(ニューヨーク) たゆまぬ活動を続ける勇敢な人権活動家6人に対し、名誉ある「アリソン・デ・フォージュ人権活動家賞 」を授与する、と本日ヒューマン・ライツ・ウォッチは発表した。 この6人は、暴力、差別、抑圧のない世界を創るために、 暴力や投獄といったすさまじい脅威に屈せず言論活動を続けてきた。
この賞はアリソン・デ・フォージュ博士にちなんで命名された。博士は約20年にわたってヒューマン・ライツ・ウォッチのアフリカ局のシニア・アドヴァイザーを務めていたが、2009年2月12日にニューヨークでの飛行機事故により非業の死を遂げた。デ・フォージュ博士はルワンダの人権状況、そして同国でおきた1994年の大虐殺およびその後の情勢に関する世界的な権威だった。ヒューマン・ライツ・ウォッチが毎年授与するこの賞は、博士が行った人権問題と人権擁護活動への傑出的な関与に敬意を表し、命をかけて人間の尊厳と権利の保護に奮闘した個人の勇気を称える。
2010年の「アリソン・デ・フォージュ人権活動家賞」の受賞者は以下の6人。
- ホッサム・バーガト氏:「個人の権利のためのエジプトイニシアティブ」のエグゼクティブ・ディレクター
- エレナ・ミラシナ氏:ロシアの主要な独立系新聞ノーヴァヤ・ガゼータ紙の記者
- ヨセフ・ムルゲタ氏:「エチオピア人権評議会」の元事務局長
- スティーブ・ネマンデ氏:医師であり、アフリカの同性愛者差別撤廃を訴えるカメルーンの活動団体の代表
- スーザン・タマセビ氏:イラン出身の市民・女性の人権活動家で、「百万人署名キャンペーン」の創始者の一人
- 劉暁波氏:民主主義を求める公開申立書「08憲章(Charter'08)」の草案に関わった、現在投獄中の元大学教授で、天安門事件時代からの活動家。
「このような卓越した活動家たちの勇気と献身に、大いに刺激を受けている。」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのエグゼクティブ・ディレクターであるケネス・ロスは述べる。 「彼らは、すべての人びとの人権擁護のため、政府に圧力をかけていく闘いの過程で、毎日差別と危険に立ち向かってきた。」
こうした世界各国の人権活動家たちは、世界90カ国以上で調査を行うヒューマン・ライツ・ウォッチのスタッフにとって重要なパートナーである。「アリソン・デ・フォージュ人権活動家賞」受賞者は、アムステルダム、シカゴ、ジュネーブ、ハンブルグ、ロンドン、ロサンゼルス、ミュンヘン、ニューヨーク、オスロ、パリ、サンフランシスコ、サンタバーバラ、トロント、チューリッヒで開催される「2010年ヒューマン・ライツ・ウォッチ アニュアル・ディナー」で、その栄誉がたたえられる。
ホッサム・バーガト(エジプト)
個人の権利のためのエジプトイニシアティブ(the Egyptian Initiative for Personal Rights :EIPR)の創設者兼エグゼクティブ・ディレクター。政府による宗教の自由やプライバシー権の侵害に対し抗議活動を行ってきた。同氏は法廷でエジプト人バハイ教徒の代理人として内務相に勝訴。また、コプト系キリスト教徒に対する派閥間暴力を明るみに出す重要な役割を果たしてきた。宗教的少数派であるバハイ教徒とコプト系キリスト教徒は頻繁に差別に直面している。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、すべてのエジプト人の個人的自由を擁護する活動を行ってきたバーガト氏に敬意を表します。
エレナ・ミラシナ (ロシア)
ロシアで最も著名な独立系新聞ノーヴァヤ・ガゼータ紙の調査報道担当の有力記者として、国内の人権侵害の状況を明らかにし、頻発する政府の汚職を暴いてきた。ロシア政府は政権に批判的な人びとを力でもって沈黙させ、人権侵害を隠そうとしているが、ミラシナ氏は批判の手を緩めることなく、強制失踪や超法規的処刑、拷問などについて人びとの経験と声を発表し続けている。またチェチェンの人権活動家ナタリア・エステミロワ氏が殺害された事件についての調査を行っており、政府のトップレベルにまで説明責任を要求し続けている。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、深刻な問題を抱えるロシアの人権状況に勇気を持って立ち向かうミラシナ氏に敬意を表します。
ヨセフ・ムルゲタ(エチオピア)
エチオピアを代表する人権監視団体「エチオピア人権評議会(EHRCO)」の元事務局長。海外から資金援助を受ける組織の人権活動を禁止する抑圧的な新法の下、同組織は現在も存続のために苦戦している。 EHRCOが脅迫を受けた際、ムルゲタ氏はアメリカに政治的庇護を申請。米国で現在もエチオピア政府の表向きの「民主主義」の裏にある現実を明らかにする活動を続けている。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、表現の自由が侵害されているエチオピアにおいて、独立した市民社会の構築に献身してきたムルゲタ氏に、敬意を表します。
スティーブ・ネマンデ(カメルーン)
医師であり、同性愛を犯罪とする法に抗議する人権団体Alternatives-Camerounの代表。 アフリカでは、圧倒的多数の国々が、同性愛を犯罪としてみなしており、場合によっては死刑が科せられることもある。ネマンデ氏はまた、レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー(LGBT)のHIV/AIDS患者のため医療施設を運営。ヒューマン・ライツ・ウォッチは アフリカにおけるLGBTの人権保護・促進のため、精力的な活動を行ってきたネマンデ氏に敬意を表します。
スーザン・タマセビ(イラン)
イランの市民社会の強化、特にジェンダー問題と女性の人権のために20年間活動を行ってきた。同氏はリーダーシップと平和構築のための教育に従事し、イランと国際的市民社会の協力を促してきた。賞を取った「一万人署名キャンペーン」の創始者の一人でもある。同キャンペーンはイランの男女差別的な法律の廃止への支持を集めた。タマセビ氏はその活動内容ゆえに治安部隊からなお嫌がらせを受けており、2年以上にわたり海外渡航を禁止されている。ヒューマン・ライツ・ウォッチはイランで市民社会を助成し、女性の権利を国家的優先課題にすることに貢献してきたタマセビ氏に敬意を表します。
劉暁波(中国)
中国で最も辛口の政府批評家のひとり。1989年の天安門広場における平和的抗議活動のため、1年半を獄中で過ごし、1996年には台湾とダライラマに対する中国政府の政策を批判したかどで3年間投獄された。 昨年彼は、世界人権宣言60周年を記念した申立書「08憲章(Charter'08)」の草案を共同執筆したことを理由に、11年の刑を受けた。 元大学教授である同氏は近年、ノーベル平和賞候補にもなっている。 ヒューマン・ライツ・ウォッチは、中国における表現の自由と集会の自由のために勇敢な活動を行ってきた劉氏に敬意を表します。