A genocide survivor accuses a prisoner (wearing a pink shirt) during a gacaca hearing in February 2003 near Gikongoro, in southern Rwanda.

© 2003 Getty Images

(キガリ、2011年5月31日)-ルワンダの地域共同体で行なう「ガチャチャ」裁判(Gacaca)は、1994年のルワンダ大虐殺に地域共同体として向きあうのに効果を発揮した反面、信頼性の欠ける判決や不正義を多数生み出す結果ともなった、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表した報告書で述べた。「ガチャチャ」裁判の活動が段階的に縮小されている現在、ルワンダ政府は国家の司法制度の中に、誤審の疑いのある事件を再審する専門部を設立するべきである。

今回発表された報告書「裁きの欠陥:ルワンダの地域共同体裁判『ガチャチャ』の功罪」(全144ページ)は、「ガチャチャ」裁判のこれまでの到達点について検証評価し、汚職や手続き上の不正などの重大な欠陥も多く見られた実態を概説する報告書。また、ジェノサイドに関連したレイプ事件を「ガチャチャ」裁判に移送するルワンダ政府の決定や、1994年7月のジェノサイド終焉以来与党の座にあるルワンダ愛国戦線(RPF)所属の兵士が行った犯罪については「ガチャチャ」裁判の管轄から除外するとした政府の決定も検証している。

ヒューマン・ライツ・ウォッチ アフリカ局局長ダニエル・ベケレは、「移行期の司法・正義(トランジショナルジャスティス)におけるルワンダの意欲的な新手法は、功罪合い混ざった評価を後世に残すことになろう」と語る。「『ガチャチャ』裁判は、ルワンダ国民にとって、1994年に何が起きたのかを理解する助けとなった一方、欠陥ある裁判で多くの誤審が生まれた。」

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、延べ2,000日以上「ガチャチャ」裁判を傍聴した他、350件以上の事件を調査検証し、被告人・虐殺生存者・目撃者・コミュニティの人びと・裁判官・地方及び政府当局者など、数百人に上る「ガチャチャ」裁判のあらゆる関係者から聞き取り調査を行った。本報告書はこうした調査の積み上げをもとに作成されている。

2005年以来、1万2千以上の「ガチャチャ」裁判で、120万件に及ぶ1994年ルワンダ大虐殺関連事件が裁かれた。ルワンダ大虐殺での死者は50万人以上、その大部分はルワンダの少数民族であるツチ族だった。「ガチャチャ」は、ルワンダのキニヤルワンダ語で「草」を意味し、伝統的にもめ事を解決するために地域共同体が行なう集会を指す言葉だ。「ガチャチャ」裁判は2010年半ばまでに終了が予定されていたが、その終了は2010年10月まで延期された。2011年5月、法務大臣が「ガチャチャ」裁判を2011年12月までに正式に終了すると表明したと伝えられている。

「ガチャチャ」裁判は、従来の司法制度の下では到底裁ききれない数の事件と、刑務所の危機的状況に対応するため2001年に設立された。1998年まで、ジェノサイド容疑者13万人が、1万2千人用の収容限度の限られた刑務所スペースに詰め込まれており、その結果、非人間的環境で数千人の死亡者が出る事態となった。1996年12月から1998年初頭までの間に、従来の裁判所は僅か1,292名のジェノサイド容疑者しか裁かなかったため、裁判の迅速化に向け新たな措置が必要だという、広範なコンセンサスができあがった。

ルワンダの2001年「ガチャチャ」裁判法は、こうした弊害の解消を目指し導入された。新しい「ガチャチャ」裁判は、政府の監督下にはあるものの、適正手続きの保障は限定的であり、現代刑法に伝統的で非公式な地域共同体のやり方を結合させた手続きとなっている。

ルワンダ政府は、国民に広く受け入れられ、かつ、数万の事件を迅速に処理できる制度を創設するという、非常に困難な課題に直面していたのである。「ガチャチャ」裁判は、市民参加のもとの迅速な裁判、刑務所内人口の減少、1994年の実態に関する国民のより良い理解、犠牲者の遺体の発見と身元特定、多数派フツ族と少数派ツチ族の民族間対立の緩和につながるかもしれない可能性などの前進をもたらした。

しかしながら、新たな「ガチャチャ」裁判の設立の際、多くの妥協が行なわれた。その結果、ルワンダ国民は高い代償を払うことにもなった。ヒューマン・ライツ・ウォッチの調査は、公正な裁判基準が守られなかった事案が多数あることを明らかにした。例えば、被告人が十分な弁護を受ける権利の制限、裁判官の専門性が欠けるが故の誤審、容疑のでっちあげによるえん罪(ルワンダ政府も、自らへの批判をかわそうとでっちあげに手を染めた)、個人の怨恨を晴らすための「ガチャチャ」裁判の濫用、弁護側証人に対する裁判官や政府当局による脅迫、裁判官及び裁判関係者の汚職などの問題が挙げられる。

ヒューマン・ライツ・ウォッチが傍聴した裁判で証言したある目撃者は、「『ガチャチャ』裁判ができてよかった点としては、住民が大きな役割を果たせる制度設計になっていることがあげられる。でも、[裁判官が]中立でないのは残念だよ」と話した。

