(ニューヨーク)–イラン政府は、国外に拠点を置くペルシア語メディアの記者の親族や友人に対し、情報の入手や報道の妨害を意図して、脅迫行為や身柄拘束を続けているとヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。BBC記者の家族の1人がイラン政府により恣意的に逮捕され、2週間近くにわたって人質として拘束されている。この人物は、2012年3月2日の総選挙を控えた記者やブロガーに対する新たな大量逮捕劇の最新の犠牲者の1人だ。

1月中旬、治安維持軍はテヘランにあるBBCペルシア語放送記者の親類宅を家宅捜索し、所持品を没収した上で、親類の1人をエヴィーン刑務所へ連行した。数時間後、この親戚の取調官を名乗る男性から、ロンドンで働くBBC記者に連絡が入り、釈放の交換条件としてBBCに関する情報提供が持ちかけられた。ヒューマン・ライツ・ウォッチが入手した情報によれば、当局は数日前にこの被収容者を釈放した。

「BBC記者の親族が拘束されたことは、記者と家族に圧力を加えることで、イラン人ジャーナリストに嫌がらせを行うことを狙う弾圧策の一つに思われる」とヒューマン・ライツ・ウォッチ中東局長サラ・リー・ウィットソンは述べた。「つまり当局は記者の親族を拘束して記者自身とBBCを共に黙らせたかったのだ。また今回の事件は、政府の弾圧の手が、国境を越えて遠くまで及びうるというメッセージでもある。」

テヘランにあるエヴィーン刑務所の取調官を名乗る男性は、インターネットでこの記者と接触した。男は記者の仕事内容を尋ねた上で、もし自分に協力してBBCの記者たちの連絡先と情報源を教えれば、当局は拘束中の家族を釈放すると述べた。約2週間後、当局はこの人物を保釈した。当局側がこの家族を犯罪行為で起訴したかは不明だとヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。

ヒューマン・ライツ・ウォッチがインタビューしたBBC記者は、記者の家族が標的とされたことに懸念を表明した。そして「BBCで働く私も同僚たちも、イラン国内の様々な親政府系ウェブサイトやブログで毎日のように侮辱され、個人攻撃を受けている。だが今回の件は越えてはならない一線を越えており、私たちは黙っているわけにはいかない」と述べた。「BBCで働くことは一人ひとりが個人として決めたのであって、家族が犠牲になるのは筋違いだ。また私たちの家族が、イランと他国との間の政治ゲームのコマにされることがあってはならない。」

BBCはスタッフ自身やイラン国内の家族と友人に対する攻撃の事実について、2月2日のニュース番組内で公表することを決めた。番組にはBBCペルシア語放送のサーデク・サバ局長が出演し、ここ数週間でイラン当局によってBBCペルシア語放送の複数の記者の家族や友人らが脅迫や取調べを受け、逮捕されていることを明らかにした。同局長はまた取調べや拘束の対象者には、イラン国内でBBCペルシア語放送のために働き、あるいは協力したとテレビで無理矢理証言させられた可能性があることを示す証拠があるとした。その上でBBCペルシア語放送はイラン国内で一切活動していないと付け加えた。同局長はヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、この数週間でBBCスタッフの家族や友人への圧力が強まっているとし、イラン政府の一連の行動は「前例がない」とともに「冷酷な」ものだと述べた。

イラン政府はBBCペルシア語放送テレビ(2009年1月放映開始)にとくに神経をとがらせている。抗議運動に発展した2009年の大統領選挙を詳しく報道したからだ。このときBBCペルシア語テレビは数百本の電話インタビューを行い、治安維持軍による死者や負傷者の発生、恣意的逮捕についての証言をデモ参加者や目撃者から得ていた。2009年6月から当局と親政府系ウェブサイトは、BBCとともに、BBCで働くか協力関係にあると推測した国内外の個人を繰り返し攻撃している。2011年9月17日に、イラン治安維持軍はドキュメンタリー番組制作にあたってBBCペルシア語放送に協力したとして、独立映画製作者6人を逮捕した。全員がエヴィーン刑務所に送られ、情報省管理下の悪名高い第240区に収容されたが、後日釈放された。

