(ニューヨーク) --- 2008年開催の北京オリンピックを一年後に控えながら、中国政府は、外国人ジャーナリスト及び中国人の現地スタッフに対し、嫌がらせ、脅迫、拘禁などを続けており、国際オリンピック委員会に対して自らが約束した報道の自由についての公約に違反している、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表した報告書で述べた。

「嫌がらせと逮捕にさらされるジャーナリストたち」と題するこの40頁のレポートは、中国政府が、ジャーナリストの自由を保障するとの国際オリンピック委員会に対する公約を遵守するため、1月1日、暫定規則を採択したにもかかわらず、中国政府当局が、今年に入ってからも、外国人ジャーナリストの取材活動を繰り返し妨害してきた現状を伝えている。 この報告書は、2007年6月、36人の外国人ジャーナリスト及び中国人ジャーナリストから寄せられたインタビュー及び情報に基づいて作成されている。

「外国人ジャーナリストが、単に自分の仕事をしただけあるにも拘わらず、中国政府が、それを理由に、外国人ジャーナリストを脅迫し身柄拘束しようとしているのは、オリンピックのフェアプレー精神に対する冒涜だ。」「ジャーナリストへの嫌がらせや拘禁が続いているのを見ると、メディアの自由を保障するとの北京オリンピックの公約が、誠実な政治イニシアチブというよりも、PRのための策略に過ぎなかったように思えてくる。」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長ブラッド・アダムズは述べた。

2008年開催オリンピックの北京への招致の一環として、北京でオリンピックが開催されている間、海外及び国内のジャーナリストに対してこれまで続けてきた抑圧政策を緩和すると、中国政府は、2001年、国際オリンピック委員会に約束した。このメディアの自由を拡大するという公約は、オリンピック憲章51条で規定されているオリンピックの主催国の義務に沿うものである。この51条における義務は、国際オリンピック委員会に「様々なメディアによる最大限の報道及び世界中の可能な限り広範囲なオリンピック競技の視聴者を確保するため、必要な処置をと」るよう求めるものである。

オリンピック期間中のメディアの自由に関する政府公約を繰り返してきた政府官僚の一人は、温家宝首相だ。中国の新華通信社によると、4月、温首相は、「外国人ジャーナリストの報道の自由は、ニュース報道についても、確実に保障される。」と述べた。

中国政府の国際オリンピック委員会への公約の一端として、中国政府は2007年5月、オリンピック北京組織委員会のウェブサイトで公表した「海外メディアへのサービスガイド」において、中国での、認可外国人ジャーナリストへの新しい自由を発表した。このガイドラインは、「外国人ジャーナリストの報道活動のルールは、中国の法律及び規制に沿って、外国人ジャーナリストが中国の政治及び経済、社会、文化に関する報道を行う場合並びに北京オリンピック及びその準備期間の報道にも適用される」としている。暫定規則は、2007年1月1日から2008年10月17日までの間有効であるが、外国人ジャーナリストに対し、同意をえれば、すべての中国の組織団体や市民に、自由にインタビューを行うことを認めている。この規則は、こうした自由を、中国人ジャーナリストには認めていない。

ヒューマン・ライツ・ウォッチがインタビューした外国人ジャーナリストの中には、この新しい規則の結果、1月1日以降、反政府活動家や、普段はメディア嫌いの政府役人へのアクセスが実際に拡大したと語る者もあった。しかし、新しい規制など知らないと主張したり、意図的に新規則に従わない政府の役人、警察、私服の暴漢などが、自分たちの報道活動を日常的に妨害していると述べる外国人ジャーナリストもいた。

政府の外国人ジャーナリストに対する妨害
外国人ジャーナリストがもっとも頻繁に攻撃され、拘禁され、脅迫されてきたのは、中国政府が敏感事項とみなすこと、例えば―反政府活動家、チベット、国内でのHIVエイズの流行や、暴動、デモ及びその後の余波などの「社会の安定性」―に関する報道をしようとする場合だ。

しかし、中国政府当局が、外国人ジャーナリストの合法的な取材活動を妨害するのは、中国政府が「敏感」とする問題に関する場合に限られない。あるケースでは、外国人ジャーナリストが、すでに取材の了解が取れていたビジネス関連の報道のために、国営工場を訪れたところ、ある中国共産党の役員が、工場の存在それ自体が「国家機密」であると主張し、そのジャーナリストの滞在の間ずっと嫌がらせを続けた。他の例においては、外国人写真家とその同僚が、有罪判決を受け処刑された連続殺人犯人の話を追っていた際、丸一日、私服の暴漢の一団に尾行され嫌がらせを受けた。

今年初めに起きたある2つの事件では、2人のジャーナリストたちが、それぞれ別々の場所で、私服を着た人物たち(当該ジャーナリストたちは私服警官であろうと推測している)に、北京の中心部で、押す、突き飛すという暴行を受け、逮捕されそうになった。これらの事件は、制服を着た国家公安警察たちの目前で起きたが、公安警察たちは、事件に全く反応しなかった。この攻撃は、2人のジャーナリストが、不法な土地収用と役人の汚職などの問題を解決してほしいと地方からやってきた政府への陳情者たちの状況を取材しようとしたときに起きた。

残念なことに、何人かの記者は、ヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、中国の外務省自体が、望ましくない報道をやめさせるための嫌がらせに関与している、と述べた。あるケースでは、外務省は、在北京のある海外の報道機関に対し、海外のある中国政府機関を通じ、「敏感」な問題に対する報道を止めるようにと積極的に圧力をかけたが、その報道機関が圧力に屈しなかったため、就労ビザを拒否するという報復にでた。

これらの事件や、他にも現に進行中の暫定規則違反事件は、オリンピックを取材するために中国を訪れる数千人ものジャーナリストの自由と安全について、深刻な問題を提起していると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。

「中国政府には、この状況を改善するのに1年間の猶予が与えられている。しかし、そうした猶予が与えられるのも、政府官僚たちが、空虚な言葉を並べるのではなく、意味のある行動をとる場合だけだ。」「中国政府が国際オリンピック委員会への公約を果たすかどうか、世界が監視している。」とアダムズ局長は述べた。

中国人ジャーナリストに対する差別
また、この報告書は、2008年開催の北京オリンピックの準備期間に、外国人ジャーナリストの助手、調査員、通訳、情報源などとして働いている中国人たちが直面する厳しい監視と圧力についても、報告している。この報告書は、中国政府が、新しい暫定規則から意図的に除外された国内ジャーナリストたちの活動を監視・管理し続け、かつ、国内報道が政府のプロパガンダの目的に沿うかどうか厳しく管理し続ける現状と手法についても検証している。

「外国人ジャーナリストが享受する制限された自由さえも、中国人ジャーナリストに対しては認めないのは、中国政府の態度が偽善でしかないことを示している。」「中国人ジャーナリストに対して、平等な自由を認めない中国政府の行為は、表現の自由の侵害に該当するだけでなく、特に中国自身の憲法が報道の自由を保障している場面における、自国民に対する不公正な差別に該当する。」とアダムズ局長は述べた。