地域共同体の住人たちは1994年に自分の村で起きたことを熟知しているのだから、偽証や裁判官の偏見を見抜けるはずだという理由で、ルワンダ政府は、いわゆる「公正な裁判を受ける権利」は不要だと主張した。しかしヒューマン・ライツ・ウォッチは、ジェノサイド容疑者の弁護のために有利な証言ができる人がいるのに、その人が証言していない事例を多数つきとめている。人びとがジェノサイド罪の容疑者に有利な証言をすることを躊躇する理由は、ジェノサイド思想罪(民族対立や暴力に繋がる可能性のある思想、発言、行為を禁じる犯罪。定義は極めて曖昧)などで訴追される恐怖が捨てきれないほか、容疑者に有利な発言をしたという理由で村八分にされるのを恐れているためである。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの聞き取り調査に応じたある虐殺生存者は、自分と親戚12人以上の命を救ってくれたフツ族男性を怖くて証言できなかった、そんな自分が恥ずかしいと言って泣き崩れた。

前出のアフリカ局長ベケレは、「多くの人が、容疑者の無実を信じつつも『ガチャチャ』裁判で証言せずに沈黙を守ってしまったと語っている。ジェノサイド関係の犯罪のえん罪で起訴されてしまった人を守るために人前に出ることは、余りにもリスクが高いと感じたからだ」と指摘する。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、レイプ被害者からも聞き取り調査を行った。通常の裁判のほうがよりプライバシーが保護されるにもかかわらず、2008年5月、虐殺関連のレイプ事件は、非公開とはいえ実際には地域共同体に筒抜けである「ガチャチャ」裁判に移管されてしまった。多くのレイプ被害者は、プライバシーが守られなくなったことに、裏切られた思いをしている。

また、現与党であるRPFの兵士による犯罪を「ガチャチャ」裁判の管轄から除外するという政府の決定は、今なお法の裁き待つ被害者らを見捨てる措置である。1994年の虐殺を終結させ、その後与党となったPRFの兵士たちは、1994年4月から12月までの間に数万人を殺害した。しかし2004年、こうしたRPF兵士の犯罪を管轄から除外すべく「ガチャチャ」裁判法が改正された。政府は「ガチャチャ」裁判でこれらの犯罪が裁かれることがないよう手を回したのである。

「『ガチャチャ』裁判の重大な欠陥のひとつは、1994年におきた重大犯罪のあらゆる犠牲者のための法の正義ではなかったことだ。RPFの犯罪を「ガチャチャ」裁判から除外した結果、「ガチャチャ」裁判によってルワンダに長期的な和解が醸成されるという可能性は減ってしまった。」とベケレは語る。

重大なえん罪については、2010年末にルワンダ政府が提案したとおり、「ガチャチャ」裁判ではなく通常の司法制度下での特別裁判で、専門の裁判官が再審すべきである、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。

「『ガチャチャ』裁判がえん罪の恐れがある事件を再審すれば、同じ問題を繰り返すおそれがある。正式な司法制度の下で、専門性・公平性・公正性を担保した上で再審審理を行なうことを政府は約束すべきだ。そうすれば、「ガチャチャ」裁判の歴史的意義が保たれ、将来のルワンダの司法制度を強化することになる。」とベケレは語る。

報告書からの抜粋

「自分にかけられた容疑を知らされてもいないのに、私の弁護側証人を出廷させろといわれても、どうしたらいいか途方にくれてしまうだけです。」-南部ルワンダで裁判中の被告人の発言

「真実を語って人間を弁護しただけの人たちが、なぜ皆裏切り者と見なされるのでしょうか?」-「ガチャチャ」裁判で弁護側証人として証言したある虐殺生存者の発言

「弁護側で証言をすると、証言すべてがウソとみなされてしまう危険があるのです。」 -聞き取り調査の中で、なぜもっと沢山の目撃者が証言しないのかという質問に対する地方政府当局者の発言

「『ガチャチャ』裁判では、虐殺とは全く無関係の個人的論争が沢山あった。」 -ある虐殺生存者の発言

「金を渡さねばならないのです。『ガチャチャ』裁判の裁判官は無給ですから、起訴された者から金を取ろうと計らうんですよ。」 -「ガチャチャ」裁判裁判官に賄賂を渡したと言う、虐殺容疑をかけられた被告人男性の発言

「『ガチャチャ』裁判の最大の問題は、取り上げられない犯罪があるってことです。RPFによる殺人などは、遺族はそれを話す必要があっても、『ガチャチャ』裁判では取り上げられないって言われたんです。そういう問題には黙っているように言われたんですよ。それってすごく大きな問題です。そんなの正義なんかじゃありません。」 -現与党兵士による犯罪の被害者の親族の発言

「『ガチャチャ』裁判は状況を変える助けになりました。皆がゆっくりとですがお互いに歩み寄っていますから。以前はこんなことはありませんでした。」 -「ガチャチャ」裁判裁判官(かつ虐殺生存者)の発言

「これは政府に強制された和解だわ。人びとが許しを請い、許しを与え合うよう政府が強制しただけ。誰も喜んでやっているわけじゃない・・・。政府は殺人犯を恩赦したけど、私たちには何もしてくれなかった。」 -虐殺の際レイプされた虐殺生存者の発言

「『ガチャチャ』裁判は、前よりもっとフツ族とツチ族の分裂を深めたね。」 -ジェノサイド罪容疑をかけられた被告人の親族の発言

「『ガチャチャ』裁判をどういう枠組みにするのか?[.....]『ガチャチャ』裁判は、極めて有望であると同時にとても危険です。[...] 確かなことは何もありません。ルワンダ政府とルワンダ国民にとって非常に大きな賭けであり、『ガチャチャ』裁判を支援する援助国にとっても同じことが言えるでしょう。(ただし、援助国にとっては生死にかかわる問題ではありませんが、ルワンダ国民にとってはまさにそうであるという違いがあります。)」 -「ガチャチャ」裁判に対する外国政府の援助がもたらす可能性に関する論文を執筆したある研究者の発言