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ベトナム:政府の指揮による寺院の包囲と襲撃

暴徒がEU代表団による仏僧信徒からの聞き取り調査を妨害

(ニューヨーク)-ベトナム政府は、宗教の自由を訴えてきた著名な仏教僧ティック・ナット・ハン師(Thich Nhat Hanh)の弟子の僧侶や尼僧たちのグループを、力で解散させようとしている。ベトナム政府が、人権と宗教の自由を侵害し続けているのは明白だ、と本日ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。

2009年12月9日からの3日間、大勢の暴徒や、警察官および私服警察官、地元の共産党幹部らが集まってきて、数百名の仏僧や尼僧たちを威嚇し、襲撃。仏僧と尼僧たちは、9月下旬にラムドン省中央にあるバット・ニャ僧院(Bat Nha)から警察と民間人暴徒によって暴力的に僧院を追放され、近くのフオック・フエ仏塔(Phuoc Hue)に避難していた。暴徒たちは、フオック・フエ仏塔にいた僧院長を自室から連れ出し、数日間にわたって脅迫と説得を繰り返した。地元の共産党幹部らが、「12月31日を期限として修行僧たちを仏塔から退去させる」ことに、僧院長が同意するまで、同師への脅迫は続いた。

「ベトナム政府に経済支援をしている各国政府は、ベトナム政府にラムドン省の仏僧と尼僧たちへ暴力を振るうのをやめるように求めるべきだ。そして、仏僧たちに自らの宗教を実践する権利を認め、今後暴力の行使を控えるよう、強く主張するべきである」とヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長代理エレーン・ピアソンは述べた。「更に、ベトナム国内の状況について、各国政府はしっかりモニターしていると明確に伝えるべきだ。」

自警団によるフオック・フエ仏塔への襲撃は3日間続いた。その結果、12月9日に行なわれた同仏塔でのEU事実調査ミッションは中断を余儀なくされた。その後の12月11日には、EUとベトナムとの人権問題に関する協議が予定されていた。EU議会は11月下旬、ベトナム政府に対し、宗教の自由を尊重するよう求めるとともに、ラムドン省での仏教となどの各宗教の信者及び仏教各宗派への嫌がらせと迫害を非難する決議を採択していた。

EUは、ベトナムの最大資金提供国の1つ。12月上旬に開催された支援国会合では、10億米ドルの資金提供を約束。現在のEU議長国のスウェーデンは、他の資金提供国とともに、ベトナム政府に対し、独立したメディア、宗教の自由、平和的な権力批判をする人びとに対する制約の撤廃などを強く働きかけてきていた。1995年のEUベトナム協力協定は、基本的人権と民主主義の原則の尊重が協力協定の基礎であることを確認している。

「外交使節団と僧侶たちの会談を、自警団が妨害した。EUに対する紛れもない兆戦である。」とピアソンは語った。「EUは、ベトナム政府に対し、レバレッジがあることとならんで、それを行使することを躊躇しないと明確にすべきだ。」

この一年間、ベトナム政府は、2005年にティック・ナット・ハン師が設立したバット・ニャ僧院にある瞑想院を中心に活動するティック・ナット・ハン師の若い弟子の僧たちのグループを解散させるために様々な手段をとっている。2007年、ティック・ナット・ハン師は、宗教の自由に対する制約を緩和するよう、政府に強く求めた。その結果、ベトナム政府は、この瞑想院の閉鎖に向けた措置をとり始めたのである。

ティック・ナット・ハン師は、1960年代、平和を求める活動を行なう僧として国際的な注目をあびた。師は、南ベトナム人僧侶の指導者として、戦禍をくぐりながらもベトナム戦争のいずれの側にも付かずに、米国のベトナムにおける戦争に反対するとともに、戦争の両当事者の残虐なやり方を批判。1965年に母国を脱出した後も、フランスで亡命生活を送る傍ら、反戦活動を続けていた。その後、師が、1975年の共産党の勝利の後にベトナムを脱出した無数のボートピープルの惨状や、仏僧などの聖職者に対する迫害の実態など、人権問題を中心的に取り上りあげるようになると、ベトナム政府は、師のベトナムへの帰国を拒絶するようになった。

バット・ニャ僧院でおきた9月の強制立退き事件以来、ベトナム政府は、バット・ニャ僧院から逃れた信徒たちが暮らすフオック・フエ仏塔などの仏塔から、信者たちを立ち退かせようと、電気や水を止め、地元の在家の人びとが食料や生活必需品を差し入れるのを妨害するなど、執拗な嫌がらせを続けている。ヒューマン・ライツ・ウォッチが入手した複数の政府文書によると、11月下旬、地元当局に対し、フオック・フエ仏塔の信徒たちに反対するデモを行なう民間人を組織するようにという命令が下った。この文書には、さらに、集められた民間人たちは、僧院長の追放を要求するとともに、信徒たちを故郷に返すよう圧力をかけることとされている。

