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イスラエル/ガザ地区:国際調査が不可欠

国連は、紛争の両当事者による重大な国際法違反について公平な調査を

(ニューヨーク)-ガザ地区での今回の戦闘において、イスラエル軍もハマスも重大な戦争法規違反を犯した疑いがあるが、この点について、事実を解明するとともに、責任者処罰と被害者への補償枠組みを提言/勧告するために、公平な国際調査が不可欠である、と本日ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、独立した国際事実調査委員会の設立の必要性について再度提起。国連安全保障理事会又は潘基文国連事務総長が、独立した国際事実調査委員会の設立を実現するため、必要な処置を緊急に講じるべきである、と述べた。

「安全保障理事会と事務総長は、両紛争当事者が行った疑いがもたれている違反行為について、独立した調査を開始するため尽力すべきだ」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチの中東・北アフリカ局長代理、ジョー・ストークは述べた。「ヒューマン・ライツ・ウォッチが初めてこの要求を行なって以来、ヒューマン・ライツ・ウォッチの現地調査の結果は、こうした包括的調査が明白かつ緊急に必要であることをますます明らかに示している。」

1月12日、ジュネーブの国連人権理事会は、イスラエルによる国際人権法及び人道法の違反行為の疑いを調査するための国際調査団の派遣を決議した。しかし、ハマスその他のパレスチナ武装集団による違反行為の調査については決議しなかった。国連高官たちは、ガザ地区における国連の学校及び国連本部に対して行われたイスラエルの攻撃についての調査を要求してきている。イスラエル政府は、これらの攻撃及び人口密集地帯での白リン弾の使用など、いくつかの違法行為容疑について調査をすると述べた。

しかし、イスラエル政府による自国軍の重大違反行為の調査・訴追は、不十分なものに終始してきた。一方、ハマスや他のパレスチナ人グループは、その様な努力を全くしてこなかった。こうした事実からすれば、国際的かつ独立した仕組みで事実調査を行なう必要がある、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。

イスラエルが軍事作戦を開始した12月27日から、イスラエルとハマスがそれぞれ一方的に停戦を宣言した1月18日までのガザ地区での戦闘の結果、パレスチナ側には約1300名の死者と5000名を超える負傷者がでた。その内40%が子どもと女性である。加えて、犠牲者には、数は特定できないものの、戦闘に参加していない民間人男性も含まれる。同期間に、パレスチナ側が発射したロケットで3名のイスラエル民間人が死亡、80名以上が負傷した。また、10名のイスラエル軍兵士も死亡している。

「この戦闘では、民間人がとりわけ犠牲を払わされた」と、ストークは語った。「こうした民間人犠牲者たちには、少なくとも、正義と責任追及の権利がある。そのためには、独立した調査が不可欠だ。」

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、最高水準の専門知識及び権威を有するとともに、かつ、紛争の全当事者の重大違反行為を調査する権限を与えられた国連の事実調査委員会の設立を安保理の全理事国が支持すべきであると要請。これが実現しない場合には、潘事務総長がそうした調査を行なうべく直ちにイニシアチブを取るべきである、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。

「国連人権理事会は、イスラエルのみが批判されるべきかのように行動した。一方、米国も、イスラエルを非難する安保理の行動を妨げる行動をしばしば取ってきた」と、ストークは述べた。「このように、ダブルスタンダードが互いにまかり通っている。その結果、国際法の遵守が踏みにじられただけではない。ダブルスタンダードは、パレスチナの一般市民にも、イスラエルの一般市民にも、利益をもたらしてはいない。」

イスラエルは、戦闘期間中、独立したジャーナリストや人権監視員のガザ地区への立ち入りを認めなかった。被害者や目撃者たちからの聞き取り、物的証拠の収集、イスラエル側及びパレスチナ側双方からの聞き取りなどをもとに、独立した専門的調査が行なわれる必要性は、こうしたイスラエルの措置の結果さらに高まった、とヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘した。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、現在、ガザにおいて、重大な戦争法規違反の疑いがある行為の調査を続けている。例えば、以下のような行為である。

