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(ブリュッセル)― タイ政府が抜本的な改革を約束したにもかかわらず、強制労働などの人権侵害がタイの漁船上でまん延している、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表の報告書内で述べた。本報告書と15分の動画は、1月23日に行われた欧州議会でのブリーフィングで発表された。

報告書「隠された鎖:タイの水産業における強制労働と人権侵害」(全134ページ)は、東南アジア近隣諸国から出稼ぎに来た漁師たちが人身取引の被害者となっている現状を明らかにしている。漁師たちは、雇用主を変えられない、賃金を期日に受け取れない、最低賃金を下回る賃金しか支払われないなどの人権侵害を受けている。移住労働者はタイ労働法の適用外であり、労働組合を結成する権利もない。

タイは違法・無報告・無規制(IUU)な漁業を理由に、欧州連合(EU)への魚介類輸出を禁じられるかもしれない「イエローカード」警告を受けている。米国も最新の人身取引(TIP)報告書で、タイは(特別調査の対象となる)Tier 2ウォッチリストに格付けされた。しかし、政府による新規制の実施が大きく遅れ、かつ水産業が改革に抵抗している。

ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局局長ブラッド・アダムズは、「欧州、米国、日本の消費者は、タイ産の魚介類が人身取引や強制労働とは関係ない、と確信できるべきだ」と述べる。「しかし、水産業の浄化をタイ政府がハイレベルで約束しているにもかかわらず、問題がまん延している。」

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、現役・元漁師248人(ほぼすべてがビルマおよびカンボジア出身)、タイ政府関係者、船主および船長、市民活動家、漁業協会の代表者、国連機関の職員に聞き取り調査を行った。調査対象者のうち95人はすでに届出済みの人身取引事件の被害者、残り153人は少数の例外を除いて現役の漁師だ。調査は2015年〜2017年にかけ、タイの主要漁港すべてで実施した。

2014年と2015年に、タイ漁船上での漁師の人身取引および虐待行為がメディアに報じられたことを受け、EUがそのIUU水産業プログラムのもとで、タイ政府が問題を野放しにしているとしてイエローカードを出した。 EUは、タイ漁船が非正規滞在者(一部は人身取引被害者)の権利侵害を止めるよう強く求めた上で、タイ政府が人権侵害に終止符を打つ改革に取り組むべきと要求した。米TIPプログラムは、タイを最悪レベルよりひとつ上のTier 2ウォッチリストに格付けすることで、圧力をかけてきた。

タイ政府は古い漁業法を廃止し、水産業を規制する新たな命令を発出。また、賃金と労働条件を定めた労働法の主要条項の適用を漁船労働者にも拡大し、海水産業における労働権の保護に関する命令(2014年)の採択を通じて、国際労働機関(ILO)条約の一部を法律として制定した。これにより国外からの出稼ぎ漁師は法的書類を保持していなければならなくなり、漁船の出入港時に乗組員名簿の提示も義務付けられた。これは、船長が乗組員を殺害するといった最悪の虐待行為を阻止するのに役立っている。また、出入港時に漁船を検査するための報告(Port-in Port-outシステム)を義務づけ、海上での漁船検査手続を確立した。

船舶監視システムや海上での活動を30日間までに制限するといった措置は、漁師の労働状況の重要な改善につながった。しかし、強制労働への対応など、重要な労働・人権保護措置で、しばしば結果よりもかたちが優先されている。労働検査制度は、主に国際的な消費にむけた演出なのだ。たとえばPort-in Port-outシステムのもと、担当役人が船長や船主とは話して書類も検査するが、出稼ぎ漁師に聞き取り調査をすることはほとんどない。

タイ労働省と担当部門にかなりのリソースが割かれたにもかかわらず、タイ漁船上で働く漁師の効果的かつ組織的な検査が存在しているとは言えない。たとえば、漁業従事者47万4,334人の検査を行ったにもかかわらず、強制労働のケースを1件も特定しなかったことが、2015年の人身取引に関する報告書でわかっている。最近では、漁師に関する5万件超の検査で、1998年の労働保護法、2014年の命令、および付随規制の定める労働条件や労働時間、賃金、船上での取扱いなどに抵触したケースが1件も発見されない、という信じがたい結果となっている。

