北朝鮮は王朝的な支配者による独裁国家で、世界でもっとも抑圧的な国のひとつだ。独裁者の在についてから4年目となった2015年、金正恩第一書記は引き続き弾圧を拡大。北朝鮮国民が脱北して他国に庇護を求めないよう中朝国境の管理を強化し、国内における移動の自由の規制も厳格化した。また北朝鮮政府は、報道や映画、写真など国外から流入する非合法マテリアルに触れた人びとを罰し、かつ恐怖心からの服従を生みだすために公開処刑を用いた。

国連人権理事会が設置した、北朝鮮における人権に関する国連調査委員会(COI)は2014年に報告書を発表。北朝鮮における処刑、殺人、奴隷労働、拷問、投獄、強かん、強制堕胎ほか性暴力を調査・報告した。同報告書は「こうした侵害の重大性、規模、本質は、同国が現代社会に類をみない国家であることを露呈させている」と結論づけている。

2014年12月22日、国連安全保障理事会は調査委員会の勧告に従い、北朝鮮における人権状況を正式アジェンダに加えた。人権理事会および国連総会は安保理に対し、事態を国際刑事裁判所(ICC)に付託するよう求めた。

2015年3月27日、人権理事会は北朝鮮政府による組織的で広範かつ深刻な人権侵害を非難する決議を採択。6月23日に、ゼイド・ラアド・アル・フセイン国連人権高等弁務官が、北朝鮮による人権侵害の監視・検証を支援するため、ソウルに国連事務所を開設した。11月19日には国連総会第3委員会が同国の人権侵害を非難する決議を採択している。

北朝鮮政府はこれまでに4つの主要な国際人権条約を批准、ほか1つに署名している。もっとも近時では2014年11月10日に児童の権利、児童の売買、児童買春および児童ポルノに関する条約の選択議定書を批准した。北朝鮮憲法は一連の権利保障を謳うが、現実には政府が反体制的なあらゆる表現・意見を抑圧し、組織的かつ政治的な反体制運動、独立メディア、自由な労働組合、市民社会団体を禁じている。また、信教の自由も組織的に弾圧されている。

政府はまた、市場経済活動を犯罪化して恣意的に罰することで、経済的・社会的権利も侵害している。こうした私的取引は、市民が食糧や医薬品ほか、政府が一般に対して十分に供給できていない生活必需品を得るのに必要な、また限られた収入源のひとつとなっている。政府関係者は市場経済活動を容認する代わりに賄賂を要求し、払えない個人に対しては刑務所(教化所)や「労働鍛錬」施設(集結所)における強制労働の刑を科す。

北朝鮮では引き続き、政治的な立場を根拠に個人およびその家族が差別されており、それは雇用や住居、教育といった主要分野に及ぶ。もとになっているのは「出身成分」と呼ばれる社会・政治的身分制度で、個々人が「核心」「動揺分子」「敵対分子」の各階層に分類される。分類方法自体は何度か再編されたが、家族背景や、認識されている政治的忠誠をもとに市民が分類されていることに変わりはなく、腐敗した運用法も当該制度に影響を及ぼしている。

政府はまた、反国家的犯罪容疑に連座制を採用しており、子どもを含む何十万人もの市民が事実上、強制収容所ほか拘禁施設で奴隷と化している。こうした施設で人びとは劣悪な環境や看守による人権侵害、強制労働などに直面している。

移動の自由

政府は服従を確保するために拘禁・強制労働・公開処刑の脅しを用い、かつ情報および移動の自由に厳しい制限を課している。公式許可を得ないで国外に出ることを犯罪と定めており、治安機関が中国国内まで北朝鮮市民を追いかけ、拘束し、強制帰国させるケースもある。

金正恩政権下で、政府は北朝鮮と中国間の不規則な往来を阻止する対策を大幅に拡大。国境警備隊の見回り頻度を増やし、脱北を助ける仲介者を取締り、かつ外界との連絡のため中国の携帯電話を使用した者を訴追した。2014年と2015年に脱北した複数がヒューマン・ライツ・ウォッチに語ったところによると、賄賂を受け取る代わりに中国側に行くことを許した国境警備隊隊員らが取締りを受け、公開処刑されたという。

中国側の国境地帯でも警備が強化され、有刺鉄線や監視カメラが設置されたことで、脱北はより困難になった。中国当局は自国内の仲介者ネットワークを狙い撃ちしており、結果、中国からラオスやタイ、そして大半が韓国を最終地点とする苦難の旅を成し遂げる脱北者数は減少している。

中国は国内にいるすべての北朝鮮国民を、依然として不法な「経済的移住者」とみなしており、難民の地位に関する条約(1951年)および議定書(1967年)締約国として難民保護の義務を負っているにも関わらず、脱北者を常態的に強制送還している。中国への脱北者はすべて、送還後に待ち受ける刑罰を理由に、出身国から逃げ出した結果として、あるいは出身国を出国したのちに起きた状況によって難民となった人びとをさす後発(sur place)難民に該当すると、事態を憂慮する諸外国政府は主張。中国政府は常日頃から、脱北者が滞在している国境地帯への国連難民高等弁務官事務所関係者の立ち入りを制限している。

