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ルワンダ国際刑事裁判所が“勝者の裁き”を下す危険

法廷はルワンダ愛国戦線による犯罪も、しっかり追及を

(ニューヨーク)-ルワンダ国際刑事裁判所(ICTR)は、1994年にルワンダで戦争犯罪を行なったと疑われている、ルワンダ愛国戦線(RPF)の幹部将校を至急訴追するべきである、と本日ヒューマン・ライツ・ウォッチはICTRの主任検察官宛ての書簡で述べた。今日まで、同裁判所は、1994年ルワンダ大虐殺の指導的責任を負うべき人物しか裁判にかけておらず、RPF将校による犯罪は、管轄権があるにもかかわらず、訴追していない。

2009年6月4日に、主任検察官のハッサン・ジャロウ(Hassan Jallow)と同裁判所長官デニス・バイロン(Dennis Byron)判事は、国連安全保障理事会(ニューヨーク)にて、過去6ヶ月間の同裁判所でのジェノサイドの裁判の進展についての報告を行う予定である。

ルワンダ国際刑事裁判所の任務は、1994年のルワンダで行なわれた虐殺その他の重大な国際人道法違反行為の責任者を訴追することである。しかし、紛争の全当事者による犯罪を訴追している旧ユーゴスラビア国際刑事裁判所と異なり、ルワンダ国際刑事裁判所では、紛争の片方側だけを訴追しているため、ルワンダ愛国戦線は訴追されていない。現在、ルワンダ愛国戦線は同国の与党となっている。

「ルワンダ愛国戦線の戦争犯罪行為を裁判にかけていないルワンダ国際刑事裁判所は、勝者の裁きしか行なっていない、という印象を与える。」ヒューマン・ライツ・ウォッチのエクゼクティブ ディレクター ケネス・ロスは述べた。「これでは、国際的な法の正義を実現しようとする歴史的な努力にとって、残念な汚点となってしまう。」

1994年、ルワンダ政府は、数万の兵士、民兵、一般市民の支援をえて、同国のツチ族を全滅させるための虐殺キャンペーンを開始した。国際社会が、ただ傍観し、虐殺を止めないでいる間に、この作戦は3ヶ月続き、80万人ものツチ族並びに穏健派のフツ族の死をもたらした。現大統領ポール・カガメ率いるルワンダ愛国戦線(RPF、ツチ族が多数)も、この3ヶ月の間に数万人の民間人を殺害し、虐殺に終止符を打った。

「RPFが犯した犯罪の犠牲者のために法の正義を求めるのは、虐殺を否定する事でもないし、RPFの犯罪を虐殺と同等視する事でもない」とロスは述べた。「犯罪を犯した容疑者がいかなる権力を有していようとも、全ての被害者が、法の正義の実現を享受する権利を有するという意味だ。」

1994年の国連専門家委員会の報告が、ルワンダ愛国戦線が「国際人道法に対する重大な違反と人道に対する罪を犯した」と認定したほか、ルワンダ愛国戦線が行なった犯罪は、数多くの文書にとりまとめられてきた。国連難民高等弁務官事務所によれば、1994年4月から8月までの間に、ルワンダ愛国戦線は25000人から45000人の民間人を殺害した。少なくとも4つの国連機関と、ヒューマン・ライツ・ウォッチ、その他NGOも、RPFの犯罪を報告している。ルワンダ国際刑事裁判所は、10年以上に亘って、RPFが行なった犯罪を捜査し、目撃者の証言と物的証拠を集めてきた。

2008年6月、ルワンダ国際刑事裁判所の主任検察官ハッサン・ジャロウは、タンザニアにある国際刑事裁判所で訴追するかわりに、ルワンダ愛国戦線を容疑者とする一件の捜査記録すべてをルワンダに移送すると決定。ルワンダ国内でRPFのケースを訴追することが目的とされた。しかし、その当時、ルワンダ国際刑事裁判所の2つの法廷は、現在のルワンダの司法の下では公正な裁判を保証できないという理由で、係争中の虐殺関係事件のルワンダへの移送を却下したばかりだった。

「ルワンダ国際刑事裁判所が、ルワンダ当局の政治的介入のおそれから、虐殺関係事件をルワンダに移送しないと決定したことに照らせば、なぜ、検察官が、同じルワンダ政府に、センシティブなルワンダ愛国戦線関係事件は移送してしまうのか、理解しがたい」とロスは述べた。「検察官は、ルワンダ愛国戦線関係事件を、公正公平なルワンダ国際刑事裁判所が裁き、もって、法の正義が実現されることを確保するべきだった。」

2008年6月の国連安全保障理事会への報告のなかで、ジャロウ検察官は、ルワンダに移送されたルワンダ愛国戦線の裁判を厳しく監視し、ルワンダでの手続きが国際基準を満たさない場合は、そのケースを一度国際的場所に戻すと約束した。

ルワンダ国内での愛国戦線将校に対する訴追は、政治的な茶番だった。ルワンダ政府は、2008年6月に軍将校4名を逮捕。1994年に15名の民間人(13名の聖職者と9歳の男児を含む)を殺害した戦争犯罪の容疑で訴追した。裁判審理は数日のみで、国際的な注目もほとんど浴びなかった。国際刑事裁判所の検察局は、裁判、最終弁論、及び判決が下された一日だけ、傍聴人を送った。将校のうち2名は民間人の殺害を自白し、8年の刑(後に上訴審で5年の刑に減刑された)に処され、その他2名は無罪となった。国際的な公正な裁判の基準に達していたかどうかについて、検察局はこれまで意見を表明していない。

「ルワンダ国際刑事裁判所の検察局は、裁判をしっかりと監視しなかった。そして、国際的基準を満たしていたかについても正式に発表していない」とロスは述べた。「ジャロウ検察官は、国連安全保障理事会への報告の際に、ルワンダ国内での愛国戦線将校の裁判についての評価を報告するとともに、ルワンダ愛国戦線に関する他のケースに対しても訴追を求めると確約すべきである。これを怠れば、法の正義を求める被害者家族の権利に対する裏切りであるとともに、将来、ルワンダ国際刑事裁判所の正当性を損なう危険も出てくるだろう。」

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