(ダカール)-ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表の報告書で、コートジボワール共和国の西部地域の重武装した犯罪集団が、暴行、強盗、性暴力などの容赦のない人権侵害を地域住民に繰り返している、と述べた。こうした暴力行為を防ぎ対処する任務を怠ってきたコートジボワール関係当局。当局は、深刻な被害を受けている地域でのパトロールを実施するとともに、犯罪を捜査・訴追すべきである。また、住民を保護しない治安部隊員への懲罰も必須である。
報告書「見放された恐怖:コートジボワール西部にまん延する無法状態、レイプ、そして不処罰」(全72ページ)は、西部地域の中カヴァリ州と十八山州で、残虐な暴力と性暴力が蔓延している実態に関する調査報告書。法制度の崩壊、武装解除の失敗(武器であふれかえる結果に終わった)、襲撃を野放しにする当局の姿勢が、こうした犯罪行為のまん延に拍車をかけている。
コートジボワールは、過去5年間にわたり大統領選挙の実施延期を繰り返した。そして、ついに今年10月31日の投票が予定されている。大統領候補者は、現在進行形の人権侵害にいかに対処するか、司法制度の再建をどうするのか、その政策を明らかにするべきである。
ヒューマン・ライツ・ウォッチの西アフリカ上級調査員コリーン・ダフカは「政治家や諸外国の外交官が選挙準備について論争している間にも、西部地域の住民たちは、強盗に遭ったり、バスから引きずり降ろされてレイプされる恐怖に、疲労困ぱいしている」と述べる。「選挙に勝つのが誰であれ、この恥ずべき状況の改善を緊急の優先事項とすべきだ。」
本報告書は、暴力や恐喝の被害者および目撃者80名超、ならびに政府関係者、法執行当局者、軍人、民兵、国連代表者、NGO関係者、外交官への聞き取り調査に基づいて作成された。
2002年~03年の紛争は、政府軍と政府が支援する民兵(中カヴァリ州だけで2万5000人)と、北部と西部地域出身の反乱軍連合であるニューフォースの間の紛争だった。結果、武器や非正規軍戦闘員の数が激増。西部地域はこの紛争で最も深刻な被害を受けた地域だ。
フランス、西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)、アフリカ連合、国連などが先頭に立って呼びかけて和平協定合意が何度も結ばれた後、2003年5月の停戦合意でやっと戦闘が終結。しかしながら、政府はいまだ全土支配の再確立や制度再建に至っているとはいえず、同国は分裂状態のまま。国連コートジボワール活動(UNOCI)は、8400名の人員派遣を継続している一方、治安維持のための国連の武器禁輸措置、フランス平和維持部隊、その他平和維持支援のための諸措置も続いている。
恐怖と隣あわせのコートジボワールの日常生活
コートジボワール西部地域の犯罪集団は日常的に住民を襲撃。住民が自宅にいる時、農地で働いている時、市場に向かっている時、村から町へ移動している時など、襲撃はいつでも行われている。村の女性たちが品物を売買するために集まる毎週の市場開催日に襲撃はピークに達する。また、11月から3月にかけてのカカオ収穫時期も同様だ。
Coupeurs de route(フランス語で盗賊の意)として知られる犯罪集団は、仮設の検問所を設置した後、市場に向かったり、移動用車両に乗車する「獲物」を取り囲むのが常套手段。ほとんどの場合覆面をして、カラシニコフ自動小銃、狩猟用ライフル、長刃ナイフ、ナタなどで武装している。彼らは多くの場合、最後の1銭まで奪うため被害者の衣服をはぎ取るといったふうに、念入りに行動。暴力を加え、時には金を手放さない人や、彼らの正体を暴こうとした人びとの殺害も辞さない。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、西部地域のトラックなどの運転手10名に聞き取り調査を実施。彼らは2009年11月から2010年7月までの間に、17回も襲撃された。また他の運転手が遭遇した何十回にもおよぶ襲撃についても明らかになった。
何百人もの女性や少女たちが、こうした襲撃で性的暴行、レイプ、集団レイプの被害に遭っている。被害者や目撃者への聞き取り調査を通して、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、2009年以来中カヴァリ州と十八山州で起きた109件のレイプ事件を取りまとめた。犠牲者の総数は、これをはるかに上回る可能性が高い。
襲撃のやり方はこうだ。女性や少女をトラックから引きずり出した後に、ひとりずつ茂みに歩かせ、仲間が見張りをしている間にレイプする。ヒューマン・ライツ・ウォッチが調査した襲撃の一部では、武装した男たちが12名超の女性と少女を移動用車両から強制的に引きずり出してレイプしている。1月に起きたある事件では、少なくとも20名の女性と少女がレイプされた。住居を襲撃する場合は、夫を縛り上げ、妻や娘、その他家族の女性がレイプされるのを見るよう強制。犯罪集団は、赤ん坊を含む幼い子どもや70歳を越えた女性をも標的にしてきた。
