The funeral in Majer for 34 victims of a NATO air strike on two rural compounds on August 8, 2011.

© 2011 Sidney Kwiram/Human Rights Watch

(ブリュッセル、2012年5月14日)-NATO(北大西洋条約機構)は、2011年のリビア軍事介入における空爆で数十人の民間人が死亡した事実を認めていない上に、民間人を死亡させた空爆の調査も行っていない、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表した報告書で述べた。これらの空爆は違法だった可能性がある。

報告書「認められない犠牲:NATOのリビア空爆作戦による民間人犠牲者」(全76ページ)は、女性20人と子ども24人を含む民間人72人が死亡した、リビアでの8度にわたるNATO空爆を詳細に調査検証している。本報告書は、ヒューマン・ライツ・ウォッチが、紛争中および紛争後に各空爆の現場を一度ないし複数回訪問し、現場検証および目撃者や地域住民への聞き取り調査などから入手した情報を基に作成した。

本報告書の主著者でヒューマン・ライツ・ウォッチの特別アドバイザーであるフレッド・アブラハムは、「NATOはリビア軍事介入の際、民間人犠牲者を最小限に抑えるために必要である重要な措置を講じてはいた。それにもかかわらず、なぜ72人の民間人が死亡したのかを明らかにするため、情報や調査が必要だ。軍事目標に対する攻撃しか認められていないのに、NATO軍が何を空爆したのかについて重大な疑問が残るケースがある」と述べる。

NATOによるリビア軍事介入は2011年3月から10月まで続いた。国連安保理が、当時のムアンマル・カダフィ政権の治安部隊による攻撃から民間人を守るために権限を付与した。

NATOの空爆による民間人死者数は、空爆の規模や作戦期間を考慮すれば、少なかったと評価できる。しかし、ヒューマン・ライツ・ウォッチが訪れた8カ所の空爆現場のうち7カ所には、明確な軍事目標がなかった。つまり、これらの空爆が戦争法違反だった可能性が生じるのであり、調査が必要とされる。

ヒューマン・ライツ・ウォッチはNATOに対し、国際法違反の可能性があるすべての空爆を調査した上で、リビアへの軍事介入権限を付与した国連安保理に対し、その調査結果を報告するよう求めた。

また、5月20日と21日にシカゴで開催されるNATO首脳会議で、リビア空爆による民間人犠牲者への対処を協議すべきである。

今回のヒューマン・ライツ・ウォッチの報告は、これまでに行われたNATO空爆による民間人死者に関する調査のなかで最も詳細である。NATOの空爆により民間人が死亡したとされるすべての現場を訪問して検証。ただし、民間人の負傷や民間人の財産破壊をもたらしたものの、死者は出なかった空爆現場は除いている。

最大の犠牲者を生んだのは、2011年8月8日、リビアの首都トリポリから東に160キロに位置するマジェル村での空爆。当時、NATOは家屋敷地2カ所を複数回空爆し、民間人34人を殺害、30人以上を負傷させた。片方の敷地には、数十人の避難民が滞在していた。

目撃者たちによると、その敷地のすぐそばに投下された2度目の空爆の結果、最初の爆撃の被害者を捜索するために集まった複数の民間人が死傷した。爆弾の投下には赤外線装置が使われており、多数の人びとが地上に存在しているという情報がパイロットにもたらされていたはずだ。そのパイロットは、地上の人びとが戦闘員であるという確信を持っていなかった場合には、空爆を中止、もしくは回避すべきであった。

戦争法上、紛争当事者は軍事目標にのみ攻撃を許される。そして、民間人への危害を最小限に抑えるため、あらゆる実行可能な回避措置を取らなくてはならない。民間人犠牲者が発生したからといって、必ずしも戦争法違反があったということを意味しないものの、各国政府は、重大な違反疑惑に対しては調査を行った上で、違法な攻撃による被害であった場合には、被害者に対して損害賠償を行う義務を負っている。

また、NATOは、アフガニスタンで行ったような、NATOの攻撃による民間人犠牲者に対して、違法・適法にかかわらず支払いを行うプログラムを検討すべきだ。

ヒューマン・ライツ・ウォッチが検証し、報告書にまとめた空爆現場のうち7つでは、リビア軍、兵器、ハードウェア、あるいは通信機材が空爆時に存在していたことを示す一切の証拠がなかったか、あるいは、その可能性を示すものしかなかった。よって、これらの建物(すべて居住用建物)が、正当な軍事目標であったかについて重大な疑問がある。女性3人と子ども4人が死亡した8番目の空爆現場では、あるリビア軍将校ひとりが軍事目標であった可能性がある。

NATO当局は、ヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、すべての標的は軍事目標だった、したがって正当な目標だったとしている。しかし、NATOはその主張を裏づける詳細な情報は提供せず、標的とされた現場は”command and control node”あるいは”military staging ground”だったなどと述べるに留まっている。

空爆されたマジェル村の家屋は、カダフィ軍の「中継基地で兵舎として使われていた」とNATOはしているものの、その主張を裏づける詳細な情報は提供していない。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、空爆翌日を含めマジェル村を4度訪問したが、その際発見した軍の存在を示す可能性のある唯一の証拠は、破壊された家屋3棟の残骸にあった軍服様式のシャツ1枚――リビアでよくある衣服――にすぎない。

マジェル村の家族や近隣住民は、空爆の前や空爆時に、敷地に軍人はおらず、軍事活動も行われていなかった、と口々に話していた。

母親、妻、そして8カ月の娘を亡くしたムアンマル・アルジャルドは、「なぜNATOがこんなことをしたのか不思議でならないんです。なぜ私たちの家だけを? 戦車や軍事車両が周りにあったとでもいうなら受け入れますよ。でも我々は全くの民間人です。民間人は攻撃してはいけない決まりでしょう?」と話した。

空爆で民間人死傷者が出た8件の事件について、ヒューマン・ライツ・ウォッチは空爆現場を何度も訪問し、使用された兵器の残骸の検証、目撃者への聞き取り、医療カルテと死亡診断書の分析、人工衛星による画像の精査、死傷者の写真を収集といった調査を行った。目標設定にかかわったNATO幹部らとの2011年8月の会合などの場で、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、NATOおよび空爆に関与した加盟国に詳細な質問票を提出している。

NATOの権限は、リビアの民間人を守るために武力の行使を承認した国連安保理決議第1973号に基づく。7カ月におよぶ軍事作戦の期間中、民間人犠牲者の数が比較的少なく抑えられた事実は、NATOが民間人被害を最小限に抑えようと配慮したことを示す。

ロシア政府などが、NATOのリビア空爆による民間人死者を過大に誇張して主張したが、何らの根拠もなく行われた主張にすぎない。

前出の特別アドバイザーのアブラハムは、「NATOによってリビアの民間人が極めて多数殺されたとしてNATOを批判した政府は、民間人を守るというより、政治的なポイントを稼ごうとしていただけだ」と指摘。

NATOは、地上で活動する権限を与えられていないので、民間人犠牲者に関する作戦後調査を実施できないと主張している。しかし、NATOはいまだにリビア暫定政権に対して、民間人犠牲者事件に対する調査の許可申請を行っていない。まずは速やかに許可を申請すべきだ。

前出のアブラハムは、「数十人の民間人死者事件の調査をNATOが拒否していることで、NATOのせっかくの配慮措置全体に影を落とす結果となっている。必要とされるのは、誤った空爆による犠牲者に賠償を行うこと、そして将来の戦争で民間人犠牲を最小限に抑えるために過去の過ちから学ぶことだ」と述べる。