ナイジェリアの警察官は、検問所で日常的に運転者や通行者を恐喝。時にはそれが暴力やその他の虐待行為に発展することもある。警察官の上司は、しばしばこうした恐喝行為によって得られたわいろをシェアすることを強要する。

© 2010 Basati pour Human Rights Watch

(ラゴス)-「ナイジェリア警察で汚職が蔓延している。その結果、一般市民に対する人権侵害が拡大し、同国における法の支配が大きく損なわれている」とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日公表した報告書で述べた。ヒューマン・ライツ・ウォッチはナイジェリア政府当局に、警察予算の透明性をただちに高めるとともに、汚職に関与した警察官たちを、その地位にかかわらずすべて捜査・訴追するよう強く求めた。

報告書「『みんなやっている』:ナイジェリア警察の汚職と人権侵害」(全102ページ)は、ナイジェリア警察が様々な汚職に手を染めている実態を調査して取りまとめた報告書。また、組織的な恐喝、警察改革に対する政治的意思の欠如、違法行為を犯した警察の不処罰などがあわさり、根深い警察腐敗がおきている実態も明らかにしている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの西アフリカ上級調査員コリーン・ダフカは「警察がしっかり機能していることは、法の支配と公共の安全の基本のはず」と語る。「ナイジェリア政府が、警察の贈収賄(わいろ)・恐喝・大規模な横領を長いあいだ放置してきたことが、ナイジェリア国民全体の基本的人権を脅かしている。」

同報告書は、合計145人以上のナイジェリア警察汚職の被害者と目撃者からの聞き取り調査を基に作成された。聞き取り調査の対象者は、市場の商人たち・職業ドライバー・セックスワーカー・犯罪容疑者・犯罪の被害者から通常の警察官及び幹部警察官まで多岐にわたる。さらに、連邦政府職員・裁判官・検察官・弁護士・宗教指導者・市民運動指導者・ジャーナリスト・外交官・武装自警団メンバーも聞き取り調査対象となった。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの調査のなかで、多数のナイジェリア警官たちが困難かつ往々にして危険な状況の中でも、模範的態度で職務にあたっていることが明らかになった。しかしながら一方、汚職と人権侵害がナイジェリア警察内にはびこっていることも明らかになった。ある巡査長はヒューマン・ライツ・ウォッチに「汚職は我々ナイジェリア警察全体に蔓延した伝染病のようだ」と嘆いた。

恐喝と賄賂(わいろ)

同報告書は、数えきれないほど多くのナイジェリア人が、武装警察官から日常的に賄賂を要求されている実態を明らかにしている。武装警察官は、たとえば、道を通行中の人びと、市場で売り買いしている人びと、日常の使い走りの途中の人びと、オフィスでの仕事中の人びとなどにわいろを要求。警官たちは、金を巻き上げるため、被害者を脅し、人権侵害を行なうことも厭わないことも多い。人びとにとって賄賂要求と恐喝の被害を受けるのは日常茶飯事だ。

ナイジェリアでは、犯罪撲滅という名目で、検問所が設置されている地域も多い。しかし一部の地域では、これらの検問所が、警察の恐喝に利用されている。徴収される賄賂はもはや標準化した「料金」のような性質さえ帯びている。検問所の警察官たちは、自分たちが金を巻き上げていることをほとんど隠そうともしない。警察幹部や政府に、一般の警察官たちのこうした違法行為を取り締まる意思がほとんどないことの裏返しだ。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの調査によれば、賄賂を払わないと、恣意的に逮捕されたり、違法拘禁されたり、脅迫の被害に遭うことが多い。そして、釈放のためには、自分や家族が賄賂の支払いの交渉をしなくてはならない。こうした恐喝をめぐって警察と運転手の間でもめごとがおこると、さらに重大な人権侵害にエスカレートすることが多い。ヒューマン・ライツ・ウォッチの収集した証拠は、要求された賄賂を払わなかった一般市民に対して、警察が、膨大な数の暴行(性暴行を含む)を行い、時には射殺にも手を染めている実態を示している。

こうした恐喝があまりに日常茶飯事なので、多くのナイジェリア人は警察の汚職に対して無関心になると同時に、警察への信頼を失っている。ある市場の商売人はヒューマン・ライツ・ウォッチに「問題が起きたら、命や財産を守るために警察が助けてくれるって期待するのが普通でしょう。でも実際は逆だよ。ヤツラは違う・・・自分の懐を温めるために金を取り立てるだけ」と話した。

「利益還元」システム

ヒューマン・ライツ・ウォッチの調査は、ナイジェリア警察幹部の一部が違法な「利益還元」を実施していることを明らかにした。このシステムにより、一般警察官は、民間からの恐喝の分け前を、指揮系統に沿って上納させられるシステムだ。つまり、恐喝に関連した人権侵害は、組織的なシステムの結果なのである。

