおこなった。警察は個人の性的指向や性自認の推定を元に、同年だけで少なくとも300人を逮捕。これはそれまでの数年間と比較しても際立っており、史上最多だ。

在ジャカルタのトランスジェンダー女性で、アウトリーチに携わっているNigrat L.は次のように言う。「暴力は常にあり続けるでしょう…それはいつも私たちと一緒にありました。私たちの生活の一部なんです。それがノーマル。その日は運が悪かったのだ、まあ明日もそうかもしれないが、でももっとよい日になるかもしれない、とそんな風に理解しています。」

警察はソーシャルメディアのアカウントの監視活動を通じて、踏込み先を特定することがあり、時として裸の被拘束者らを警察官がメディアの前に晒したり、公の恥ずかしめ、違法行為の証拠としてコンドームを持ち出しての説法などがあった。2017年の3回の踏込み捜査の結果、スタッフが日常的にMSMにカウンセリングしたり、コンドームや自発的なHIV検査を提供していたMSM HIVアウトリーチの「ホットスポット」が閉鎖された。多くの注目を浴びたスラバヤや西ジャワ州での少なくとも二つの踏み込み捜査では、警察がメディアにMSMの被拘禁者を露出し、証拠としてコンドームを堂々と根拠にし、屈辱感を与えた。

ある在ジャカルタのHIVアウトリーチワーカーは、「こうしたクラブが閉鎖されたのはどうしようもないほど悲しいです。コミュニティを見つけられる唯一の場所だったので」と話していた。「クラブは私たちのホットスポットだったんです。隠れていた人たちも中では自分のセクシュアリティに安心できた。だから私たちもHIV検査を促したり、コンドームを配布できたし、参加をためらう人もいなかったんです。」別のアウトリーチワーカーは、「症状が本当に悪化するまで助けを求めたりHIVについて質問するのをためらうMSMが、ますます増えている現実を目の当たりにしています」と語る。

2017年12月にインドネシア憲法裁判所は、婚外交渉ならびに合意に基づく成人の同性愛行為の犯罪化を目指す申立を棄却、特にこの申立を「法的根拠なし」として、過度な犯罪化に警告を鳴らした。一方、2018年1月には、同意の上の性的関係を犯罪化する問題条項を含む刑法改正案の草稿が議会の様々な委員会内に出回り始めた。政府の草案作成作業部会代表は、その後、同性愛行為そのものの犯罪化への反対を表明したが、草案にはまだ婚外交渉の犯罪化が依然として残っている。

インドネシアへの今年2月の訪問の後、国連人権高等弁務官は、「LGBTIのインドネシア人は、すでにスティグマや脅し、威嚇に直面している。[前略]このコミュニティに対するヘイトのメッセージは、シニカルな政治目的のために利用されているように見受けられるが、これではLGBTIの人びとの苦しみを深め、不必要な分断を引き起こすだけだ」と述べている。

前出のナイト調査員は、「2016年初めに始まった政府関係者による辛辣な反LGBTメッセージが、暴力と差別に対する社会的許可と政治的隠ぺいを事実上認めてしまった」と指摘する。「政府はその道筋を修正するために、不法な警察の踏込み捜査をやめ、法律が決して差別を認めないと明らかにし、「多様性の中の結束」という自らのコミットメントに沿わなくてはならない。」

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