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(ブリュッセル)-ベルギーで家庭内暴力を受ける移民女性の多くが、強制送還の危険ゆえに、必要な保護を受けられないでいると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日公表した報告書で述べた。報告書はベルギーの「女性の日」にあたる11月11日に先だって公表された。

全59ページの報告書「法律に見捨てられて:保護を求めるベルギーのDV被害移民女性が直面する障害」は、同国内で家庭内暴力を受けている移民女性が保護を受けようとするとき直面する、3つの主要な欠陥を明らかにした報告書。夫やパートナーと生活を共にするためにベルギーに移住してきた女性は、自分たちの在留資格が確定する前に暴力を訴え出た場合、非正規滞在移民の場合と同様、強制送還される危険がある。家庭内暴力の被害者(特に非正規滞在移民女性の場合)はシェルターに入居しにくい事情がある。

ヒューマン・ライツ・ウォッチ女性の権利局長、リースル・ガルンソルツは「私たちが聞き取り調査した女性たちは悲惨な選択に直面していた。パートナーによる虐待に耐えるか、暴力を告訴して強制送還の危険を冒すかしか道はないからだ。家庭内暴力に遭っている全ての女性が、移民としての在留資格にかかわりなく、必要な助けを得られるよう、ベルギー政府は保証する必要がある」と指摘した。

ベルギーは家庭内暴力を予防・捜査・訴追するため、被害者を守る立法措置や国家レベルでのアクションプランなどの政策を打ち出してきた。しかし、移民女性向けには十分に対応できていないことをヒューマン・ライツ・ウォッチの調査は明らかにしている。「欧州評議会女性に対する暴力及び家庭内暴力の予防及び対策のための協定」(the Council of Europe Convention on Preventing and Combating of Violence against Women and Domestic Violence)は、移民の在留資格にかかわらず保護を保証するよう各国に義務付けており、ベルギーは最近署名したものの、まだ批准はしていない。

夫やパートナーと生活するためベルギーに移民する女性に、同国在留を認める法律はあるが、移住申請の審査中に、女性が虐待者の元から離れる場合や、女性がまず当局に伝えることなくそうした行動をとる場合、そしてパートナーがベルギーから離れる場合、女性は保護されない。暴力の立証と所得条件もまた障害になっていることを、ヒューマン・ライツ・ウォッチは明らかにした。

12歳の子どもを持つトルコ人女性ゴークスはトルコ国籍で、夫の虐待から逃げたものの、法的在留資格が決まるまで、夫のもとに戻らざるを得ないと後になって考えた、と彼女の義理の姉(妹)はヒューマン・ライツ・ウォッチに話した。

非正規滞在の移民女性は特に弱い立場にある。ベルギー国内での非正規滞在は刑法犯罪で、警察は非正規滞在容疑者を全て、州入国管理当局に報告する義務がある。敢えて暴力を届け出る女性には合法的な在留資格を得るための手段がほとんどない。子どもがいる場合に特にそうだ。カメルーン出身の35歳の女性・ンガーラは、夫からの虐待を7年間耐えてきたが、ベルギー国籍を持つ子どもたちを通して永住資格を得て初めて、虐待を届け出ることができた。「私その時に自信を持ったのよ。だって在留資格が手に入ったんですもの」と彼女は話していた。

移民したばかりの女性は、家族や友人による支援ネットワークを持たないことが多く、虐待から逃げ出す際に、シェルターに頼らざるを得ない場合が多い。しかし、ベルギーには十分なシェルタースペースがなく、そのため、女性は虐待を受ける家庭に追い返されている形だ。

非正規滞在の移民女性は、シェルターに入ろうとすると特別な障害に直面する。つまり、費用がかかるのが一般的なのだ。それが出来ない非正規滞在女性は、地元当局からの財政支援を受けるための登録が出来ない。他の一般的な家庭内暴力の被害者なら可能なものだ。

ジャーメイはガーナ出身の非正規滞在女性だが、ヒューマン・ライツ・ウォッチに、彼女を殺すと脅す「極めて暴力的な」パートナーから逃げ出した後、居住先が何処にも見つけられなかったので、路上生活に辿り着くしかなかったと話した。

29歳のモロッコ人女性、ハイェットは2人のモロッコ国籍の子どもを連れて、暴力を振るう夫から逃げ出した当初、シェルタースタッフに空きがないと言われ、家族の所に厄介になるよう勧められた。しかし、助けてくれる家族や友人はいなかったので、ハイェットと子どもは夫との生活に戻らざるをえなかった。暴力が再び振るわれるようになった後、彼女たちは2度目の脱出を敢行、その時やっとシェルターに空きがあった。

「他に行くところがないからといって、暴力を振るわれる家に戻らなければならないなんてことは、あってはならない。女性用のシェルターは、助けが必要な女性と子どもを追い返す必要がないよう、十分な収容能力を持っていなければならない」と前出のガルンソルツは指摘した。

報告書の連邦政府、地方政府、地域当局に対する勧告の主なものは以下のとおり。

●「欧州評議会女性に対する暴力及び家庭内暴力の予防及び対策のための協定」を批准し実施すること

●1980年に成立した「外国人の領土立ち入り、在留、居住、退去に関する法律」(the 1980 Law on Access to the Territory, Residence, Settlement and Removal of Foreigners)を改正し、家庭内暴力に遭っている非正規滞在移民女性が、人道的見地から在留許可を申請できるようにするとともに、申請に対する決定が出されるまで本国送還が停止されるようすること

●同法を改正し、虐待をする身元引受人に在留権を依拠している移民が、身元引受人には関係なく在留許可申請できるようにすること

●女性用シェルターを必要とする暴力被害者については、在留資格にかかわりなく、入居を保証するための公的資金を利用できるようにすること