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日本

2016年の出来事

A 20-year-old Japanese woman who was bullied by her classmates in junior high school holds a notebook displaying the message: “It was common knowledge that I was being bullied. It was also common knowledge that my teachers would never help me.”

© 2015 Kyle Knight/Human Rights Watch

 

日本は法の支配と活発な市民社会を持つしっかりした民主主義国家である。表現、結社、集会に関する基本的自由はよく尊重されている。しかし2016年2月に高市早苗総務大臣が、放送局が政治的公平性を欠く放送を繰り返した場合、政府が電波停止を命じる可能性に言及。大きな反発を招いた。表現の自由に関する国連特別報告者は4月の訪日時、現行法では規制権限が独立した第三者機関ではなく政府に委ねられていると懸念を示した。

自由民主党など連立与党は7月の参議院選挙で大勝利を収めた。これによって安倍晋三首相の長年の念願である大幅な憲法改正への道が開かれたと見られる。自由民主党が2012年に発表した日本国憲法改正草案は人権保護を大幅に後退させる内容となっている。

刑事訴訟法は起訴前の被疑者を保釈の可能性なしで最大23日間拘禁することを認めている。また取調べに弁護士の立会いを認めておらず、強制的な手法による自白の強要が行われる恐れを強めている。取調べの録音及び録画を定める刑事訴訟法改正案が5月に成立したが、被疑者が十分な供述をすることができないと捜査官が認める場合など広範な例外が認められている他、裁判員裁判の対象となる重大事件など刑事事件のごく一部にしか適用されない。

難民と庇護申請者

日本は1981年に難民条約に加盟した。近年、難民認定申請者数は急増(2015年は7,586人、2016年は上半期のみで5,011人)しているが、認定数は2015年は27人、2016年上半期は4人に留まっている。2016年5月のG7会議直前に、日本はシリア難民を留学生として5年間で最大150人受け入れる方針を表明した。しかし、執筆時点で日本で難民認定されたシリア人は6人のみ。

出入国管理及び難民認定法上、退去強制命令を受けた難民申請者を無期限に収容することができ、難民申請の抑止につながっている。

移住労働者・人身取引

約20万人の外国人技能実習生(主に中国やベトナム出身で、工場での仕事や農業、漁業、建設業などに従事することが多い)は2010年以降、労働法の完全な適用の対象となったものの、脆弱な法的保護のもと2016年も、違法な残業や賃金未払い、危険な職場環境、パスポートの取り上げ、携帯電話所持の禁止、外泊禁止、強制帰国や技能実習期間を満了しなかった場合の送出し機関に対する金銭支払いなど人権侵害が続いた。これらの制限に加え、雇用主を変えることが原則として認められていない現状などが、雇用主に対する苦情申し立ての抑制につながっている。

労働基準監督機関が2015年に労働基準関係法令違反を認めたのは3,695事業場で、記録をさかのぼれる2003年以降では最多だった。

家事使用人は労働基準法上適用除外とされているが、移住家事労働者に関する2015年の指針では、労働者保護にむけて、各家庭ではなく家事代行サービス会社が「直接雇用」することを義務づけた。しかし、雇用主を変えることは原則として認められていない。

人種・民族差別

日本には、人種的・民族的少数者を保護するための反差別法は存在しない。一方、在日韓国・朝鮮人を標的としたヘイトスピーチの近年の増加を背景に5月、いわゆる「ヘイトスピーチ解消法」が可決・成立した。但し、ヘイトスピーチ解消に向けた「施策を実施」する責務を国が負うと規定されたものの、非正規滞在外国人や先住民族は保護対象とされなかった。

女性の権利

最高裁判所は2015年12月、夫婦同氏を強いる民法第750条について合憲の判断を示した。婚姻の際に氏を変えたのが女性である割合は96%に及んでいる。国連の女性差別撤廃委員会は再三にわたって、その改正を勧告してきている。

2015年12月に日本と韓国は「慰安婦問題」について「最終的かつ不可逆的」とされる合意を発表。日本は責任を認め、改めておわびを表明した。この合意のもと、政府は10億円(約1,000万米ドル)を韓国政府が設立した「和解・癒やし財団」に拠出した。被害者との適切なコンサルテーションの欠如などの理由により、この合意は女性の権利活動家の間で広く批判された。

国連の女性差別撤廃委員会は3月、第7回及び8回の日本政府報告書審査に関する総括所見を発表し、約50項目の懸念と勧告を発表した。その多くは従前の総括所見においても繰り返された事項である。慰安婦問題については、被害者中心アプローチを十分採用しなかった点や、日韓合意に含まれない被害者も含むすべての被害者に対する「十分かつ効果的な救済及び補償」の必要性などの懸念を示した。慰安婦女性の出身国には、フィリピン、中国、台湾、オランダ、インドネシア、東チモールなども含まれる。

