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Pumpjacks at an oil well site near Epping, N.D., Oct. 1, 2018. © 2018 Jim Wilson/The New York Times/GDA via AP Images ©

化石燃料への政府による財政支援は、補助金を通じたものも含めて、気候危機に対する取り組みとして緊急に必要な排出量削減達成への主要な妨げになっている。補助金は化石燃料の生産と使用にかかる費用を人工的に減らし、化石燃料から風力や太陽光などクリーンで再生可能なエネルギーに迅速に転換すべき時に化石燃料への依存を助長している。

二酸化炭素排出量は、新型コロナウイルス感染症対策のロックダウンによって一時的に減ったものの、二酸化炭素濃度は2020年も増え続けた。その結果、世界は今世紀中に破滅的な温暖化に達する見込みのままで、異常気象、洪水、火事、種の絶滅、生態系の喪失が増える恐れがある。化石燃料は今でもこの危機を引き起こしている主な二酸化炭素排出源であり、2018年には産業と合わせて二酸化炭素排出量の約89パーセントを占めた。

現在の温暖化レベルでも気候変動はすでに人権に多大な悪影響を及ぼしている。2020年にヒューマン・ライツ・ウォッチは、カナダでの気候変動が先住民の伝統的な食料源へのアクセスを枯渇させ、深刻化する食料貧困問題の一因となっていることを記録した。また、コロンビアでは、より頻繁な干ばつによって先住民の子どもの間で栄養失調が悪化していることを示した。さらに米国では、極端な暑さが早産を含む出産に関わる悪影響に関係していることを明らかにした。これらは世界中で増えている影響のほんの数例にすぎず、こうした影響は今後気温が上昇し続けるのに伴ってますます強まると予想されている

気温上昇を工業化以前よりも1.5度未満に抑え、気候変動によるもっとも深刻な被害を防ぐために残された時間は少ない−−気候変動政府間パネルによれば約9年である。しかしこの目標を達成するには緩和努力を急激に強める必要がある。言い換えると、各国は気温上昇を1.5度未満に抑えるために、パリ協定のもとで当初定めた目標を少なくとも5倍にしなければならない。この努力の一環として、世界の化石燃料生産量は2020年から2030年までに約6パーセント削減されなければならない。

このように差し迫った事態であるにもかかわらず、世界中の政府は化石燃料セクターに毎年何十億ドルもの補助金を直接出しており、化石燃料企業への政府からの支援は新型コロナウイルス感染症流行からの回復のための出費の一環として増加した。化石燃料セクターは不十分な環境規制や汚染処理について責任をほとんど負わないことからも恩恵を受けており、化石燃料企業の環境、健康、経済への影響の代償を払わずに済むことで化石燃料の真のコストの外部化を許している。

このQ&A資料は、政府による財政支援が化石燃料の生産と使用を永続させるのに決定的に重要な役割を果たしていること、また政府が気候危機に取り組むにあたって人権義務を果たすために、石炭、石油、天然ガスへの支援の段階的廃止を急ぐ必要があることを詳しく説明する。

 

化石燃料補助金とは?

世界貿易機関(WTO)は補助金を「政府またはいかなる公的機関による財政的出資」で受け手に利益を与えるものと定義している。化石燃料補助金は税控除や直接の払い戻しの形を取ることが多いが、価格統制、融資保証、調査や開発への出資、化石燃料生産者が環境規制に従うための費用を支払わずに済むようにする措置も含むこともある。例えば、化石燃料企業が排出量を削減したり、化石燃料セクターの活動が環境に直接与えた影響を是正したりするための資金を政府が提供することも含まれる。

化石燃料補助金は一般に二つに分類される。消費者補助金と生産者補助金である。消費者補助金は化石燃料をエネルギーのために燃やす費用を削減する。家庭のエネルギー費を減らしエネルギー貧困問題に取り組むのが目的であるとされることもある。

これに対して生産者補助金は企業を対象とし、石炭、石油、天然ガスの探査、輸送(パイプラインや船での輸送)、関連する処理やインフラ(液化天然ガスターミナル、精製所など)の費用を軽減する。二酸化炭素回収・利用・貯留(CCUS)への支援は気候変動の解決策として提示されるが、化石燃料生産者補助金として機能することも多い。回収された炭素の大半はさらに石油を採取するために油井に注入されるからである。

国内の化石燃料の生産と利用への支援に加え、輸出信用機関や国際開発機関その他の形の公的資金を通じて海外での化石燃料の生産と消費を補助する国もある。

 

化石燃料補助金はどのくらいの金額?