フオック・フエ仏塔における暴徒の行動

12月9日、100人を超える群集が、フオック・フエ仏塔まで行進。多くがオートバイのヘルメット、野球帽を被り、防塵マスクを着用。このような格好は、ベトナムの道端ではよく見られるが、仏教寺院の中ではこのような格好は通常しない。笛を吹くリーダーが群集を指揮。群衆は僧院長を自室から引きずり出すと、大声で侮辱し、バット・ニャ僧院の仏教徒に対し退去命令を出すように要求した。信徒である僧侶や尼僧たちが撮影したビデオ映像には、僧院長を守ろうとする仏僧と尼僧たちを、群集たちが突き飛ばしている様子や、写真を撮ろうとする者に襲いかかる様子がうつっている。

群衆は、3日の間で200人にまで膨れ上がった。群集の中には、ラムドン省の1500kmも北にある、ナムディン省から連れて来られた人びともいた。これらの人びとは、「当局から、3日間1日20万ドン(11米ドル)の仕事だってことで動員された」と話していたという。

警察は仏塔の周辺の通りを封鎖。仏僧と尼僧に食料を提供していた住民たちの家には、家から出られないように特別に人が配置されていた。ハンマーや棒で武装した暴徒たちもいたにも拘わらず、暴徒たちが、僧院長の部屋のドアを打ち壊そうと暴れ、仏塔を蹂躙し、人びとがパニックになっても、警察は、これをみてみぬふりして止めようともしなかった。尼僧たちが座ってお経を唱えていると、暴徒たちがあらわれて、耳を引っ張ったり、つばがかかるほどの至近距離から叫ぶなどして嫌がらせを続けた。

暴徒たちを指揮していたのは、共産党の組織に属する地元の党幹部など。彼らは、アンプを使って、警察のサイレンとけたたましいエレクトロニック・ダンス音楽を仏塔境内に鳴り響かせていた。仏僧たちは、急を告げるため、必死の思いで寺院の鐘を連続して鳴らし続けた。1台の救急車が仏塔の前に停まっていた。

公安省のA41特別警察部隊のラムドン省責任者が、3日間に渡る暴力行為に立ち会っていた。A41は多くの場合「宗教警察」と呼ばれ、ベトナム政府が「宗教を濫用している」或いは「宗教的過激派である」とみなしたグループを監視している。

「ベトナム政府が自国市民を守らなかった、ということはもちろん、当局が積極的に人権侵害に参加していたのは極めて遺憾だ」とピアソンは語った。

フオック・フエ仏塔に残っているバット・ニャ僧院の修行僧たちの半数以上は、最近尼僧になった若いベトナム人女性たちである。「尼僧たちは、どこに行けばいいのだろうと途方にくれている。彼女たちは、今、囚われの身のような気持ちでいる」とある関係者はヒューマン・ライツ・ウォッチに語った。「尼僧たちは、突き飛ばされたり、唾を吐きかけられたり、暴力を振るわれたりした。全ての体験が、彼女たちの心を深く傷つけた。彼女たちは、精神的に殺されたも同然だ。彼女たちは、引き裂かれ、故郷に送り返されるのを恐れている。そして、安心できるところで一緒に生活する事を望んでいる。」

フオック・フエ仏塔にいる若い仏僧と尼僧たちに対する立ち退きの期限は12月31日。この日は、ホーチミン市でベトナム政府が主催する、国際女性仏教徒会議の日と偶然にも一致する。「若い仏僧と尼僧たちが、12月31日、もう一度、暴力による立ち退きにさらされるかもしれない。そのまさに同じ日に、ベトナムで開催される政府主催の国際仏教徒会議の参加者たちが、紛争と暴力の防止のための女性仏教徒の役割について議論することになっているのは、なんとも皮肉なことだ。」とピアソンは語った。

大都市から遠く離れた地方で、政治的に「敏感な」問題が起きていると政府が考える地域(政府はこうした地域の地元住民たちと外交官・ジャーナリストたちが直接話すことを極端にいやがっている)で、政府が暴力的な群集を組織するのは、今日に始まったことではない。

「今回、ラムドン省で起きたことは、過去に起きた政府の組織した群衆による暴力事件とは少し異なる。というのは、外交官たちが、自分たちの目で、宗教の自由と基本的人権に対する政府の弾圧を見たということだ。」とピアソンは語った。「その結果、EUは、目の前で起きたことに対する強い懸念をベトナム政府に伝えるのに絶好の立場にいる。」

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、政府と共産党及び政府の指名した仏教当局者たちが出した一連の命令書コピーを入手。僧院に対する襲撃を指示する命令書と考えられる。

11月26日付けの政府宗教関係委員会発の命令は、地元の仏教関係の当局者と共産党人民委員会に、バット・ニャ僧院の仏教徒たちを故郷の「適切な住居」に送り返すよう「動員」するよう指示していた。政府公認のベトナム仏教徒教会(Buddhist Church of Vietnam、政府任命の委員会)の委員も11月30日、同様の命令を出しているほか、地元の人民委員会も、12月7日に、同様の命令を出していた。

「EUなど、ベトナムに経済援助している国は、ラムドン省でおきた先週の事件に対し、ベトナム政府の責任を明らかにすべきであるとはっきり伝えるべきである。」とピアソンは述べた。「ベトナムへの経済援助国は、強い懸念を声に出し、情勢をしっかりとモニターするとともに、12月31日の立ち退き期限の日に、フオック・フエ仏塔に出向き、事態に直接立ち会うよう、最善を尽くす必要がある。」

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