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(ニューヨーク)-ヒューマン・ライツ・ウォッチは、反政府武装グループが重大な人権侵害を犯していると、シリア国民評議会とその他主要な反政府グループに宛てた公開書簡で述べた。治安部隊隊員、政府支持者、シャヒーバ(shabeeha)と呼ばれる親政府民兵組織メンバー等に対する誘拐、拘留、拷問などの人権侵害が行われている。更にヒューマン・ライツ・ウォッチは、反政府武装グループが、治安部隊隊員や民間人を処刑したという報告も入手した。

反政府勢力の指導者らは、人権侵害に手を染めているメンバーを非難し、侵害行為を禁ずるべきである。ヒューマン・ライツ・ウォッチが入手した発言や声明などからは、一部の攻撃が、アサド政権を支持するシーア派やアラウィー派への反感を理由として行なわれたことが窺われる。

ヒューマン・ライツ・ウォッチ、中東・北アフリカ局長サラ・リー・ウィットソンは「反政府武装勢力による人権侵害を、シリア政府の残虐な戦略を理由に正当化することは出来ない。反政府勢力指導者は、自らの部下らに対し、いかなる状況下でも拷問、誘拐或いは処刑を行ってはならないと明確にしなければならない」と語る。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、シリア政府軍部隊による強制失踪、拷問の多用、恣意的拘束、住宅地への無差別砲撃などの、広範囲な人権侵害を再三にわたり調査報告し、非難してきた。

2011年9月まで、シリアでの抗議運動の圧倒的多数は非暴力だった。しかしそれ以降、治安部隊の襲撃から自らを守るため、或いは自分たちの街の検問所や治安施設を攻撃するためとして、住民や脱走兵が武器を手にするケースが増加傾向にある実情を、報道その他の情報が明らかにしている。2012年2月初旬に政府が国内全域に於ける反政府勢力の拠点に対して大規模な軍事攻撃を開始して以来、戦闘は激しさを増してきている。

人権侵害を行っていると報道された反政府グループの多くが、組織化された指揮系統に属していない、或いは、シリア国民評議会の命令に従っていないとみられる。しかし反政府勢力指導部は、そのような人権侵害に明確な意見を述べ非難する責任がある。3月1日にシリア国民評議会は、自由シリア軍などの反政府武装グループと連絡を取り合い、統一し、監督するための軍事局を創設している。

自由シリア軍その他の反政府部隊に拘束されている、シリア政府治安部隊隊員とシャビーハ民兵を含む全ての人びとは、国際人権基準に沿って人道的に処遇されるべきである。

前出の中東北アフリカ局長ウィットソンは「人権保護は、反政府勢力にとって必要不可欠。反政府勢力は、人権侵害に汚れたアサド時代を変え、所属する宗教や出自に拘わらず、差別なく全ての人を迎え入れるシリアをつくろうとしていると明確にする必要がある」と指摘する。

誘拐

多くの目撃者がヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、自らを反政府勢力であると名乗る国家に属しない武装勢力が、民間人や治安部隊隊員を誘拐していると話した。シリア人活動家「マゼン」によるヒューマン・ライツ・ウォッチへの話では、イドリブ州サラケブの北部に位置するタフタナズ村のアブ・イサ(Abu Issa)グループのメンバーが彼に、政府に協力した人びとを誘拐して拷問し、そのうち3人を死に至らしめたと述べたそうである。また、「マゼン」は、サラケブの反政府兵士に誘拐され拘束されていたシリア治安部隊隊員と話をした時の様子を、以下のように話した。

「捕まっていたある人は、自分はハラブの国立病院で一等アシスタントだったと話していました。私は革命家たちに彼を連れてきて欲しいと頼んだところ、彼と話すことが出来ました。反政府勢力の兵士に電気コードで頭を殴られ、目隠しをされ、更に親に電話で連絡を取らせられて釈放のための身代金を要求されたと言っていました。」

