(ニューヨーク)-ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表の報告書で、各国政府は学校への武力攻撃を明確に非合法化するとともに、その軍事利用を制限し、戦時における生徒と教師に対する保護を改善すべきだ、と述べた。
報告書「学校と紛争:攻撃と軍事利用からの学校保護に関する各国国内法および実態の世界的調査」(全162ページ)では、世界56カ国の国内法と軍事政策を詳しく調査。国際刑事法は学校への武力攻撃をはっきりと禁止しているが、各国政府は国際基準に従い国内法を改正・調整することに消極的だ。また、武装勢力が学校を基地や兵舎に転用している国では、子どもの教育を受ける権利に悪影響が生じているものの、これを解決するための対策もほとんどとられていない。
ヒューマン・ライツ・ウォッチ子どもの権利局の上級調査員ビード・シェパードは 「子どもには安全な環境で学校に通う権利がある。それは紛争時でも同じだ」と述べた。「学校への武力攻撃やその軍事利用は、子どもの安全と教育を危険にさらす。」
2008年12月以来、少なくとも16の武力紛争で、学校が武力攻撃の対象になった。 主に反政府武装勢力が学校を政府のシンボルと見なしたり、たとえば女子教育推進などの教育行政方針に反対して学校を攻撃。国際刑事裁判所(ICC)を設立したローマ規程は、教育目的施設への意図的な武力攻撃は、当該施設が軍事目標でない限り戦争犯罪としている。しかしながら、学校に対する意図的な武力攻撃をはっきりと非合法化しているのは、調査対象国の56カ国中わずか27カ国のみであることが明らかになった。
前出のシェパードは、「学校への武力攻撃は子どもの未来に対する攻撃であり、国の発展に対する攻撃でもある」と指摘。「学校への武力攻撃は戦争犯罪に該当しうると単純明快に規定する法律の存在は、学びの場が戦時の攻撃対象であってはならないという重要なメッセージになる。」
前に述べた調査対象期間内に、少なくとも14の武力紛争で、政府軍か反政府武装勢力が基地、兵舎あるいはその他の軍事目的で学校を利用している。いくつかのケースでは、軍事利用のために生徒がすべて学校から追い出された。または、軍や武装勢力が学校施設の一部を占有したため、生徒は残りのスペースでの勉強を余儀なくされるというケースも見受けられた。
学校を軍事目的と教育目的で同時に使用すれば、一般市民を不必要な危険にさらすだけでなく、国際人道法または戦争法に違反する。更に、長期的に学校を軍事目的に使用すれば、子どもの教育を受ける権利を阻害する危険がある。
ヒューマン・ライツ・ウォッチが行った世界的調査によると、軍による教育施設の利用をはっきりと禁止あるいは制限する法律、または軍事政策を導入しているのは8カ国。具体的には、フィリピン、コロンビア、アイルランド、インド、ニュージランド、エクアドル、イギリスの7カ国と、高等教育施設に関して規制しているギリシャである。ただし、フィリピン、コロンビア、インドでは、法律はあるものの、軍による学校利用が懸念され続けている。
前出のシェパードは、「フィリピンとコロンビアの例は、軍による学校使用禁止は、反政府勢力との戦いと相容れないものではない、ということを証明している」と指摘。「他国も、生徒と教育を危険にさらす行為を止めるため、同様の政策をとるべきだ」とした。
2008年12月以降に武力攻撃を受けた学校のある16の国は次の通り:アフガニスタン、ビルマ、中央アフリカ、コロンビア、コートジボワール、コンゴ民主共和国、インド、イラク、イスラエルおよびパレスチナ占領地、リビア、パキスタン、フィリピン、ソマリア、スーダン、タイ、イエメン
調査対象期間内に政府軍または反政府武装勢力が学校を占拠したり、基地や兵舎、その他の軍事目的で使用した国は少なくとも14あり、次の通り:アフガニスタン、中央アフリカ、コロンビア、コートジボワール、コンゴ民主共和国、インド、リビア、パレスチナ占領地、フィリピン、ソマリア、スリランカ、スーダン、タイ、イエメン
武力紛争時に、軍事目的で使用されていない学校施設を意図的に武力攻撃するのは戦争犯罪である旨を、刑法及び軍法に明記するようヒューマン・ライツ・ウォッチは各国政府に求めた。子どもや教師の安全確保と子どもの教育を受ける権利を保障するため、軍による学校の使用を禁止/規制する国内法などの政策を、すべての国が導入すべきだ。