(ローザンヌ)— 国際オリンピック委員会(IOC)が今後の五輪開催都市との契約に人権保護の条項を盛り込むという決断は、北京五輪およびソチ冬季五輪でみられたような一連の重大な人権侵害の防止に役立つだろう、と本日ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。開催都市契約は一般に非公開で、これまで公に人権保護条項の有無について語られることはなかった。
12月にはモナコで「五輪アジェンダ 2020」会合が開催される予定。ヒューマン・ライツ・ウォッチはこれに向けて、ほか40の権利団体(ジャーナリスト保護委員会、オールアウト、ヒューマン・ライツ・キャンペーン、アスリート・アリーほか)と共同で制度改革をめぐる提言をとりまとめ、同会合に対し正式に提出した。
ヒューマン・ライツ・ウォッチのグローバル・イニシアチブ部長ミンキー・ワーデンは、「抑圧的な各国政府はこれまで長きにわたり、堂々と五輪憲章を蹂躙し、五輪開催のための公約を反故にしてきた」と述べる。「今回の改革は、高尚な五輪のうたい文句に実質的な力を与え、スポーツを『善行の使者』に仕立てることを可能にするものだ。」
五輪憲章が謳う「人間の尊厳」と「非差別」を擁護するための実質的な取組みが、ローザンヌのIOC本部で行われたトーマス・バッハ会長とヒューマン・ライツ・ウォッチとの会合で提示された。この会合の前の9月には、IOCが今後の開催都市契約には差別禁止条項を盛り込むと発表している。今回の改革はソチ冬季五輪をまえに、ロシアが反同性愛法を可決したことを受けたものだ。
改革は前進の重要な一歩ではある。が、かぎはその実施にあり、2022年の冬季五輪開催地に立候補している抑圧的な中国およびカザフスタン政府に向け、特にこれが当てはまるといえる。また開催都市契約の公開性・透明性も重要な要素であり、ヒューマン・ライツ・ウォッチは長らくこの実現を強く求めてきた。
2008年の北京五輪と2014年のソチ冬季五輪に先立ち、ヒューマン・ライツ・ウォッチは五輪をおとしめる重大な人権違反を調査・検証した。これらには五輪関連施設の建設に従事する出稼ぎ労働者ほか関係者に対する人権侵害や、マスメディアに対する報道制限、独立系団体による活動の場の閉鎖、活動家の投獄などがある。加えて、五輪憲章にも抵触するサウジアラビアの女性選手に対する継続的な差別も調査・検証している。
開催都市契約の改正には、「持続可能な人間・環境開発」と題された条項も含まれることになる。これの義務づけるところは、開催都市、国内オリンピック委員会およびオリンピック組織委員会が、「五輪関連組織が必要とする開発計画は地元・地方・国の法律に沿うこと、そして計画・建設・環境保護・保健・安全・労働法をめぐり、開催国で適用される国際協定・調書に沿うことを保障するのに必要な、すべての措置をとる」だ。
これこそが、今後の開催国/都市に契約上課された義務の数々を意味する。具体的には、市民的及び政治的権利に関する国際規約と、主な自由権に関連する国際労働および諸法の遵守などだ。
アジア競技大会や新手のヨーロッパ競技大会、そして国際サッカー連盟(FIFA)が運営するサッカーW杯といった国際的な巨大スポーツイベントの主宰組織も、開催都市契約に人権保護を即時追加する方向に動くべきだ。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは今後も、五輪開催地に立候補している都市(国)の人権状況について、最新の調査結果をIOCや広く一般に向け発表していく予定。
前出のワーデン部長は、「五輪開催都市との契約に人権保護を盛り込んだ国際オリンピック委員会の決断は、ほかすべての競技連盟が達すべき水準を引き上げるものだ」と指摘する。「これは国際競技に押し寄せる変化の波の兆しだ。FIFAほか国際競技連盟は、速やかにIOCの後に続くべきである。」