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東京都千代田区永田町1-6-1 首相官邸

内閣総理大臣 麻生 太郎 殿

悪化を続けるスリランカ北部の深刻な人道・人権状況に関し、書簡を差し上げます。以下に署名した非営利組織一同は、スリランカ政府とタミル・イーラム・解放のトラ(LTTE)の武力紛争の最終局面下で続く惨状に対し、日本政府が、これまでより積極的な役割を果たすよう、要請いたします。

もし、世界が、今後もスリランカの民間人の苦しみから目をそらし続けるのであれば(世界は、概して、これまでこの危機を見過ごして参りました)、歴史に残る汚点・失敗と評価されることになると思料いたします。無数の民間人の命を救うため、そして、スリランカにおける持続可能な平和、人権、そして開発を確保した援助政策を実行するため、我々は、人道分野の強力なプレイヤーであるとともにスリランカの最大援助国である日本政府に、果たすべき重要な役割があると考えます。日本政府が、自国に課された責務を果たす用意がある、と示すべき時期がきております。

ジョン・ホームズ国連人道問題担当事務次長が先月「bloodbath (大量殺りく) 」と警告したいわゆる「戦闘禁止地域」には、依然、数万人もの民間人が閉じ込められたままとなっております。本書簡に署名した各団体は、スリランカについて、あるいは、スリランカ国内において、緊密に活動しております。私どもの事実調査の結果により、日本政府やその他の影響力を持つ国々による断固とした行動の必要性は、これまでになく緊急性を増していると確信しております。

国連の統計によると、2009年1月後半以降の戦闘の結果、6000人以上の民間人が死亡し、1万3千人以上が負傷しました。通常は公けの発言を控える赤十字国際委員会も、現状を、完全な大惨事である(nothing short of catastrophic)と発表しました。

国連人権理事会における略式処刑、健康への権利、食糧並びに水及び衛生への権利に関する各専門家は、5月8日に共同声明を発表し、「透明性及びアカウンタビリティーの劇的な欠如(dramatic lack of transparency and accountability)」があると述べました。

国連の略式処刑に関する専門家フィリップ・アルストン氏は、スリランカ政府は「いまだ、犠牲者を明らかにせず、また、ジャーナリストやいかなる人権モニターにも、戦闘地域へのアクセスを許していない(has yet to account for the casualties, or to provide access to the war zone for journalists and humanitarian monitors of any type)」としました。


この戦闘において、両陣営とも、人命に対し残酷なまで無関心であり、国際人道法に違反しております。LTTEは、民間人を人間の盾とし、人びとが戦闘地域から避難するのを武力で妨げております。

スリランカ政府も、重大な人権侵害を犯しており、テロとの戦いであるとの主張により許されるものはひとつとしてありません。政府軍は、病院を含む民間人の密集する場所を、幾度となく、無差別に攻撃してきました。スリランカ政府は、日本政府や国連に対し、「戦闘禁止地域」で重火器は使用していないと、繰り返し虚偽を述べて参りました。

その間、スリランカ政府は、国連や中立的立場の人道・人権団体及びメディアに対し、戦闘地域への立ち入りを拒んで参りました。残虐行為の発生を防ぎ、助けを必要とする人びとに手を差し伸べるため、世界が、現地で実際に何が起きているか知る必要があるのは明白です。

いくつもの人道団体が、本書簡で述べられた懸念の多くを共有しております。こうした人道機関は、スタッフの安全のため、こうした諸問題点について声をあげることができないのです。

我々は、スリランカで続く民間人の苦難に対し、日本政府が、これまでより、より断固とした姿勢をとるよう求めます。我々は、明石康 日本政府代表が、先日、マヒンダ・ラジャバクサ スリランカ大統領に対し、閉じ込められた民間人の安全を最優先課題とするよう求めたとの報告を歓迎いたします。また、両陣営に国際人道法を尊重するようにとした日本政府の談話を歓迎いたします。

しかし、はるかに多くの行動が必要とされています。国連安保理の決議は、民間人の保護の必要性をたび重ねて強調してきました。国連安保理決議1674は、ジェノサイド、戦争犯罪、民族浄化及び人道に対する罪から民間人を保護する責任(2005年の世界サミットにて採択)を再確認しております。本決議は、武力紛争下において文民を標的とすることや、国際人道法・国際人権法に対する広範な違反が、国際の平和と安全への脅威となりうるとしています。

国連安保理は、スリランカについて詳細かつ定期的な審議を行うべきであるとともに、その状況を公式に審議すべきであります。我々は、日本政府に対し、これにむけた動きを、支持するよう求めます。過去数週間に開催された会合は、一部の理事国の抵抗の結果、あえて公式の安保理議場での開催を避け、非公式に地下の部屋で行われている状況です。こうした事態は改められなくてはなりません。そして、安保理が、人道・人権危機を解決するため必要な措置を講じられるよう、国連安保理の公式会合を緊急に開催する必要があると思料いたします。

国連安保理は、スリランカ政府に対し、国連のニーズ評価への協力、人道支援物資の配布の制限の撤廃、そして、スリランカ政府の行なう全レセプション・スクリーニング過程への国連機関のアクセスの確保を求めるべきであります。安保理は、スリランカ政府もLTTEも、自らの行為の責任を問われることになると明確に述べるとともに、両陣営による国際人道法違反を調査するための国連事実調査委員会を設立すべきであります。

我々は、日本政府に対し、ニューヨークの国連安保理の行動を支持するよう求めるとともに、ジュネーブの国連人権理事会におけるスリランカの状況の迅速な検討を支持するよう求めます。

5月11日の国連安保理の閣僚級会合を前に、早急な行動が求められます。そして、国際外交の場における日本の声は、人権を尊重する民主的リーダー国のそれであるべきです。我々は、日本政府が、この課題に対し、しっかりと立ち向かうことを期待しております。

敬具

ヒューマン・ライツ・ウォッチ、エグゼクティブ・ディレクター ケネス・ロス  

アムネスティ・インターナショナル国連事務所長、イボンヌ・ターリンゲン

保護する責任のためのグローバルセンター 、エグゼクティブ・ディレクター モニカ・セラノ博士 

国際危機グループ、会長兼CEO ギャレス・エヴァンズ

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