女性労働者の権利に関しては3月、妊娠・出産・育児休業・介護休業等を理由とする不利益取扱いの防止措置義務などを含む法改正がされるとともに、2015年8月に成立した「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」のすべてが4月に施行されるなど前進がみられた。

OECD加盟国の中で、日本は女性管理職の割合が2番目に低い国である。2015年12月、新たに5年間の「第4次男女共同参画基本計画」が閣議決定されたが、2020年までに社会のあらゆる分野で女性が指導的地位を占める割合を少なくとも30%程度にするという2003年に掲げられた目標を後退させる内容となった。新たな2020年目標では、中間管理職に女性が占める割合について、国家政府機関で7%、民間セクターで15%などの数字に後退した。

性的指向・性自認

2015年3月に発足した超党派の議員連盟が、性的指向・性自認に基づく差別に対応する法律に関する議論を続けたものの、執筆時点で与野党の合意する法案には至っていない。

日本法上、トランスジェンダーとして法的認知(戸籍変更)を求める人は、「性同一性障害」者として扱われ、その診断を得ることが求められている。加えて、不妊手術、独身、未成年の子がいないこと、20歳以上であることなどが義務付けられている。

日本では同性婚は合法化されていない一方、2015年4月に東京都渋谷区で自治体として初めて同性パートナーシップを認定する条例が可決・成立した。2016年も、同性パートナーシップを認める自治体が増えた。

いじめは日本の学校において広く問題となっているが、HRWが2016年5月に発表した報告書にもあるように、LGBTの子どもに対するいじめは特に深刻であり、多くの子どもが差別や、男女別制服着用を強いられるなどの個人のジェンダーアイデンティティが尊重されない現状に直面している。文科省は4月、性的指向・性自認に関する教員向けの手引きを初めて公表した。

障がい者

日本政府が障がい者権利条約批准のための国内法整備として制定したいわゆる「障がい者差別解消法」が4月、施行された。同法は、行政機関等及び事業者に対し、障害を理由とする不当な差別的取扱いの禁止を義務付ける。また、行政機関等に対し、負担が「過重」でないときは、社会的障壁の除去のための合理的配慮義務を課す。

7月、障がい者施設「津久井やまゆり園」(相模原市、東京の南西に位置する)で、26歳の男性により男女19人が刺殺され27人が負傷した。容疑者は犯行直後に「障がい者なんていなくなればいい」と語ったとされている。容疑者が措置入院を解除された約5ヶ月後に犯行に及んだことから、政府は措置入院実務の検証を開始したものの、執筆時点では、地域社会へのインクルージョン支援を通じた自立生活の権利の実現など、障がい者へのスティグマと正面から向き合う抜本的改革は打ち出されていない。

子どもの権利

5月に児童福祉法の一部改正案が可決・成立。子どもの権利条約に則り、権利の主体であると初めて明記した。HRWは2014年、代替的養護下の子どもの施設収容への偏重(9割近く)を批判して脱施設化を求める報告書を発表したが、本改正法文言は、施設から家庭へと社会的養護制度の大転換を謳う。第三条の二において新たに家庭養護の原則が導入されたものの、政府が改正法をしっかり執行するか予断を許さない。

死刑

2016年も絞首刑による死刑執行が継続された。3月に2名、11月に1名に死刑が執行され、2012年12月の第2次安倍内閣成立以降、合計17名となった。死刑囚が十分に弁護士へアクセスできないことや、死刑執行が当日まで本人に告知されないことなども、死刑反対の立場から繰り返し批判されている。

外交政策

安倍首相は第2次安倍内閣の発足にあたり、中国の外交政策との対比の観点などから、2013年1月に「自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった基本的価値に立脚」した外交を展開すると宣言した。

しかし実際には、日本政府が公の場で人権問題を提起することは少なかった。外務官僚・外交官は、中国との競争やパイプの維持、貿易促進などを理由として、各国政府との良好な関係の維持を目的とした静かな外交という長年の方針を維持し、その傾向はアジアで特に顕著だった。2016年の首相演説では、基本的価値を共有する国々と連携を深めるとの約束に後退した。例外的に日本政府が公の批判を躊躇しなかった国として北朝鮮があり、日本人拉致問題ゆえに国内世論も強い関心を持っている。

日本とイラン両政府は2月、イランの首都テヘランで「第11回日本・イラン人権対話」を開催した。日本政府のこれまでの人権対話と同様、開催告知は会合の数日前で、事前・開会中・事後のいずれにもブリーフィングの機会がなかったため、人権活動家や人権団体側からの有効なインプットは行えなかった。ウェブサイトにおける会合後の発表には、人権関連の「意見交換」が行われたとしか記されなかった。