(バンコク)— タイマレーシアインドネシアの各政府は、ロヒンギャ民族やバングラデシュからの移民及び庇護希望者が乗船する漂着船の追い返しをやめて接岸を許可し、人命保護のための支援を提供すべきだ、と本日ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。

国際移住機関(IOM)の報告によると、多くて8,000人ほどのロヒンギャ民族とバングラデシュ人が、船内に十分な食料・飲料水もない不衛生な状態で、アンダマン海域およびマラッカ海峡に取り残されていると考えられている。2015年5月10日には、2,000人超が何週間も海上を漂流したすえ、マレーシアのランカウェイ島とインドネシアのアチェ州に上陸。乗船者は口々に、何日も食事をしておらず、密航船は窮屈で不衛生で、深刻な健康問題に苦しんでいると訴えた。

ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局 局長代理フィル・ロバートソンは、「ビルマ政府がロヒンギャ民族の迫害を続けていることが、今回の危機を招いた」と指摘する。「そして、タイ、マレーシア、インドネシアの各政府は新たに押し寄せる『ボート・ピープル』の波を冷たく追い返し、何千もの命を危険にさらした上で状況を更に悪化させている。各国政府はこれら3カ国の政府に対し、協力して人びとを救出し、人道支援を施すよう促すべきだ。国際的保護を必要としている人びとのためには、難民保護・再定住手続を進めることも必要だ。」

インドネシア政府当局は、5月11日に漂流船1隻に食料と飲料水を提供したのち、マレーシアへ向かうよう指示したことを認めている。マレーシアではワン・ジュナイディ・トゥアンク・ジャーファル(Wan Junaidi Tuanku Jaafar)副内務大臣が、政府はこうした船を追い返し、上陸した人間は強制送還すると公言した。タイ政府高官も、燃料・食料・飲料水を提供した後に沿岸から船を退去させる政策を導入したと語っている。タイのプラユット・ジャンオーチャー首相はこの事態を受けて、5月29日に地域会合の開催を求めた。バングラデシュは長年ロヒンギャ民族の乗る船の受け入れを拒否しており、ロヒンギャの人びとは東南アジアへの危険な航海を余儀なくされている。

過去何年間にもわたり密航業者は、ビルマ西部アラカン州のロヒンギャ民族をタイの海岸まで密航させてきた。最近はバングラデシュ人の密航者も増加している。上陸後人びとは、身代金目的でジャングルの収容所に拘禁され、6、7万バーツ(1,800〜2,100米ドル)払えれば釈放されて、マレーシアに移動できる仕組みとなっている。支払えなければ、拘禁などの人権侵害が続くと報告されている。

タイ政府は5月1日、マレーシアとの国境に位置するサダオ地区のジャングル収容所へ立入捜査を敢行し、26人の遺体を発見。以降、こうした密入国ネットワークの大規模な取締まりをさらに拡大させている。その結果、タイ国軍および警察が同様の収容所や集団墓地を次々と発見しており、収容所の看守たちが逃亡するなか、250人超の生存者が収容所を脱出し、タイ政府当局に拘禁されている。一連の取り締まりでタイ経由の密入国ルートが事実上遮断されたことから、海上に待機していたロヒンギャ民族およびバングラデシュ人の乗船する「人間貨物」のタイ上陸が不可能になった。その結果密航業者は、乗船者をマレーシアまたはインドネシアに上陸させようとするか、そうでなければ海上に置き去りにしている。タイ政府当局の最上層部は、長きにわたってこうした密入国あっ旋ルートの存在を把握していたものの、黙認していた。

前出のロバートソン局長代理は、「タイ、マレーシア、インドネシア海軍は、悲惨な状況に陥った乗船者を押し付けあう『人間ピンポンゲーム』を止め、協力して人命救助に取り組むべきだ」と述べる。「あまりに悲惨な状況におかれているこの男性、女性、そして子どもたちをいかに扱うか、世界はこの3カ国の対応に注目している。」

ロヒンギャ民族の国外脱出は、ビルマ政府の組織的な人権侵害に起因する。差別的な国籍法(1982年)により、ビルマ国籍を事実上認められていないのだ。ロヒンギャ民族は2012年10月、アラカン州全域で攻撃の的となった。ヒューマン・ライツ・ウォッチは一連の暴力事件を調査した結果、民族浄化かつ人道に対する罪に該当すると結論付けた。 ロヒンギャ民族の家々が数千軒規模で破壊されたため、大規模な住民追放が発生したが、犯罪の責任を問われた個人は皆無だ。13万人超のロヒンギャ民族が国内避難民収容キャンプに閉じ込められ、生計を立てるのに必要な移動の自由さえわずかしか許されていない状態にあり、食糧や医療、教育への十分なアクセスも欠いている。

ビルマ政府は2015年4月1日、国籍を持たないロヒンギャ民族に発行された仮身分証明証「ホワイトカード」(一時的身分証明証)を正式に取り消した。これでロヒンギャ民族は最後の身分証明書類を奪われたことになり、身分証明証が前提条件だった投票権も併せて剥奪されたことになる。

終わりのない迫害と貧困に対する恐怖から、これまでに何万人ものロヒンギャ民族が国外へ脱出した。マレーシアなどへの密航船での移送を請け負う密入国業者の手によりビルマを脱出した人の数は、2015年1-3月だけで約2万8,500人と、アラカン・プロジェクト(ロヒンギャ民族の移動を長年モニターしてきた団体)は見積もる。国連難民高等弁務官事務所の報告によると、海上での死亡者数は約300人にのぼる。

前出のロバートソン局長代理は、「もし東南アジア諸国政府が、大規模なロヒンギャ民族のビルマ脱出を真摯に憂慮するのであれば、ビルマ政府に対し、悲惨な状況におかれたロヒンギャ民族に対する広範な人権侵害を即時停止するよう要求すべきだ」と述べる。「差別政策が撤廃され、全面的な安全が保障されれば、ロヒンギャの人びとは安全と尊厳をもってアラカン州の故郷に戻ることができる。まずはそこから始めるべきだ。」