(ベルリン)シリア政府は民間人を殺害しながらの戦争継続を方針とし、反体制勢力も人権侵害に益々手を染めたため、2013年には悲惨な状態となった。しかし国際社会の指導者らは、この残虐行為を止めて責任を問うための十分な圧力をかけなかった。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、本日発行の『ワールドレポート2014』でこう述べた。2013年にはアフリカでも複数の重大な人権侵害が発生したが、国際社会はシリア内戦よりも効果的に対応した。

世界の人権状況を評価した24回目の年次報告書(全667頁)で、ヒューマン・ライツ・ウォッチは90か国以上でおきた主要な人権問題をまとめた。多くの国で、民主主義とは多数派による支配であるとの誤解がまかりとおり、統治者はこうした見方を背景に、少数派の見解や少数者グループを抑圧した。とくにエジプトでこうした動きが見られたと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。またこうした多数派至上主義の結果、一部の政府は文化的な「適切さ」を狭く解釈し、とくに女性やゲイ、レズビアンを攻撃した。現在の世界は電子通信抜きではほぼ成り立たないが、内部通報者のエドワード・スノーデン氏による暴露が示したのは、米国政府の大規模な諜報活動が、わたしたちのプライバシーのかなりの部分を裸にしている事実だ。しかし、こうしたプライバシーの権利への攻撃には世界中から抗議の声が上がっており、変化の希望もある。

「シリアでは死者数が激増し、おぞましい人権侵害の件数も急増した。しかしロシア政府と中国政府は国連安全保障理事会を骨抜きにし、内戦の当事者双方による民間人の殺害を看過した」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのケネス・ロス代表は述べた。「和平交渉(ジュネーヴⅡ)が始まるが、その成否は不透明だ。今回の交渉を、シリアでの民間人保護をサボタージュする新たな口実にさせてはならない。そのためには、民間人の殺害を停止し、生存に必要な人道援助の配布を許可するよう、本気で圧力を掛けることが必要だ。」

ロシア政府は中国政府の支持を受けながら、シリア政府が、国連での国際的な制裁(名指しでの非難、武器禁輸措置、国際刑事裁判所=ICCへの付託)の対象とならないよう動いてきた。しかし米国政府も、自国の都合からICCでの訴追を目指すことに消極的だった。報道によれば、湾岸地域では国家レベルと個人レベルで、残虐行為を行う過激派組織への武器・資金援助がなされている。イラン政府とヒズボラは人権侵害に手を染めているアサド政権を支援している。

「保護する責任」は、2005年に世界の指導者によって宣言された原則で、弱い立場にいる人びとを大規模な残虐行為から保護する国際社会などの責任のことだ。シリアでは「保護する責任」は果たされなかったものの、アフリカの複数の国で大規模な残虐行為が予見された事件では、(大規模な殺害を防ぐにはまだまだ不十分とはいえ)一定の対応が行われた結果、2013年は「保護する責任」について前進があった年と結論づけることができると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。中央アフリカ共和国と南スーダンでは、アフリカ連合、フランス、米国、国連が民間人の虐殺を防ごうと、国際ミッションを増派した。友好国の働きかけと国連平和維持部隊の増援が圧力となり、ルワンダはコンゴ民主共和国東部で残虐行為を行う反政府勢力に対し、これまで続けてきた軍事支援を停止した。

2013年のその他の特徴的傾向としては、かなり多くの政府が民主主義を口では唱えながら、民主的統治の核となる人権の尊重を実際には怠っていた。ビルマやエジプトなどの新政権は、多数派の意思を政策としただけと主張して、多数派の意思であっても無制限ではないことを看過した。真の民主主義国家は、反体制派や少数者の権利も保護する義務があり、多数派意思でもこの点は制限されることは言うまでもない。とはいえ人びとはこうした民主主義への攻撃を座視せず、トルコやタイ、ウクライナなど多くの国で広範な抗議行動が起きた。エジプトでは、ムスリム同胞団の政権も国軍が支配する政権も、ともに政府の権力に適切な歯止めを課さなかった。しかし国軍がムスリム同胞団政権を打倒したことに対して大規模な反対運動が起き、最近の同国史上ではもっとも多くの犠牲者が出る事態となった。

「権威主義的な政府は、民主主義の中身ではなく外見だけを利用した。すべては選挙の投票日に決まってしまい、あとの364日については人びとの議論を許さないかのようだ」と、前出のロス代表は述べた。「このように民主主義の仮面をかぶった政権は基本原理を無視した。法は権力者にも適用されるのであり、政府は言論の自由を尊重し、社会でつまはじきにされている少数者の権利も擁護しなければならないのだ。」

スノーデン氏が、米国のイエメンとパキスタンでの暗殺作戦の影響について情報を暴露するなどした結果、テロとの戦いで生じる人権侵害を隠蔽しようという、米国の企みは揺らいだ。世界的な電子情報盗聴体制と無人機による暗殺作戦に、大衆の厳しい目が向けられるようになった。米国政府によるテロとの戦いが引き起こした人権侵害は明らかになったが、まだ人権侵害そのものは終わっていない。だが変化を求める国際的な圧力が新たに生じている、と、ヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘した。

バラク・オバマ米国大統領は、容疑者を強制失踪させ、CIAの秘密収容所で拷問するなどのブッシュ政権時代のプログラムの一部を中止させた。しかし拷問を命じた人物の訴追はおろか、犯罪の調査を行おうとする取り組みすら妨害している。5月にオバマ大統領は、無人機攻撃を、アルカイダや関連組織に対する世界的な戦争の一環として行うことを近く停止すると示唆し、民間人犠牲者の発生を防ぐ、厳密な方針の概要を明らかにはした。しかしこうした方針が現実に実施されているかは不明だ。 

スノーデン氏による暴露を受け、世界中に怒りが広がった。世界レベルでの無差別な諜報活動は、人権を著しく損なうものであると非難する国連決議が採択された。米国大統領が設置した諮問委員会は、メタデータ大量収集の停止、実効性のある司法審査の実施、米国人以外のプライバシー保護の強化、透明性の拡大を勧告した。言論の自由を尊重しない政府の一部は、ユーザーデータを自国内に留めると主張する可能性があるが、これはインターネット上の検閲強化につながりうる。 

2013年には、人権保護に向けた国際メカニズムの発展について重要な動きがあったと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。国連人権理事会は、重大な人権侵害者に効果的な圧力をかけることについて、一層の成果を挙げている。北朝鮮やスリランカの人権決議が一例だ。また、注目をされない世界的にも周辺化された人びとの一部に、希望を与える2つの条約が新たに成立した。多くの国でこれまで労働法の適用対象外とされてきた家事労働者(家政婦)と、規制なしの水銀使用ゆえに健康被害に苦しむ小規模採掘者だ。

「昨年2013年は、シリアをはじめとして、ほんとうに多数の国で残虐行為が発生し、弾圧が強まった国も多い」と、ロス代表は述べた。「しかし世界各地で、人びとが人権侵害を行う体制に抗して立ち上がった。これは、人権抑圧に対しては必ず抗う強い動きが生まれると希望を抱かせるものだ。」

2013年の出来事 国別報告 日本語訳

インドネシア:https://www.hrw.org/world-report/2014/country-chapters/122342

カンボジア:https://www.hrw.org/world-report/2014/country-chapters/122338

スリランカ:https://www.hrw.org/world-report/2014/country-chapters/122340

ビルマ:https://www.hrw.org/world-report/2014/country-chapters/122339

ベトナム:https://www.hrw.org/world-report/2014/country-chapters/122341