サラケブの自由シリア軍と密接に活動してきたと話す、もう1人のシリア活動家「サミフ」によると、彼がサラケブにいた時に、自由シリア軍の正式な構成部隊ではないサラフィ派グループのアル・ヌル大隊(Al-Nur battalion)が民間人を身代金目当てで誘拐していることに対し、地元住民が自由シリア軍に何度も苦情を言っていたのを目撃したそうだ。「サラケブ住民はあの大隊にうんざりしているんです。彼らは自由シリア軍に介入を頼んだにも関わらず、アル・ヌル大隊は自由シリア軍の要望に応えませんでした。」と彼は話した。

「サミフ」は、自由シリア軍の隊員も兵士を誘拐していたと言い、以下のように話した。

「彼らは政府軍兵士を誘拐して、解放する代わりに身代金を払えと親に要求していました。サラケブの自由シリア軍が、大統領護衛隊所属の大佐を誘拐した時は、その報復に政府軍がサラケブに住む15歳と16歳の子どもを2人拉致しました。私は自由シリア軍隊員と自治体政府の職員の人質の交換交渉に協力していました。その時、2人の子どもの親から、電話を通してなるべく早く交渉を進めてほしいと頼まれました。誘拐した人たちから家に電話が掛かって来て、子どもが拷問されてるのが聞こえたらしいのです。自由シリア軍が大佐を解放したら、子どもも返して貰えると言っていました。結局、大佐との人質交換は成功し、子どもたちは無事に解放されました。」

ホムスで活動している別の反政府勢力であるアル・ファルーク大隊のメディア・コーディネーターはヒューマン・ライツ・ウォッチに、兵士を誘拐はしていないが、軍事行動の際に捕えてはいる、として以下のように述べた。

「我々は兵士を誘拐していない。交戦の際、自由シリア軍に包囲された政府軍兵士が、アル・ファルークに投降しているのであり、つまり我々は兵士を誘拐ではなく、単に捕えているだけである。兵士を捕えた後、自由シリア軍は政府に彼らの釈放について交渉を呼びかけるが、政府は捕虜になった兵士に興味はなく、あっさりと拒否する。捕虜は刑務所ではなく、1つの部屋に置かれている。部屋にはカギ付きのドアがあるだけで、窓はない。アル・ファルーク大隊は彼らをとても良く処遇している。」

また、ヒューマン・ライツ・ウォッチは自由シリア軍がイラン国籍者を拉致し、さらに拉致被害者の一部が民間人であることに、懸念を表明した。アル・ファルーク大隊は1月26日、イラン国籍者7人を拉致したという犯行声明を発表し、そのうちビデオに映されている5人が、イラン治安部隊メンバーであると主張した。2月22日にヒューマン・ライツ・ウォッチの聞き取り調査に応じた、アル・ファルーク大隊のメディア・コーディネーターは、捕えた他の2人は民間人だが、彼らを捕えた時ペルシア語を話せる者がいなかったために間違ったのであり、彼らが民間人であるというのは後日判明した、と述べた。しかし、なぜ民間人がまだ解放されないのか、との問いにはノーコメントだった。

シリア国内で活動しているイランの電力会社、MAPNAグループは、シリア国営報道機関SANAに、戦闘員であると非難されている5人は、実際はイラン人技術者であると述べた。イスラム共和国ニュース・エージェンシー(The Islamic Republic News Agency)は、7人全員が2月10日に解放されたと報道したが、2月15日にそれが誤報であり、彼らは拘束され続けていることが明らかになった。アル・ファルーク大隊のメディア・コーディネーターは、7人はまだシリア内で拘束されているが健康状態は良好である、とヒューマン・ライツ・ウォッチに3月16日に述べた。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、政治的動機による拉致に加えて、他の武装グループが、反政府勢力を名乗って住民を拉致している可能性を示唆する情報も入手している。ホムスのカラム・エル・ゼイトゥンのアラウィー派住民である「マルワン」は、ヒューマン・ライツ・ウォッチに、1月23日に武装ギャングが彼の居住区に侵入し、自宅から年老いた両親を誘拐したと、以下のように話した。