ヒューマン・ライツ・ウォッチが聞き取り調査を行った現職検察官及び元警察官らは、「実入りの良い地位」に任命されるためには、金を支払わなければならない、と語った。そして、いったんそのポストを得たら、今度は上司から、毎日あるいは毎週恐喝の目標金額を指示され、目標達成できなければ、金にならないポストに配置転換される「罰」を受ける危険がある、という。ある警察官(police corporal)はヒューマン・ライツ・ウォッチに、上司に要求された「利益還元」の目標額をしっかり達成するために全力を尽くしていると語り、「週末に金が足りなかったら、金をとるのよ。誰かを選んで逮捕するのさ」と話した。

ヒューマン・ライツ・ウォッチが聞き取り調査をした複数の警察官は、この「利益還元」は警察幹部にまで上納されているため、恐喝などの人権侵害を行なった部下の責任追及の大きな阻害要因となっていると示唆した。

横領

同時に、警察活動の基本のために使われるべき巨額の公金を警察幹部が横領している、という疑惑もある。2009年のナイジェリア警察の予算総額は14億ドル。しかし横領と管理不全により、警察の捜査能力は貧弱で、政府の科学捜査研究施設はほとんど活動停止状態に陥っているというのが現実である。捜査に必要な資金もないため、多くの警察官は、犯罪容疑者の取調べのためにまずは拷問に頼る事態となっている。

警察官たちは、車の燃料や捜査のための必需品購入の資金も不足していると不満を述べる。ある巡査部長は、「任務遂行に必要な物資は何ひとつ与えられていない。ペンも被害届け書類も私たちが買い、保釈証書も燃料も自分たちで購入している」と語った。ある弁護士はヒューマン・ライツ・ウォッチに、ある警察官が交番に取り付けてあった電球を外した際、同僚の警察官に「電球が欲しいなら自分で買えよ」と言っていた、と話した。

警察の元監察長官(inspector general)による汚職事件に対して、画期的な有罪判決が下されたという一例はあるものの、不処罰が蔓延している実態に変わりはない。警察の人権侵害に遭ったある被害者はヒューマン・ライツ・ウォッチに、この不処罰の蔓延のせいで、警察は「自分たちがした悪事で刑務所に入ることはあり得ない」と感じるようになっている、と話している。

法の裁きと公共の安全も「金次第」

犯罪被害者は、告訴のために警察署へ出頭した瞬間から事件が訴追される日まで、捜査のあらゆる段階で金を支払うよう警察に強要されるのが常態化している。金を払うすべのない者は、加害者を法による裁きにかけることはできない。一方で、金のある犯罪容疑者は、捜査の打ち切りや便宜を図るよう、警察にたやすく買収してしまう。時に、事件の責任を被害者に転嫁してしまうことすらある。ある市民活動家は「法の裁きは、売りに出されている。一番高値を付ける人が競り落とせる」と断言した。

ある元警察官はヒューマン・ライツ・ウォッチに、全ての階級の警察官が、警察機構を単なる「金を産む機械」にしてしまった実態を説明。警察幹部は、自分の利益追求するため、ナイジェリアの富裕エリート層に警察による身辺警備を提供。こうした違法行為が蔓延しているため、一般のナイジェリア市民の安全を警察は守ってくれない実態が生まれている。結果、一部地域社会では、自己防衛のための武装自警団が生まれ、この自警団が、法を無視した悪名高いアウトローの存在となっている。そして、人権侵害と恣意的な裁きを繰り返している。

監督不行き届き

本報告書は、ナイジェリア政府閣僚や高官が、警察の監督・規律・改革に責任を負うべきであるにもかかわらず、組織的な汚職にしっかり対応をしてこなかった実態も指摘。一般市民からの苦情受付制度・警察内部のコントロール・民間による監視も貧弱かつ資金不足で、概して効果を生んでいない。警察による人権侵害や恐喝の被害を受けた人たちは、こうした人権侵害の被害を届け出ない主な理由として、報復の恐れを挙げていた。

歴代のナイジェリア政権が、本報告書に指摘された問題の多くについてすでに知っており、警察改革に関する諮問委員会などを立ち上げてきた。しかしNGOが提言した解決策や様々な政府委員会の作成した報告の大部分は、不幸にもほとんど無視されてきたというのが実態だ。

前出のダフカは、「ナイジェリア政府はあらゆるレベルで、この大規模な警察腐敗問題に真剣に取り組むべきだ」と語る。「警察幹部には、恐喝を黙認・奨励するのみならず、懸命に働いている警察官から任務に必要な資金を奪っている実態がある。まずは、こうした実態を調査し、こうした腐敗した警察幹部を排除することから始めなければならない。」