32歳の女性は、1月、他の女性4名と一緒に市場から帰る途中、こうした襲撃に遭った。その時のことを次のように証言した。
「私たち、家にはまだほど遠い森の中にいたわ。私は赤ん坊を連れていたんだけど、その時[強盗に]道の真ん中で止められたの。私を捕まえて、赤ん坊を離せって言った。赤ん坊は、地面に放り投げられたわ。カラシ[カラシニコフ自動小銃]の台尻で何度も殴られて。赤ん坊は茂みに置かれたまま、私はレイプされた・・・。その後、赤ん坊を抱き上げに行ったら、また殴られて、赤ん坊は落っこちてしまったの。」
住民たちは、頻繁な攻撃にさらされ、恐怖におののきながら生活している。恐怖は多くの人びとの生活に著しく影響を与えている。生活を変えない人びとは、自分自身や愛する者が次に市場に行くとき、あるいはカカオ売りで移動している時に襲われるかもしれないという不安を抱えながらの生活を余儀なくされている。ほとんどの地域で、夜間の移動は不可能だが、昼間だったらましということでもない。襲撃について証言した結果報復をうけるという恐怖から、本報告書の聞き取り調査に応じた被害者と目撃者は、多くの場合、名字すら明かすのを拒んだ。調査の際に繰り返しあたりを見回して、「どこも安全じゃない」と話す人もいた。
前出のダフカは「コートジボワールに住む多くの人びとにとって最も重要な経済活動であるココアの収穫が、まもなく始まる」と指摘。「コートジボワール関係当局は、国連平和維持軍と協力して、11月から3月にかけての5か月が西部地域住民にとって悪夢の日々とならないよう、パトロール強化の措置を緊急にとるべきだ。」
コートジボワール政府当局の怠慢と人権無視体質
コートジボワール政府は、西部地域の住民からの保護要請を無視してきた。警察や治安部隊に差し迫った危険からの保護を求め、犯罪について訴える被害者たち。しかし、多くの場合、怠慢や恐喝行為という対応をうけている。
移動用車両に乗車中にレイプされた女性や少女、運転手、乗客など、何十人もの被害者が、犯罪多発エリアの治安維持のためという名目で政府が設置した警察や治安部隊の検問所に襲撃直後に駆け込んで犯人を追跡する依頼した時の実態を証言してくれた。被害者たちは、例外なく、そっけない対応を受けたと証言。 またほとんどのケースで、警察や治安部隊は、検問所からの出動を拒んだだけでなく、バックアップ要請の電話や無線連絡さえ拒んだという。
武装した男たちの襲撃から走って逃げて検問所にたどり着いた女性5名のグループが憲兵たちに「まだ4人が犯罪集団に捕まっているので救出してほしい」と要請した事例では、治安部隊は「それは我々の仕事ではない。我々の仕事は検問所を守ることだけだ」と言ったという。
ある運転手がヒューマン・ライツ・ウォッチに証言した別の事例。数キロ先で乗客20人を乗せた車を襲った強盗を追いかけるよう必死で治安部隊に頼んだところ、治安部隊は全く動かず、レイプされたばかりの幼い少女の前で、「あんたらの中に死人が出なかったのは幸運だったよ」と言ったという。
司法救済もままならない状態だ。ヒューマン・ライツ・ウォッチが調査をしてとりまとめた何十もの事例で、中カヴァリ州と十八山州の被害者たちは、「告訴をしようとしたら、警察や治安部隊に金銭を要求された」と証言。こうしたあからさまな恐喝行為を行っても、滅多に処罰されることはなく、一部では、こうした不正によるひともうけに上官たちが直接関与している。
まれに捜査された事件もある。しかし、今度は、アクセス不能な裁判所や腐敗して無気力な司法関係者、そして証人保護プログラムの不在といった、欠陥だらけの司法制度という障害に阻まれる。それだけでなく、施設や看守の不足、汚職といった刑務所制度の著しい欠陥も問題だ。その結果、容疑者や有罪判決を受けた受刑者の安易な釈放や、違法釈放が頻発している。ひとたび釈放されれば、犯罪者たちが自分を告発した被害者に復讐することを妨げるものはない。
加えて、コートジボワール治安部隊と北部地域のニューフォース民兵も、恐喝や大小の悪徳商売、その他の人権侵害に広く関与。中カヴァリ州の政府支配地域では、警察と憲兵が通過の際のワイロ要求に検問所を活用。運転手、商人、市場の女性たちの生計に大打撃を与えている。
広範囲で未だニューフォースの支配下に事実上ある十八山州では、民兵が検問所や各種事業、市場の店などを運営しており、自らの要求を通すのに脅迫や暴力を使い、金銭を巻き上げている。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、ニューフォースによる恐喝によって、十八山州だけで毎年数千万米ドル相当が、カカオ関連事業や木材産業に携わる人びとから巻き上げられていると明らかにした。
前出のダフカは、「警察と治安部隊は、西部地域のコートジボワール市民を恐ろしい犯罪者集団の強盗行為から保護する役目を全く果たしてこなかった」 と指摘。続けて、「コートジボワール政府は、地域住民の生活をメチャクチャに破壊しているこの完全無法状態に対する対応を、今すぐ改善しなくてはならない」と述べた。