このほかヒューマン・ライツ・ウォッチは、衛星放送電波に対するイラン当局の妨害行為を記録している。妨害対象は、BBCペルシア語放送、ボイス・オブ・アメリカ(VOA)、ドイッチェ・ヴェレなど国外に拠点のあるペルシア語放送チャンネルだ。2010年5月にセイエド・エッザトッラー・ザルガーミー・イラン国営放送総裁は、政府が外国の衛星放送への電波妨害を行っていることを公式に認めた。ヒューマン・ライツ・ウォッチは若手記者クラブ(イラン国営放送運営の養成機関)などイラン国内に存在する多数の親政府系ウェブサイトの動向を観察している。これらのサイトでは、BBCペルシア語放送スタッフへの個人攻撃を含む記事やブログのエントリー、メッセージなどがつねに掲載されている。

BBCペルシア語放送スタッフの家族への逮捕や脅迫は、イランと英国の政治的緊張の高まりのなかで起きている。11月29日にテヘランで、デモ隊が英国大使館の敷地の塀を破壊する事件があったが、これは明らかに英国がイラン中央銀行を制裁対象とし、EUによるイラン産原油不買の動きを後押しするとしたことへの反応だ。事件後に英国は大使を召還し、テヘランにある大使館を閉鎖した。

この数週間で当局が、今挙げた以外にも2人のジャーナリストとブロガーの身柄を、エヴィーン刑務所2-A区(イラン革命防衛隊の管理下)で拘束している可能性があるとの情報をヒューマン・ライツ・ウォッチは入手した。この2人は最近の連続的な逮捕劇の一環で逮捕された。1月15日と17日に、治安維持軍はパラストウ・ドクーヘキーとマルズィーイェ・ラスーリーをそれぞれ逮捕した。治安維持軍はこの3週間で、2人以外にも複数のジャーナリストやブロガーを逮捕している。今回の逮捕劇は「敵が3月の総選挙中にイランを不安定化させようとしている」と同国政府高官が何度も警告を発しているなかで起きている。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、当局がドクーヘキーとラスーリーを逮捕したのは、2人をBBCペルシア語放送と結びつけようとするねらいがあることを示唆する情報を入手している。

1月24日、ヘイダル・モスレヒー情報相は、治安維持軍と情報部により、今度の総選挙の正当性を失墜させることをねらった様々な策動が発見、阻止されたと発表した。そして「扇動主義分子と国家の敵とのつながりはすでに確認されており、[それを裏付ける]証拠も多数存在する」と主張した。BBCスタッフの家族の逮捕や今年に入ってからの連続逮捕劇と、モスレヒー情報相のこの24日の発表との関係はいまだ明らかになっていない。

ジャーナリスト保護委員会によると、イラン国内の刑務所には12月時点で42人のジャーナリストとブロガーが収監されている。人権団体筋の情報によると、2011年1年間だけで60人以上のジャーナリストが亡命を余儀なくされており、2009年以降に当局は少なくとも40誌を廃刊にした。ヒューマン・ライツ・ウォッチはイラン政府当局に対し、表現の自由などの基本的権利の行使に関わって現時点で拘束され、あるいは起訴されているジャーナリストとブロガー全員の無条件釈放を重ねて求めた。

「最近の一連の逮捕劇、とくに海外で働くジャーナリストの逮捕は、イラン国内での情報の自由の押さえ込みをねらった現在進行中の弾圧策の強化であり許し難い」と前出のウィットソンは述べた。「今回の事態は、イラン政府当局はたとえ内外のイラン国民の生活を破壊することになったとしても、放送電波や新聞、インターネットを取り締まるためには手段を選ばないという事実をありのままに示すものだ。」