ロドリゴ・ドゥテルテ比大統領は今週、とりわけ外遊中は目覚まし目的で大麻を使用していると発言しました。大統領府の主人が違法薬物の使用を認めたいま、麻薬取締捜査官たちが家宅捜査に踏み切る…のでしょうか。
政府関係者への演説でドゥテルテ大統領は、近頃シンガポールで開催されたASEANサミット中にスケジュールへの不満をもらしました。期間中に会合の一部を「睡眠不足」を理由に欠席し、話題にもなりました。
ドゥテルテ大統領は、「殺人的スケジュールだが—年齢の割には影響を受けていないと思う。目覚ましに大麻を吸っているから」と述べました。その数時間後に記者たちが発言の真意を問うと、ただの冗談だったと火消しに回りましたが、発言の最中は決して冗談を言っているようにみえなかったことは確かです。
しかし、この「冗談」は笑えません。2016年6月に自身が始めた「麻薬戦争」で、警察や正体不明の襲撃者の手により、とくに十分な仕事につけていない若い男性など、約1万2000人が殺害されました。一方、警察はその数を5000人と主張し、どのケースも正当な麻薬撲滅作戦の一環だと主張しています。「麻薬戦争」における犠牲者のほとんどはシャブ(メタンフェタミン)使用者とされていますが、実際その多くは大麻を使用・販売していました。
フィリピンで大麻は違法です。ただの冗談だったにしても、大統領自らその使用を認めたことで、「麻薬戦争」の合理性がくつがえされ、殺人的な偽善が露呈されました。そしてそれは、犠牲者および被害者、その家族に対する残酷な侮辱でもあります。
ドゥテルテ大統領の発言が冗談でなかったとしたら、今や世界的なトレンドとなりつつある、代替的医療目的としての大麻の使用の合法化を、彼が支持する日がくるのかもしれません。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、個人の薬物使用は国際法によって保護された個人の選択の問題であり、犯罪にすべきではないという立場をとっています。
今回のできごとをきっかけに、もしかしたら大統領自身がその偽善に気づき、自分のように大麻の恩恵を個人的に受けている人びとの逮捕や殺害をやめるよう、警察に命令することになるかもしれません。さもなければ、なぜ麻薬取締捜査官が大統領府のドアをノックしてはいけないのか、という疑問が残ったままになるのですから。