「武装ギャングが家に侵入した時、父は僕に電話をしてきたけど、電話は彼らに奪われてしまいました。僕から電話を掛け直しても通じず、隣人に電話をしたところ、父と母が車に乗せられ、南の方に連れて行かれたと教えてくれました。次の日、ギャングの親分『アビース』から電話が掛かってきました。両親は無事だということを伝えられ、両親の身代金としてお金と武器を要求してきました。僕は、父の声を聞かせてくれたら、欲しいものは何でも手に入れると応えました。」

「父と話すことが出来ました。彼は僕が泣いているのに気付いて、『泣くんじゃない。怖がることもない。僕は怖くない。神様がお定めになったことなんだよ』と言ってくれました。父の武器はコーランなんです。『心配するんじゃない。彼らの言うことには耳を傾けるな』とも声をかけてくれました。その後、電話は切られ、何度掛け直しても通じませんでした。」

「次の日も僕は掛け続け、やっとアビースが出ました。彼は暴言を吐いたあと、電話を掛けるのを止めろ、お前の親はもう殺した、と言いました。その後、両親の遺体がユーチューブに載っているのを見ました。何度もお願いしたのに、遺体は返してもらえませんでした。お金が欲しいからでしょう。僕は政府の支持者ですが、これは宗派に対する反感とお金が動機の犯罪です。父は政府とは何の関係もないんです。」

拷問

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、シリア政府治安部隊或いはその支持者とみられる人が、脅迫の末作成させられたとみられる声明を読み上げて犯罪を自白しているユーチューブ上の少なくとも25本の映像を精査した。それらのビデオのうち少なくとも18本で、被拘禁者に痣や出血、その他身体的虐待の跡が見られた。ただし、ヒューマン・ライツ・ウォッチはそれらのビデオの真偽を独自に検証できていない。

あるビデオでは、字幕でシャビーハ民兵だと書かれている3人が、名前、出身地、宗派、そしてタル・カラフで何をしているのかを尋ねられていた。その尋問の間、彼らは正座させられ、両腕を縛られているのが見てとれた。1人の顔には明らかに痣があった。全員がシーア派で、ホムスのエル・ラブウィー出身だと述べ、非暴力の抗議運動参加者を殺害した事を「自白」していた。

自由シリア軍ハレド・ビン・アル・ワリド大隊の紋章が付いたもう1つのビデオでは、字幕でシャビーハ民兵だと書かれた姓名不詳の人物に対する尋問の様子が映されていた。その人物は縛られているように見え、顔には痣があった。ビデオの終盤で、人物は嫌疑を否定。尋問者は嘘つきと言って、ビデオ撮影者に撮影中止を伝え、カメラに写っていない誰かに、その者を“電気椅子”に連れて行けと指示していた。

処刑

ヒューマン・ライツ・ウォッチが精査した他のビデオと聞き取り調査で得た情報からは、反政府武装勢力メンバーたちが、反政府勢力に対して罪を犯したとみられる者を拘束中に処刑したことが読み取れる。

2月4日にユーチューブに公開されたビデオには、数人の武装戦闘員の前で、立木を使って絞首刑にされた男性が映っている。解説は、その男性がシャビーハ民兵組織戦闘員で、自由シリア軍のカフル・タハリム大隊に1月22日に捕えられ処刑されたと述べている。自由シリア軍アル・ファルーク大隊によってユーチューブに公開されたとみられるもう1本のビデオは、ホムスの空軍情報部部員であると名乗る者が、抗議運動参加者を撃ったと尋問で自白している様子が映っている。捕えられている者の顔は激しく暴行を受けていて、切り傷や痣があり、混乱しているように見える。ビデオの字幕には、当人物の処刑前にそのビデオが撮影されたと書かれており、ビデオに映っている尋問担当者は、暴言を吐きつつも死ぬ前の最後の願いは何かを尋ねている。

アル・ファルーク大隊のメディア・コーディネーターはヒューマン・ライツ・ウォッチに、別の空軍情報部部員の処刑について話した。「ホムスでの恐ろしい大量殺人の実行犯は空軍情報部でした。だから、そいつの殺害は復讐ですよ。」 

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