各国政府は化石燃料支援の全体像に関して透明性のある報告をしないため、世界中でどのくらいの化石燃料補助金があるのかを確実に評価するのは難しい。現在の推定によれば、世界の化石燃料補助金の合計は最低でも毎年数千億ドルに上るとされている。2019年現在、世界の主要な経済国が参加するG20は石炭、石油、天然ガスの生産と消費に対して毎年平均で5480億ドルを支援した。

化石燃料補助金は再生可能なエネルギー源への政府による財政支援を遥かに上回っている。例えば2017年には化石燃料補助金が再生可能エネルギーへの補助金の20倍近くもあった。

輸出信用機関などからの国際的な公的資金による支援にも大きな差がある。G20諸国は

2016年から18年までに国際公的資金機関を通じて毎年少なくとも770億ドルを世界各地の石油、天然ガス、石炭事業に出資したが、これはクリーンエネルギーへの出資の3倍以上だった。化石燃料への最大の公的資金提供国は中国で、1年で246億ドルだった。提供額が2番目に大きく1人あたりの出資額が最大だったのはカナダで、1年に106億ドルだった。石炭だけを見ると中国、日本、韓国が最大の公的資金提供国である。

 

化石燃料補助金はどのような影響をもたらすのか?

各国政府による化石燃料への補助金は、補助金がなかった場合よりも多量の化石燃料使用を助長する。補助金によって化石燃料インフラの拡大や新規建設の可能性が生じることもある。それにより、何年にもわたって化石燃料使用が確実となり、再生可能エネルギーへの転換が遅れてしまう。

これらの補助金は、化石燃料の使用量を増やすことで地球温暖化を促進する温室効果ガスの排出量を増やし、その結果温暖化を1.5度未満に抑えられなければ、予測可能な悪影響を生じさせる。アントニオ・グテーレス国連事務総長の言葉を借りれば、化石燃料に補助金を出すのは「ハリケーンを強くし、干ばつを拡大し、氷河を解かし、サンゴ礁を白化させ、つまり世界を破壊する」ために納税者の金を使うのと同じである。化石燃料補助金は教育、社会保障、保健医療など、優先される他の公的支出とも競合する。

化石燃料補助金は公的財政から出資されるため、政府が気候変動と戦い、すでに気候変動による影響に直面している共同体を支援するために十分な財源を割り当てる能力を弱めている。例えば米国では、ピュー・リサーチ・センターが委託した調査によれば、二酸化炭素排出量を増加させたエネルギー関連の補助金が2005年から09年まで削減されていれば、年間で平均120億ドルを節約できた。これは持続可能なエネルギーインフラや、共同体がすでに経験している気候変動による影響に適応するための手段や資源に投資することができた資金である。

化石燃料補助金を出すことで、政府は環境破壊や汚染や気候変動によって環境、人間の健康とインフラに甚大なコストをかけている産業セクターを支援していることになる。このコストは責任を負うべき企業ではなく、主として共同体や政府が負担している。例えば米国では、石炭の山頂除去採掘がその過程で大気や水の汚染を通じて公衆衛生を脅かしたことをヒューマン・ライツ・ウォッチは記録した

経済学者や企業が「外部性」とみなすこうしたコストは、国際通貨基金(IMF)によれば2017年に5.2兆ドル、つまり世界のGDPの6.5パーセントに及んだ。米国科学アカデミーが発表した査読付き論文によれば、米国だけでも、補償されない環境破壊のコストは化石燃料企業への補助金6000億ドル近くに相当する。

 

化石燃料補助金はエネルギー貧困問題への取り組みや貧困削減支援にとって重要か?

化石燃料補助金の一部、特に消費者補助金は燃料費を軽減し低所得世帯を利する手段である印象を与えるかもしれないが、化石燃料補助金はエネルギー貧困対策としては効率が悪く、主に比較的裕福な世帯に有利である。最富裕層にあたる20パーセントが財政支援の大部分を取り込んでしまうため補助金は逆進的であることが多く、既存の収入格差を強めさえする。IMFの調査によれば、中・低所得国ではガソリン補助金の61パーセントが上位20パーセントの最富裕層に支払われているのに対し、下位20パーセントの最貧困層にはわずか3パーセントしか支払われていない。ディーゼルや液化石油ガスへの補助金も同様の逆進的な傾向を示しており、支援の大半が最富裕層に取り込まれている。

低所得層や貧困層の中には化石燃料補助金によって移動や食料の値段が下がることで利益を得るかもしれないが、化石燃料補助金は、化石燃料依存の軽減や、社会保障や医療など、貧困あるいはそれに近い人びとにより大きな利益をもたらす他の分野に投資するはずの貴重な公的資金を無駄にする恐れがある。

 

化石燃料補助金について国際人権法の観点からはどう考えられるのか?

