(カンパラ)-ウガンダ北部に住む障がいを持つ女性たちが、差別や性暴力に苦しんでいる、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表した報告書で述べた。多くは保健や司法などの基礎的な社会サービスから阻まれ、紛争後の復興事業のなかで、ほとんど無視された存在となっている。
報告書「『人として扱ってほしい』:ウガンダ北部における障がいを持つ女性への差別と暴力」は、障がいのある女性や少女が、見知らぬ人や近隣住民、時には家族からも人権侵害と差別を頻繁に受けているウガンダ北部における実態に関する調査報告書。聞き取り調査に応じた女性たちは、避難民キャンプや自分の住むコミュニティで、食糧・衣類・シェルター(住居)などの基本的な物やサービスを受けられなかった、と語った。避難民キャンプで生活するある身体障がい者の女性はヒューマン・ライツ・ウォッチからの聞き取りに答えて、人びとから「あんたは役立たず。ムダ飯食い。あんたが死ねば他の人が食べられるのに」と言われた、と話した。調査はウガンダ北部の6地域で行なわれた。これらの地域では20年以上にわたり、反政府勢力「神の抵抗軍(Lord's Resistance Army、LRA)」とウガンダ政府の間で、残虐な戦いが繰り広げられた。今、ウガンダ北部は戦争の傷跡から立ち直ろうとしている。
ヒューマン・ライツ・ウォッチの障がい者の権利アドボカシー兼調査担当シャンサ・ラウ・バリガは、「ウガンダ北部で長きにわたり続いた紛争の間も紛争後も、語られていないことがいくつかある。そのひとつが、障がいのある女性と少女が孤独のなかで無視され、彼女たちの人権が侵害されている実態だ」と、語る。「ウガンダ北部の人びとが生活再建に向け奮闘している今、政府と人道援助機関は、障がいを持つ女性たちが取り残されることがないようにする必要がある。」
この報告書は、様々な障がいを持つ女性と少女64名への聞き取り調査を基に作成された。障がいの原因は、ポリオなどの病気や、20年以上にわたった紛争ゆえに地雷や銃で負った傷など多岐にわたる。2007年の国勢調査によると、ウガンダ国内の障がい者人口は、およそ20%に上る。北部ウガンダには、紛争による負傷者の数が多く、しかも、病気の治療や予防ワクチンを受けることが困難なことから、障がい者の割合が更に高いと考えられる。
今回の調査は、女性の障がい者は、特に性暴力やジェンダー暴力の被害を受けやすいということを示している。ヒューマン・ライツ・ウォッチの聞き取り調査に応じた女性の3分の2以上が、何らかの暴力(性暴力を服務)を受けた、と話した。しかし、彼女たちは泣き寝入りを強いられているのが現実で、誰ひとりとして、刑事訴追にまで持ち込めた人はいなかった。
前述のバリガは、「障がいを持つ女性は多くの場合、性教育やリプロダクティブヘルス(生殖に関する保健)やHIVに関する情報を得られていない」と語る。「しかし彼女たちには産婦人科系の医療サービスをとても必要としているし、性暴力からの保護も必要としている。不幸にして人権侵害の被害をうけた場合には、当然、法の裁きを求める権利もある。」
本報告書は、女性の障がい者たちがHIV感染にさらされている実態にもふれている。彼女たちは、貧困、安全なセックスを相手に求めるのが困難だという実情、入手できる情報の不足、暴力とレイプを受けやすいことなどが理由で、HIVに感染の危険が高いのだ。多くは、診療所や警察に行くこともままならない。遠すぎたり、手話通訳・点字・スロープなどがないことなどが理由だ。たとえ辿り着けたとしても、職員の差別的な態度に遭ったり、家族からも助けを得られないことも多い。
「私なんて他の人の近くではお風呂にも入れないのよ」と、HIV陽性者で地雷で足を失った女性キャンディスはヒューマン・ライツ・ウォッチに語った。「近所の人たちは、私の体から流れ落ちた水にはHIVウイルスが入っていると思っているの。その水に触れたら、病気がうつるって言ってる。HIVについての啓蒙活動があったけど、態度は本当のところ何も変わってないのよ。」