漁師を借金で縛って、雇用主の変更をさせない従来のやり方が、漁師による身分証明書の保持、契約書の受け取りおよび署名、そして月給の義務化の徹底を妨害している。タイ刑法では強制労働に関する罪が定められていないことから、法執行と抑止効果の間に大きなギャップが残っている。

 

前出のアダムズ局長は、「タイ政府のコミットメントの欠如は、水産業における強制労働を防止するための規制やプログラムの失敗を意味する」と指摘する。「タイ産魚介類の国外生産業者、バイヤー、小売業者は、強制労働ほかの人権侵害を確実に終わらせるために、重要な役割を果たすべきだ。」

いくつかの点で、近年事態は悪化していることがわかっている。たとえばタイで働く非正規滞在者の数を減らすため、2014年に導入された政府の「ピンクカード」登録制度は、漁師の法的地位を特定の場所や雇用者に結び付けるものだ。そのため、雇用先を変えるのに雇用主の許可が必要となり、人権侵害の温床になっている。ピンクカード制度は、雇用契約内容を知らせることを義務づけられているのに、移住労働者に知らせていなかったり、そのコピーを渡していなかったりする慣行とならんで、非良心的な船主や船長がコンプライアンスと口先では言いながらも、強制と欺瞞を隠す手段となってしまっている。このようにして、権利侵害の常態化が、役人たちの黙認の下、チェックされないままになる。コンプライアンスの証明は、水産会社が提出する紙の記録で事足りるとされているからだ。

タイ労働法下で移住労働者が権利を主張することは難しい。船長や船主からの報復や虐待を漁師が恐れていることが主な原因だが、タイ政府が、団体交渉をするための労働組合を結成する権利を移住労働者に対しては制限していることも原因だ。1975年労働関係法の下で、タイ国籍を持たない者は労働組合を結成したり、組合リーダーとなることを禁じられている。

タイ政府、EU、米国政府などに対するヒューマン・ライツ・ウォッチの勧告はこちら

アダムズ局長は、「紙上では見栄えがよいが、適切に執行されていない規制に騙されてはならない」と述べる。「EUと米国は漁師の権利・健康・安全を守るため、速やかにタイへの圧力を強める必要がある。」

漁師の証言の抜粋

“I didn’t know what was going on when I arrived. They just put me in a lockup, and it was only when the boat came in that I realized that was where I’d have to work. I went to do my pink card application on the 4th, and on the 5th I was out on the boat.”
–Burmese trafficking survivor, Bang Rin, Ranong province, March 2016

“If I want to quit working here I need to request permission from the employer. Some employers allow us to leave, but some will claim we must pay off debts first. For example, if I can pay 25,000 baht [US$762] to an employer … he may allow me to leave, but if he isn’t satisfied … I would have to pay whatever he demanded.”
–Thet Phyo Lin, Burmese fisher, Mueang Pattani, Pattani province, August 2016

“You can’t leave because if you leave you won’t get paid, and if you want to leave at the end it’s only if they let you. Unless you leave without your money and your [pink] card, you have to obtain their permission.”
–Bien Vorn, Cambodian fisher, Mueang Rayong, Rayong province, November 2016

“My pink card is with my employer. [He keeps it] because some of us run away without having paid off our debts yet. Some employers think that we will lose [the cards] or run away from them.”
–Veseth San, Cambodian fisher, Mueang Rayong, Rayong province, November 2016

“[The Thai officials] come maybe 10 at a time in a vehicle – men and women. They have us line up, show our pink cards, call out our names, we raise our hands, they’re gone.”
–Tong Seng, Cambodian fisher, Mueang Rayong, Rayong province, November 2016

We don’t have time for actual rest. For example, we’ll depart at 6 a.m. from the port and then deploy the nets to catch the fish, and after awhile we haul up the load. We’ll do that routinely until late at night, depending on the amount of fish we catch. So it’s already the morning of the next day by the time we get back to port. However, we don’t have a chance to rest because then we have to start unloading all the fish.”
–Sai Tun Aung Lwin, Burmese fisher, Ratsada, Phuket province, March 2016

“It was torture. One time I was so tired I fell off the boat, but they pulled me back on board.”
–Zin Min Thet, Burmese trafficking survivor, Bang Rin, Ranong province, March 2016

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