ウッタル・プラデーシュ州バラバンキの病院で妊婦検診をうける女性たち。ヒューマン・ライツ・ウォッチはインドでの妊産婦死亡率に関する報告書を発表した。

© 2009 Susan Meiselas/Magnum

(インド・ラクナウ)-インド政府は、無料で産科医療を行っている。しかし、妊娠期間中や出産時、あるいは出産後数週間内に死亡するインド人女性や少女は数万人にものぼっている、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日公表した報告書で述べた。

本報告書「悲しみの果てに:インドにおける産科医療のアカウンタビリティ」(150ページ)は、インド北部のウッタル・プラデーシュ州において、妊産婦への治療ミスが繰り返し発生しているのみならず、その原因を探り対処することも当局が怠っている現状をとりまとめている。ウッタル・プラデーシュ州は、インドの中で妊産婦死亡率が最も高い州の一つである。しかし、政府の調査によると、何人の女性が死亡しているのかを記録することさえしていない。こうした妊産婦医療の問題を抱える州は、ウッタル・プラデーシュ州のみではない。

「出産が原因で何人の女性が死亡したのかまず数えない限り、今後も、インドは、何万もの救うことができた命をまた失うことになるだろう。」とアルナ・カシアプ(Aruna Kashyap)は述べた。「アカウンタビリティー(調査と透明性)は抽象的概念のように思われるが、インド人女性にとっては生きるか死ぬかの問題である。」

本報告書では、医療システムの綻びが悲劇的な結末を招いた数多くの実例を取り上げている。例えば、カビタ・K(Kavita K)は産後合併症を患ったが、地元コミュニティーの診療所では彼女を治療できなかった。父親のスラジ・S(Suraj・S)によると、その後家族は3つの町にある公営病院に彼女を連れて行こうとした。

「水曜日から日曜日まで、5日間、私たちは病院から病院に娘を連れて行った。」と父親はヒューマン・ライツ・ウォッチに語った。「誰も娘を入院させてくれなかった。ラクナウでようやく娘は入院することができ治療が始まったけれど、1時間くらい治療したところで娘は死んでしまったんだ。」

インドは2005年、地方での医療向上を目指す重要なプログラムとして、国家農村保健ミッション(National Rural Health Mission)を作成。産科医療にとりわけ焦点を当てた。同ミッションは、出産前と出産時の無料ケア、入院サービス、総合緊急産科ケア、合併症の場合の照会、出産後のケアなどの具体的な治療を保証すると約束している。しかし、多くのケースにおいてこの制度が機能していないことを、ヒューマン・ライツ・ウォッチの調査は明らかにした。

報告書は、医療システムをしっかり監視し、プログラムと実際の治療で欠点が繰り返される原因を明らかにする方法に重大な欠陥があることを明らかにした。妊産婦がどのように、そしてなぜ命を落としたり、傷害を負ったりするのかや、何人の合併症を患う妊産婦が政府の緊急産科施設を使用することができるのかなど、一見単純で抽象的であるアカウンタビリティーを追求することが、一刻を争う現場で治療を提供し、多くの女性の命を救うために重要である。

ヒューマン・ライツ・ウォッチが特定した産科医療制度内の重要な問題は以下の通り。

●地域レベルにおいて、「いつ」「どこで」「なぜ」妊産婦が死亡または傷害を負ったのか、そして、合併症を患った女性が実際に緊急産科医療を受けられているのかについての情報の収集が行われていない

●緊急対応システムなど、緊急依頼を受け付けたり救済処置を提供するアクセス可能なシステムがない

「非常に多くのインド人女性たちが、本来なら死ななくてもすんだのに命を落としてしまったことをインド政府は認識している。インドは、国際的に主導権を握ってこの致命的な流れを変えることができる。」とカシアプは述べた。「しかしインドの素晴らしい意図にもかかわらず、産科医療制度のもとで今尚多くの女性が死傷する危険にさらされている。」

本報告書の作成のため、2008年11月から2009年8月の間に、現地調査や、ウッタル・プラデーシュ州その他インド各地の被害者やその家族、医療専門家、政府関係者、人権活動家への聞き取り調査が行われた。調査員たちは、政府の調査やインド国内のNGO及び国際的なNGOの報告書も参考にした。

ウッタル・プラデーシュでの調査は、医療保健当局は公共医療施設を高度化しているものの、まだ課題を残していることも明らかにしている。公共医療施設の大多数は、いまだに基本的かつ総合的な緊急産科医療を提供していない。多くには助産術の訓練を受けた人が勤務しているが、適切な薬剤、緊急医療、合併症に対する照会のシステムなど、機能的な医療保健制度が存在しない限り、妊産婦の命を救うために出来ることは極めて少ない。

名目上妊産婦に保証されていることと現実には非常に大きな違いがある。妊産婦が出産のため医療施設に行くのに日頃から付き添っている保健婦ニラジャ・N(Niraja N)はヒューマン・ライツ・ウォッチにこう語った。

「誰も無料のサービスなんて受けていません。私たちが妊婦を出産のために病院に連れて行くと、妊婦自身が、へその緒を切ってもらうためや・・・薬のため、体を洗ってもらうためにもお金を払わなければならないのです。病院の看護婦もお金を請求するんです。彼女たちは直接家族に請求しません・・・私たちが家族からお金をもらって、それを彼女たち(病院の看護婦)に渡すのです・・・私たち(アシャ:ASHAs)が病院の看護婦の意見に従わなかったり、訴え出ると脅したりしたら、彼女たちは私たちに目をつけるんです。私たちの顔を覚えて、次に持ち込んだ私たちの患者(出産)をしっかり面倒見てはくれません。私たちを見ると通常の患者でも‘他へ照会してしまう'って言い出すんです。」

このような問題が発生する理由には、多くの妊産婦が、医療保健制度の下でどのような治療を受ける権利があるか知らず、医療施設や医療従事者の措置に関する苦情や不安が聞き入れられ、対応がとられているかを知るすべがないこともある。