本報告書は、ウガンダ政府が紛争後の開発計画や事業で、障がいを持つ女性の要望に適切に対処していくべきと提言。また障がいを持つ女性が政府の主要なプログラムにアクセスできるよう確保することを求めている。その例としてはとりわけ、性暴力やジェンダーにまつわる暴力からの保護、リプロダクティブヘルス(性と生殖に関する医療)の保証や、HIVケアに関するものがある。
ヒューマン・ライツ・ウォッチはさらに、大多数の人道援助機関が、障がいを持つ人びとの必要性を満たすプログラムを行なっていない、と指摘。再定住プロセスや支援サービスについての情報が障がいのある人びとにも届くように、人道援助機関が障がい者団体と提携していくよう提言している。
重要な問題の一つは、ウガンダ北部在住の障がいを持つ女性の数や各種サービスへのアクセスに関するデータがないことであると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べている。 政府と人道援助機関はその情報を集め、障がいを持つ女性を対象に入れた総合的プログラム作成に利用していく必要がある。
ウガンダ政府には、国際法・地域法・国内の憲法やその他の国内法令のもと、障がいを持つ人びとの権利を尊重する義務がある。ウガンダは障がい者の権利条約の締約国として、障がいを持つ女性が他の人びとと平等に全ての人権を享受できるよう保証しなければならない。具体的にウガンダ政府がすべきこととは、同国北部で障がいのある女性を暴力から保護する法律を施行し、彼女らが基本的なサービスを利用できるよう保証するため、一層の努力をすることだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べている。
前出のバリガは、「戦争は障がいを持つ女性と少女の隔離と差別を隠蔽し、悪化させてきた」と語る。「しかしウガンダ政府には今、彼女たちが必要とするものを満たすという特別な「責任」を全うする機会が訪れている。」
本報告書に掲載されている証言の抜粋
エドナ(29歳):2004年に田舎の村からリラ(Lira)地区に逃げてきたHIV患者の女性による証言
神の抵抗軍の焼き討ちがあった日、家には12人がいたわ。戸口に近い所にいた人は助かったの。私はうつぶせになって心臓を守ったんだけど、頭が焼けて目が見えなくなり、耳もよく聞こえなくなった。
アンジェラ(20歳):女性、アムル(Amuru)地方在住で生まれつき身体障がいを持つ女性の証言
私は一週間前、この家で3回レイプされたの。男は夜来たので、誰だか分からなかった。誰にも、お母さんにだってこのことは話していない。ヤツがまた来た時のために寝るときはナタをベッドに持っていこうと思ってる。訴え出たりしたら、HIV検査を受けなければいけないのが怖い。診療所でHIV検査を受けたいけど、町に行く交通手段が無い。病院は遠いし、私の手漕ぎ自転車は壊れている。近所の人は、私が悪い、男と遊びまわっているからだなんて言うわ。
メアリー:アムル(Amuru)地区の避難民キャンプで生活する、障がい者の女性による証言
実家に帰ったりしたら、食べさせてもらうのを待っている子供のようになっちゃう。
ナルレ・サファイア・ジューコ:障がいを持つ女性を代表する国会議員の証言
分娩台はとっても高くて、おまけに車輪が付いていた。[看護婦が]あんたベッドに乗りなさいよって言ったわ。登ろうとしたけどベッドが動いちゃうの。そうするとあの人たちが言うの、「ベッドに乗りなさいよ。妊娠したベッドには乗れたんでしょ?」って。
エリカ:リラ(Lira)地方在住で視覚障がいがある女性の証言。彼女は双子を妊娠していると看護婦から伝えられなかったために、出産時、赤ん坊の一人を失った。
近所の人が私の子供に乱暴するのよ。近所の子供たちと遊んでると、あっちに行けって言われた。「耳が聞こえないことが家族にうつる」って言ってたわ。