・  人口密集地帯での、重砲などの兵器の無差別使用行為

・ 民間人を人間の盾として使用する行為や、民間人を不必要な危険にさらす行為

・ 救急車や緊急医療要員に対する発砲や、緊急医療要員が救助を必要とする人びとにアクセスすることを妨害する行為

・ 居住地区に向けた故意又は無差別なロケット弾発砲

・ 白旗を掲げ民間人である旨を表明する人を標的にする行為

・ 警察署や政府事務所など、合法的な軍事目標ではない民間施設と推測される施設を標的にする行為

国際調査委員会が設立されれば、そうした調査委員会は、イスラエルが12月27日に軍事攻勢を仕掛ける前に行なわれた重大な国際人道法違反に関しても調査を行なうべきである、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。こうした行為の中には、例えば、パレスチナ武装集団がイスラエル民間人地区に向けてロケットを発射した行為や、イスラエルが、ガザ地区を封鎖して人や生活必需物資の出入りを封鎖した行為(集団懲罰にあたる)などである。調査委員会は、「違反行為を命令、実行した責任者」に加えて、「違法行為の事実を知り、あるいは、知るべきでありながら、当該行為を止めるための行動を取らなかった責任者」についても調査対象とすべきである。

「ガザの戦闘で、当事者たちは、重大な戦争法規違反を犯した」と、ストークは語った。「犠牲者たちは最低限、完全な責任追及の実現と補償の枠組みを備えた正当かつ公正で包括的な調査の実現を要求する権利がある。」

国家は戦争法規の重大な違反を調査する義務を負う。犯罪の意図をもって戦争法規違反が行なわれた場合には、戦争犯罪が成立する。戦争犯罪が行われた可能性をうかがわせる証拠がある場合には、国家はそれを捜査し、必要と認められる場合には、被疑者を訴追する義務を負う。国家に帰属しない武装集団も、戦争法規違反を行った自軍メンバーに対して、適切な懲戒手続き及び司法措置をとるべきである。

重大な戦争法規違反容疑について、イスラエル軍(IDF)が過去に調査を行なったこともあったが、重大な欠陥があった。例えば、レバノンのカナ村で2006年7月29日に27名が犠牲になった事件に関するイスラエル軍の調査は、不完全な調査だったのみならず、法解釈を誤り、かつ、目撃者らの証言と矛盾する結論を導いた。

ヨルダン川西岸のジェニン難民キャンプで2002年4月にイスラエルが行なった軍事作戦の後、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、民間人を人間の盾として使用した事など、イスラエル軍による戦争犯罪の「一応の証拠」(prima facie evidence:反証のない限り、ある事実を立証または推定するのに十分な証拠)を、イスラエル当局者に提供した。ヒューマン・ライツ・ウォッチが知る限り、イスラエルは、これらの事件を全く捜査しておらず、責任を追及された軍関係者もいない。

ガザ地区での前回の大規模地上侵攻(2008年2月下旬から3月上旬)の際、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、イスラエル軍が戦闘行為に参加していない人びとを狙い撃ちにして殺害するなど、重大な戦争法規違反を行った事を明らかにした。現在まで、これらの事件に関してイスラエル軍は何の捜査も行っていない。

ハマスの軍事部門やその他のパレスチナ武装集団がイスラエルへの違法なロケット攻撃やその他の戦争法規違反とみられる行為を行なったことについて、ハマスが捜査あるいは処罰を過去行なったという情報はない。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、紛争当事者による交戦行為を規定する国際法の遵守に焦点を当てて活動し、とりわけ戦争の惨禍を民間人に及ぼさないことに重点を置いている。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、ハマスやイスラエルが紛争解決手段として武力を行使したことが正当化されるか否か、もしくは、武力行使の程度が正当化されるか否かについては、扱っていない。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、国際人道法の遵守を全ての武力紛争当事者に働きかけるという目的実現のためには、これが最善の方針と考えている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、「信頼に足る調査を行なうためには、紛争の全ての側面からの検証そしてその民間人への影響の検証が不可欠であるとともに、人権侵害の疑いがある行為はすべて調査をする必要がある」と述べた。「両者による人権侵害を調査することは、両者の行為を同等とみなすことを意味しない。また、それを意味すべきでもない。」

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