(香港)-都市条例の執行を担当する中国の準警察機関「“城管”」(刑事警察とは異なる)は、政府の不十分な管理、訓練不足、不処罰などの結果、市民の安全を守る組織というよりむしろ市民の脅威となっている実態がある、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日公表した報告書で述べた。
全76ページの報告書「叩きのめして全てを奪え」(Beat Him, Take Everything Away)は、都市部の法執行管理を担当する“城管”局が、市民に対し、時に重傷者や死者が出るほどの暴力を振るったり、不法拘禁、財産の違法押収などの人権侵害を行っている事態を詳述している。
ヒューマン・ライツ・ウォッチの中国局長、ソフィー・リチャードソンは「“城管”による人権侵害は、法の支配という概念を覆すものだ。法を執行するためにしっかり定義され制限された活動を行うのではなく、自らの権力を濫用している隊員が多い」と語る。
1997年に設立された準警察機関“城管”局は、現在では中国全域の少なくとも675都市に合計数千は存在する。原則として刑事事件を扱わず、環境や衛生、交通そして都市景観などを管理する規則等の条例を執行すること及び、法律上認められている場合に違反者に罰金を科すことが職務とされている。条例違反容疑者の逮捕や、過度な強制力行使の権限は有していない。
しかし、“城管”の職務範囲を定めた包括的な国の規制枠組みが存在せず、統一された訓練義務や行動規定もない上に、組織的な管理監督もなく、“城管”が関与した疑いのある人権侵害の捜査も行われていない。その結果、場当たり的な“城管”の管理と規制しか行われていない。
「民衆の間では、“城管”がいくら残虐・横暴な振る舞いをしても彼らは責任を問われないというのが常識となっている。多くの中国国民にとって、“城管”という言葉は、いまや暴力、不法拘禁、泥棒と同義語になっている」と前出のリチャードソンは語る。
民衆との間の激しい衝突事件の中で“城管”隊員が犠牲になる事件も起きている。ヒューマン・ライツ・ウォッチの調査は、この数年の間に、“城管”隊員が職務遂行中に殺害された事件が4件あることを明らかにした。
“城管”による人権侵害の被害者25人(その多くが露店商人)は、ヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、平手打ち・突き飛ばす・地面に押し倒す・強く地面に押し付ける・引きずる・殴る・蹴る・車から道路に投げ落とすなどの暴力を受けたときの状況を詳述した。“城管”隊員には容疑者を拘束する権限が無いにも拘らず、聞き取り調査に応じた人の何人かは、実際に拘束されたと話していた。更にその一部の話では、拘禁中或いは拘禁に抵抗した際に、暴行を受けたという。多くの露天商が、ヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、自分の車と商品を押収されたと話していた。幾つかのケースでは、“城管”の高官たちが押収物品の返還に、恣意的罰金と思われる金銭の支払いを要求しており、“城管”による汚職が行われていた可能性がある。ヒューマン・ライツ・ウォッチの聞き取り調査に応じた人々の殆どが、“城管”は、その活動の法的根拠に関する説明を拒否したと話していた。
中国国営メディアも、ヒューマン・ライツ・ウォッチの“城管”の調査結果と同様の報道を行っている。今回の報告書の添付書類21ページにわたる別表は、2010年7月から2012年3月の間に国営メディアに掲載された“城管”関連の批判的な記事を列挙した表である。こうした国営メディアの記事は、“城管”隊員による過度な強制力や不法拘禁事件、そして、こうした人権侵害に関与したと見られる“城管”に法的措置を取らない政府当局者と警察の無為無策について批判的な記事である。
グーグル・サーチで“城管”関連の記述を検索すると、“城管”打人(“城管”が人びとに暴力を振るう)という記載が数百万件も表示される。
“城管”による人権侵害、そして、“城管”の横暴が放置され不処罰が続いていることに対する市民の怒りは、中国全域の都市で暴力を伴う激しい抗議行動が多数起こる要因になっている。住民たちの自宅の多数の取り壊し・強制退去事件(ある中国の人権団体は「不法取り壊しの大流行」と表現)にも、“城管”は関与している。“城管”の人権侵害に関して報道しようとした中国人ジャーナリストもまた、不法拘禁と身体的暴力の標的にされている。
「“城管”の人権侵害は中国国内の誰もが知るスキャンダルだ。政府は“城管”による襲撃事件を、明確に非難し、そのような行為の責任者を捜査するよう、速やかに行動すべきだ」と前出のリチャードソンは語る。
“城管”の行き過ぎた行為に対し、中国の法律専門家や学者からも改革を求める声が上がっている。中国の専門家たちから提案された改革案は多岐にわたり、“城管”の活動について新たに厳格な法律を作る案から、“城管”を完全廃止して、その職務を中国公安局(警察)に移管する案まである。地方組織のなかには、“城管”の人権侵害への批判を受けて、“城管”が職務遂行上「過度の強制力」を行使することを明確に禁止するなど、“城管”の権力を制限する対応策を講じた地方組織もある。
しかし“城管”がその職務の過程で、いかなる行為は職務権限内で、いかなる行為は禁止されているのかについて明確にする取り組みが行われているという情報はほとんどない。訓練や規律の標準化に向けた取り組みを伝える公開情報も、殆どない。例えば、2009年4月に“城管”活動に関する北京市のマニュアルがインターネット上に流出したが、この流出したマニュアルには、“城管”は「問題の処理にあたり、顔に血の跡や、身体に傷を残さず、周囲に人びとが集まることのないよう、配慮しなければならない」と規定されていた。このマニュアルが改訂されたことを示す、市民が入手可能な証拠も無い。原則として、現行の中国国内法上、権力濫用した“城管”を刑事訴追することは可能であるが、そうした訴追が行われた例はほとんどない。
「“城管”の人権侵害に対する不処罰問題の根っこには、国の治安機関全体が、権力を拡大し巨額の資金を持ちつつ、事実上法の上の存在となり完全に無責任体質となっている問題と同根の問題がある。横暴な“城管”が中国国内法を無視して大丈夫という現在の事態が放置されれば、市民の怒りは一層大きくなり、より激しい衝突がおきる要因となるだろう」と前出のリチャードソンは語る。