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(ニューヨーク)- 国際サッカー連盟(以下FIFA)の次期会長は、今後のW杯開催国に対し基本的な人権規範の遵守を確実に義務づけるべきだ、と本日ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。FIFA会長選は5月29日にチューリッヒで実施される予定。

予定されている会長選のわずか2日前に、米司法省がFIFAの幹部14人を、恐喝や通信不正行為、マネーロンダリング(資金洗浄)などの罪で起訴した。会長選の候補者は、5選を目指すスイスのブラッター現会長とヨルダンのアリ・フセイン王子の2人となった。

ヒューマン・ライツ・ウォッチのグローバル・イニシアチブ部長ミンキー・ワーデンは、「人権侵害や汚職は、国際サッカーの運営基盤を揺るがすものだ。FIFAの次期会長には、進行中であるこれらの危機対策で陣頭指揮をとることが求められている」と述べる。「世界各国がW杯の招致活動をするときは、ルールの遵守も当然求められるべきだ。人権をないがしろにし、差別的な開催国のダブルスタンダードを許すのではなく、FIFAに求められているのは、競技の名のもとで行われている人権侵害の根絶に、その強大な力を用いることだろう。」

4月に、ヒューマン・ライツ・ウォッチや競技団体、労働組合を含む主な権利団体の新同盟「スポーツ&ライツ・アライアンス」(以下SRA)は、FIFA会長選の各候補者に宛て質問状を送付。W杯ロシア大会(2018年)とカタール大会(2022年)に関連する人権侵害と、FIFAの改革手続きに関する具体的質問をいくつか提起した。更にこの書簡では、これら2大会と関連する権利・労働侵害に各候補国が取り組むことを要請。具体的には、カタールの搾取的な労働制度の主幹とされる、出稼ぎ労働者のスポンサー制度「カファーラ」などがある。

前出のワーデン部長は、「今回の逮捕劇でアカウンタビリティ(真相究明・責任追及)がFIFAの制度から欠如していることが浮き彫りになった。しかしそれだけではなく、W杯開催に向けた大規模なインフラ建設に携わる、大勢の出稼ぎ労働者たちが置かれた状況も新たに精査されるべきだ。」

ブラッター現FIFA会長は17年にわたり実権を握ってきたが、これら諸問題の解決に関し個人的な約束はしてこなかった。その代わりに会長事務所が、FIFAのこれまでの汚職への対策、また長年見送られてきた、招致プロセスにおける人権および労働基準、持続可能性、反汚職対策の見直しについて述べた声明を発表した。

2022年のカタール大会では、8つの新スタジアムとインフラの建設に、数千人規模の出稼ぎ労働者が携わっており、その費用総額は推定2,000億米ドルにも及ぶとみられる。カタールで働く出稼ぎ労働者の大半が南アジア出身だが、W杯建設に関わる労働者の状況を取材しようとしていたドイツと英国のテレビ局スタッフが、逮捕される事件もあった。

ヒューマン・ライツ・ウォッチはソチ冬季五輪の前に、出稼ぎ労働者の搾取問題を調査・検証。そのなかには、2018年のW杯ロシア大会の会場にもなるフィシュト・オリンピック・スタジアムの建設過程も含まれていた。ロシア連邦刑執行庁は先日、経費節減対策の一環として、W杯関連プロジェクトも含む建設資材を製造する工場で、囚人の労働を認める動きに支持を表明した。

こうした危険性について、欧州議会で近ごろ証言した前出のワーデン部長は、「もし新FIFA会長が、次のW杯前に人権改革の実施を怠るようならば、確実に更なる人権侵害が起きるだろう」と指摘する。「W杯観戦は誰もが楽しみにしているもの。だが、搾取され、騙され、虐待された労働者の手で建設され、最悪の場合は犠牲者すら出たかもしれないスタジアムでの観戦を望むスポーツファンなどいない。」

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