A prosecutor reads statements during the trial of five ethnic Uzbek men accused of killing an ethnic Kyrgyz man during the June 2010 violence in southwest Kyrgyzstan.

© 2010 Dean C.K. Cox

(ビシュケク)-2010年6月にキルギス共和国南部で起きた民族衝突を受けて行われた捜査と裁判には重大な問題があり、法の正義を実現しようとする努力を台無しにしている、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日公表した報告書で述べた。

全86ページの報告書「歪められた正義: 2010年民族衝突に関するキルギス共和国の捜査と裁判の問題点」は、2010年に同国で起きた民族衝突に対する犯罪捜査において、恣意的逮捕と拷問を含む虐待が広範に行われた結果、その信頼性は大きく損なわれたと断定している。検察当局は拷問疑惑への捜査を拒否し、裁判所は拷問で得た疑いのある自白に大きく依拠したまま被告に長期刑を科している。法廷審理での強要脅迫が日常茶飯事で、被告人やその弁護士への暴力行為がまかり通る場合すらあった。極めて重大な欠陥のある捜査と裁判の悪影響を被ったのは、主に少数派ウズベク族だった。こうした問題は、民族和解に向けた努力を損なうとともに、民族間の緊張を煽っている、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。こうした緊張は、新たな衝突に繋がる可能性もある。

ヒューマン・ライツ・ウォッチ緊急事態調査員ウレ・ソルバンは、「非常に多くの事件で、逮捕から有罪判決の全過程が言語道断な人権侵害で損なわれている。6月の民族衝突の際の犯罪の責任者は法の裁きを受けるべきだが、当局は法に従う必要がある」と語る。

本報告書は、弁護士、被告人、被害者、当局関係者などへの40人以上に対する聞き取り調査を基に作成されている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチはキルギス政府当局に以下を強く求めている。

● 拘禁中の違法行為へのゼロトレランス政策を直ちに実施する事

● 拷問事件の発生を防止し、全ての事件を処罰するため、キルギスの法律が十分に国際法上の義務に立脚したものとなるよう改正する事

● 拷問、虐待、被拘束者の人権侵害にかかる全疑惑を速やかかつ客観的観点から捜査する事

● 南部での民族衝突に関する全裁判に対する検証プロセスを開始する事

● 重大な人権侵害があった全ての裁判に関して、新たな捜査と裁判を行う事

● 拷問に関する国連特別報告者によるキルギス共和国視察を受け入れること

2010年6月、キルギス南部のオシ州とジャラルアバド州でウズベク系民族とキルギス系民族が衝突し、4日間で400人以上が殺害され、2,000戸近い家屋が破壊された。残虐な犯罪が両民族に対して行われる事態となった。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの調査は、南部の捜査当局者が民族衝突に関する捜査の際に広く拷問を行っていた事を明らかにしている。65の事件で、拷問と虐待が行われたという信頼性の高い情報をヒューマン・ライツ・ウォッチは入手している。そのうちの多くに、暴行によって受けた傷の写真、診断書、被害者が拘禁されている間に会った弁護士・家族・他の被拘束者の供述など、被害者の証言を裏付ける強力な証拠がある。拘禁中に受けた拷問により、少なくとも1人が死亡したと示す有力な証拠も存在する。

十分な根拠がある事件も多いにも拘わらず、キルギス政府当局は、拷問と虐待を行ったという疑惑に対して僅か1件しか犯罪捜査を開始しておらず、それも後に取り止められている。拷問による自白の強要により裁判官が被告人を無罪とした事件においてでさえ、検察当局は拷問捜査を行っていない。

裁判官も、拷問の申し立てを慎重に審査せず、大多数のケースで即刻無視あるいは却下している。また、信用性に疑いが濃いのに、「自白」を不当に偏重し、時にそれ以外に証拠が殆どない場合でも被告人に長期刑を科している。さらに、被告人に有利な証言と証拠を無視していると見られる事件も複数ある。

前出のソルバンは、「拷問事件が完全に不処罰に付されている実態は、えん罪を生むばかりでなく、拷問は許される慣習であり続けてもいいという警察と治安部隊へのメッセージになっている」と語る。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、裁判を傍聴している市民が法廷で、被告人、その身内、弁護士やその他の傍聴人に対し、審理の際、脅迫や嫌がらせ、威嚇、暴行を加えた数多くの事例を取りまとめている。それらの暴力行為に対し、裁判長などの関係政府当局は、異議を申し立てていない。裁判を行う際の激しい敵意と暴力的な環境が、被告人の公正な裁判を受ける権利を大きく損なわせた、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。

6月の民族衝突では、被害のほとんどはウズベク系民族の被害だった。多数のウズベク民族が殺されたり、家を破壊されるなどした。そして、逮捕者や被告の85%もウズベク系民族だった。殺人容疑で拘禁された124人のうち115人がウズベク族である。捜査当局者による民族的中傷があったとする被害者たちの供述と、拘禁中の容疑者と被害者に民族的偏りがある事を併せ考えると、それらの数字によって、6月の民族衝突の際に起きた犯罪に対する捜査と訴追に民族的偏向があるのではないかという重大な疑問が生じる、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。

2011年4月に指名された新検事総長は、拷問及び同様の人権侵害に関する全ての申し立てに速やかに対応するとともに、犯人全員の刑事責任を問うための捜査を開始するよう命令した。この命令は高く評価できるものの、2010年の民族衝突に関する拷問は今も不処罰のままである、とヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘した。

「キルギス政府当局は、法の裁きとアカウンタビリティの必要性よりも、多数派であるキルギス系民族のご機嫌取りに気を配っているという印象を拭い去れない」と前出のソルヴァンは話す。「これは和解と将来の平和を実現するための正い方法でない。政府は直ちにこれらの問題を是正する必要がある。」