国際人権法の下、各国政府は人為的な気候変動に対処するための人権義務を負う。この義務の下、政府は気候による悪影響に対処するだけでなく、温室効果ガス削減を行うことも含め、気候変動によって予測可能な更なる被害を防がなければならない。化石燃料への助成を続けることは、政府がこの義務を果たす能力を損なうことになる。

各国政府は経済・社会・文化的権利を漸進的に実現させていく義務も負う。これには気候変動による予測可能な悪影響を防ぐために最大限の利用可能な手段を動員する義務も含まれる。化石燃料補助金は公的資金から出ており、気候変動と戦うのに必要な「最大限の利用可能な手段」から資金を奪ってしまう。国連の5つの人権条約機関−−国家の人権条約の遵守状況を監視する独立した専門家−−は2019年の共同声明で「更なる被害やリスクを防ぐための緩和策として…各国は温室効果ガス排出を低くする方針と相容れない活動やインフラへの財政的インセンティブや投資を中止すべきである」と主張した。

気候変動に影響される権利−−健康、食料、水への権利など−−を漸進的に実現していくにあたり、各国政府は概して直接あるいは間接的に権利享受に悪影響を及ぼす措置を取るのを禁じられている。化石燃料補助金やその他の財政支援を通じた化石燃料の増産と消費増への出資は、世界中で、特に疎外されたコミュニティの人権の享受をすでに損なっている排出増加やそれに関連する気候への影響を積極的に助長している。その結果、現在の気候危機の中である国が新たな化石燃料補助金を導入すれば、それは排出量増加の一因となる点で権利の侵害に該当する恐れがある。

 

各国政府、特に排出量の多い国の政府は、化石燃料補助金の段階的廃止のために人権義務に照らして十分な取り組みを行っているか?

簡単に答えると、「行っていない」。多くの国は化石燃料への支援を減らすと約束しているものの、世界規模での化石燃料補助金の段階的廃止に向けた前進は非常に遅い。

世界最大級の経済国とほとんどの最大排出国を含むG7とG20はどちらも2009年に「非効率な」化石燃料補助金を段階的に廃止すると約束し、2016年にはG7が2025年までに廃止すると約束した。しかしG7もG20もあまり前進していない。遅れの原因の一つは定義についての議論で、各国は何が「非効率な」化石燃料補助金に該当するかの定義がないことを利用して特定の形の化石燃料支援の段階的廃止を避けている。

G20が非効率な化石燃料補助金の段階的廃止を約束してから10年後の2019年現在、G20は2014年から16年までの年平均と比べて補助金を含めた化石燃料支援を9パーセントしか削減していない。G20のうちオーストラリア、カナダ、中国、フランス、インド、ロシア、南アフリカの7カ国はむしろ2014年から16年までに比べて2017年から19年までに化石燃料への支援を増やした。新型コロナウイルス感染症の世界的流行中、G20諸国は化石燃料への支援をさらに増やし、化石燃料集約型セクターに少なくとも2770億ドルの公的資金を割り当てた。

前向きなことに、化石燃料補助金の段階的廃止の機運が現在高まっている。例えば米国のジョー・バイデン大統領は選挙時に化石燃料補助金の全世界での禁止を求めることを公約とし、「化石燃料に補助金を出す理由などない」と述べた。就任後、バイデンは化石燃料補助金を廃止するよう連邦政府機関に指示した。同様に、欧州連合(EU)も

環境に悪影響を及ぼす化石燃料補助金を明確な行動計画に沿って世界的に段階的廃止することを呼びかけ、エネルギー外交の全力を挙げてこの努力を後押しすると約束した。英国も2021年からは海外での化石燃料事業への公的資金投入を止めると約束した

 

各国政府は何をすべきか?

各国政府は今年、パリ協定のもとで新たなコミットメントを発表し、気温上昇を1.5度に抑えるための目標、政策、措置を提示することになっている。各国政府はこの発表に化石燃料補助金を段階的に廃止するための期限付きの計画を含めるべきである。

当面、各国政府は化石燃料ではなく再生可能エネルギー、クリーンな輸送、エネルギー効率のよい措置など実績のある排出削減努力のほうに支援を転換し、最大限の利用可能な手段を気候変動による悪影響を防ぐために用いるべきである。各国政府は共同体、特に気候変動による影響の負担がもっとも大きい疎外されたコミュニティが気候変動による影響に適応するのを助け、また既存の影響に対処するために、最大限の利用可能な手段を用いることができるようにするべきである。

化石燃料補助金、特に消費者補助金を廃止するにあたり、各国政府はすべての人が信頼でき、十分で、手頃で、クリーンで再生可能なエネルギーにアクセスできるようにし、エネルギー費用の増加によってもたらされるかもしれない権利への影響を軽減するべきである。各国政府はまた、補助金の廃止が労働者の給料の削減の口実に使われないようにするなど、公正な移行が行われるようにする必要がある。補助金改革を成功させるための決まった方法はないが、各国は貧困またはそれに近い人びとが適切な生活水準に達する能力に影響するような値上げがある場合には、現金または現物支給の提供を通じて彼らを保護する措置を取るべきである。各国は必要としているすべての人のために、社会保障のセーフティーネットが整備されていることを確認すべきである。

最後に、各国政府は新型コロナウイルス感染症流行からの回復のための新たな支出の一環である場合も含め、直接的か間接的かを問わず新たな化石燃料補助金を導入するべきではない。化石燃料企業に対するものも含めて一般的な財政支援を行う際には、排出量削減要件を満たし気候変動のリスクに関する透明性を確保した情報開示を行うことを条件とするべきである。

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