A Turkish woman shouts slogans on March 8, 2009 in Istanbul where more than 5,000 women gathered to mark International Women's Day. Purple symbolizes feminism in Turkey.

© 2009 Getty Images

(イスタンブール)-トルコにおける家庭内暴力からの保護制度の欠陥により、同国の女性と少女は、家庭内の人権侵害に晒されたまま放置されている、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日公表した報告書で述べた。法の不備と執行制度の欠如のため、虐待を受けている被害者の多くは、裁判所の保護命令や緊急避難シェルターの設置を含む「生命を守るための保護策」を利用できていない。

報告書「ドメスティックバイオレンス:トルコでの家庭内暴力の実態と保護へのアクセス」(全58ページ)は、女性が夫やパートナー、そして他の家族から受ける、残虐で長期にわたる暴力の現実や、家庭内暴力から逃れて保護を求めて奮闘する実態を取りまとめている。トルコには虐待の被害にあった女性向けの避難シェルターの設置や保護命令を出す事を義務付ける強力な保護法がある。しかしながら、法の隙間と警察・検察官・裁判官その他当局者の執行システムの欠如が、保護システムそのものを恣意的、さらに言えば非常に危険なものにしている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの女性の権利に関する調査兼アドボカシー担当者で本報告書の執筆者でもあるガウリ・ヴァン・グリ(Gauri van Gulik)は、「強力な法律が存在するのに、トルコ政府当局者が家庭内暴力の被害者から基本的な保護を受ける権利を剥奪している事態は、許しがたい。トルコ政府は女性の権利に関して称賛すべき改革を積み重ねてきたが、警察・検察官・裁判官そしてソーシャルワーカーは、法律を絵に描いた餅とするのではなく、実行に移さなければならない」と語った。

ヒューマン・ライツ・ウォッチが聞き取り調査を行った14歳から65歳までの女性や少女は虐待の様子を詳しく語ってくれた。たとえば、レイプされたこと、刺されたこと、妊娠中に腹部を蹴られたこと、ハンマー・ムチ・枝・ホースで骨折するまで殴られ、頭がい骨を割られたこと、犬などの動物と一緒に閉じ込められたこと、食事を与えられなかったこと、スタンガンで撃たれたこと、毒を注射されたこと、屋根から突き落とされたこと、激しい心理的暴力にさらされたこと...。家庭内暴力は、調査員が聞き取り調査を行った全ての地域で、収入の多少や教育水準に関わらず発生していた。

「初めて虐待を受けた時、夫は私を殴り、お腹にいた赤ちゃんを蹴り、最後には屋根から私を放り投げたのよ。」とセルヴィ・T(仮名)は話した。彼女は12歳の時に強制結婚させられ、何年も夫から虐待を受けている。

今回の報告書は、欧州評議会が「女性への暴力と家庭内暴力に関する地域協定」を採択する矢先に公表された。トルコは閣僚委員会の現議長国として、当該協定の草案に重要な役割を果たしてきた。同協定は、2011年5月11日にイスタンブールで開かれる首脳会議の席上で署名される予定である。

2009年にトルコの主要な大学が行った調査によれば、15歳以上のトルコ女性の42%、そして地方に住む女性の47%が、人生のいずれかの時点で、夫或いはパートナーによる身体的或いは性的暴力を経験しているという。

報告書はヴァン(Van)、イスタンブール、トラブゾン(Trabzon)、アンカラ、イズミール(Izmir)、ディヤルバクル(Diyarbakır)での40名の女性への聞き取り調査と事件簿、更に弁護士・女性団体・ソーシャルワーカー・政府当局者数十名への聞き取り調査を元に作成された。

トルコは1998年に家族の保護に関する法律4320号を採択し、家庭内暴力からの保護に向けた民事上のメカニズムを有する国々の仲間入りを果たした。2007年に改正された同法律は、保護命令制度を確立した。それによれば、同じ屋根の下で暮らす家族によって虐待を受けている者は、男女問わず、直接若しくは検察官を通して家庭裁判所が保護命令を出すよう申請できる。

その命令はその他にも、虐待者に対し、家からの退去、被害者とその子どもの隔離、武器の放棄、暴力や脅迫、家財の損壊、犠牲者との連絡の禁止を義務付けることが可能である。このシステムは、命令の発行申請者が、多くの場合極めて危険な状況にあることを考慮し、長くても数日のうちに、迅速な措置が取られるよう意図されている。しかしながら報告書に取りまとめた事実を見ると、法律4320号に重大な欠陥が複数あることがうかがえる。この法律は、特定のグループの女性、例えば離婚した女性や未婚女性の全てを、対象外としていること、さらに警察・検察官・裁判官が多くの場合その職務を遂行しないという問題がある。警察官は保護命令を得る手助けをするどころか、彼女たちを笑い者にし、虐待者の待つ家に彼女たちを送り返し、検察官と裁判官は保護命令申請を受けても迅速な措置を取らず、法律で必要とされていない証拠を要求するなどの不適切な対応をした、と多くの女性が語った。

「家族が女性や少女に加える強烈な残虐性もさることながら、そこから脱出して保護を求める勇気に目覚めた1人の女性が、侮辱され虐待者の元へただちに送り返されているという事実を知るのは、もっと気が滅入る話だ」と前出のヴァン・グリは語った。

女性と子ども向けの避難シェルターは、家庭内暴力へのトルコの対応策におけるもう1つの重要な要素である。地方自治法は5万人以上の住民を抱える全ての自治体に対して、避難シェルターを設置する事を義務付けているが、各自治体は、その義務規定を満たすには程遠い状態だ。さらに女性たちはヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、現存する幾つかの避難所は惨憺たる状況であり、安全確保手続きが不十分であると訴えた。実際、何か所かの避難シェルターの職員は、虐待者の立ち入りを認めるばかりか、虐待者と和解することを女性たちに促していた。

セルヴィ・Tの経験はこれらの多くの問題を反映している。夫は彼女に数年にわたって暴行とレイプを繰り返し、重傷を負わせているにも拘らず、警察は保護を求めてきた彼女を何度も家に送り返しているのだ。最終的に彼女が避難シェルターに逃げて来た時も、警察は夫にその場所を伝え、避難シェルターの職員は夫を立ち入らせるとともに、彼女に彼と和解するよう強く促している。

3月7日、トルコ南東部に位置するガーズィ・アンテップ県議会の公正発展党(Justice and Development Party、AKP)所属の議員であるファツマ・サヒン(Fatma Şahin)は、女性団体の意見を聞いた後、家族保護法を改正する提案を公表した。改正案は現在議会の審議に付されている。

この改正案は、保護の対象者を拡大し、男女の関係にありながら未婚の女性を含むようにしている。また内務省に、保護命令を受付けた機関に対し、申請者への財政支援を提供するよう指示している。さらに草案では、被害者が転居した場合、住所を含む被害者の個人情報保護を強化するよう要請している。また、家庭内暴力に関する経験を積み、専門的知識を持つ幹部を配置した、警察官と検察官の専門部署を設置するとともに、裁判所の開廷時間外であっても、後に裁判官の承認を申請すれば、検察官による保護命令の発行を認めることとしている。

トルコは、宗教上の結婚状態にあるが籍を入れていない者を含む未婚女性や離婚女性にも、保護命令を出せるように明確な規定を置くことで、家族保護の欠陥を補うべきである、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。

法務省及び内務省は、女性に社会保障の恩恵を与え、彼女たちの保護申請を処理できる専門スタッフを備えた専門の部署を警察署と家庭裁判所に創設しなければならない、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べる。内務省は、警察官・検察官・裁判官が法律を遵守した対応を怠り、あるいは家庭内暴力から逃れてきた女性に対して不当な取り扱いをした場合には、その人物を特定する苦情処理制度を創設すべきである。

この制度の利用に際して、より具体的なデータを一般市民に公開し、保護命令制度を全体的に監視することも必要である。より多くの避難シェルターの需要に応えるとともに、内務省と法務省は警察官への研修及び、法律4320号に実効性を持たせるために必要な検察官と裁判官、実施に携わる関係者各々の研修を継続し、その質を向上させなければならない。

「トルコが欧州全域の各国政府を迎えて、女性への暴力を終わらせるために強制力のある協定を結ぶ今のタイミングでこそ、トルコ政府は自国の欠点を真正面から見つめるべきである」とグリは語った。「家庭内暴力の被害者の保護制度が、その目的と施行の両面において、新しい条約に沿ったものとなるように、トルコは改革を断行する必要がある。」