亡命した複数の元北朝鮮治安機関関係者はヒューマン・ライツ・ウォッチに、中国から強制送還された脱北者たちは尋問や拷問、クワンリソ(管理所)として知られる政治犯収容所や強制収容所送りになると証言する。刑罰の重さは、脱北者が中国にいる間にしていたことを当局が査定して決定される。2013年以降の脱北者または北朝鮮国内と連絡を取り合っている人びとは、北朝鮮政府が脱北者すべてを国家の敵とみなし、中国から送還された者はすべて政治犯収容所送りにしていると主張する。

女性の脱北者は、しばしば中国人男性との強制婚姻のためやセックスワーカーとして人身取引の標的となる。彼女たちは、何年も中国で過ごしていても法的地位を獲得できず、いつなんどき逮捕・送還されるか分からない。こうした非合法の結婚で中国に生まれた多くの子どもは、法的身分や初等教育へのアクセスを持たない。

情報の自由

すべてのメディアおよび出版は国の支配下にあり、国営ではないラジオやテレビ番組への非合法なアクセスは処罰の対象となる。インターネットや通話は国内に限定され、かつ厳重に検閲されている。非合法な海外の映画やテレビドラマが含まれるコンピュータのフラッシュ端末やUSB端末など、モバイルメディアの所持が見つかった場合も処罰される。前述したように当局は積極的に、中国の携帯電話を使用して北朝鮮国外に非合法な電話をかけている者を追跡・発見して、処罰している。

労働権

北朝鮮は国際労働機関(ILO)への加盟を拒む世界でも数少ない国のひとつ。労働者は組織的に結社の自由および団体交渉権を否定されている。同国唯一の労働者組織である朝鮮職業総同盟は政府の支配下にある。

2003年、韓国との協力により、軍事境界線付近の経済特別区である開城工業団地(KIC)が開発された。2015年9月の時点で、同工業団地では124の韓国企業が操業し、5万4,616人の北朝鮮労働者が、809人の韓国人責任者のもとで働いている。南北朝鮮共同の管理委員会が監督しているが、労働条件を規定する現地の法律は国際基準に遠く及ばない。

政治犯強制収容所

重大な政治犯であるとされる個人は通常、国家安全保衛部が運営する政治犯強制収容所に送られる。これら収容所では組織的な人権侵害が犯され、死に至ることも多い。具体的には、飢餓状態になりうるわずかな食糧、事実上皆無に等しい医療、適切な居住施設や衣料の不足、看守による性暴力や拷問、処刑などだ。

強制収容所に収監されている人びとは、骨の折れる強制労働を伐木場、鉱山、農場ほかでさせられている。これら労働は、過酷な気候や最低限の用具、安全装置の不在など、重大事故に繋がりうる要素に満ちたものだ。こうした収容所の死亡率は極端に高いと報じられている。

米国および韓国の政府関係者は、政治犯強制収容所に8万人〜12万人が収容されていると推定している(ケチョン市の第14・18号収容所、耀徳郡の第15号収容所、華城市の第16号収容所、清津市の第25号収容所)。政府はいずれの収容所の存在も公けに認めていない。

強制労働

強制労働は政治犯強制収容所以外でも広く一般的だ。物品の非合法な私的取引に関与した疑いをもたれた人びとは通常、「労働鍛錬隊」か、あるいは教化所送りとなる。いずれも強制労働が義務づけられた刑務所であり、そこで多くの女性が性的虐待の犠牲になっている。過酷で危険な労働条件が原因で、多数の負傷者が出ていると伝えられている。

関係当局に中国からの物品密輸や中国への脱北仲介を疑われた人びと、または軽犯罪や韓国映画の販売・鑑賞といったマイナーな政治違反を犯したと疑われた人びとは、しばしば長期刑を受け、教化所(矯正、再教育施設)に収監される。こうした施設では強制労働や食糧・医療不足、看守からの日常的な虐待が待ち受けている。

主要な国際アクター

北朝鮮政府の国連人権メカニズムとの協力は世界でも最悪レベルのままだ。2013年以来、同国の人権状況は国連の注目をこれまでにないほど集めている。人権理事会および安保理も例外でないことは前述の通りだ。

日本は引き続き、1970年〜80年代に北朝鮮により拉致された12人の日本人の帰国を要求している。日本の市民社会団体の一部は拉致数がもっと多いと主張する。韓国も同様に韓国人の帰国要求を強めている。同国では朝鮮戦争後の数十年間に数百人規模で拉致があったとされている。北朝鮮政府はまた、中国、タイ、欧州、中東でも人びとを拉致してきた。

9月21日に国連人権理事会は北朝鮮人権問題のプレナリー・パネルを開催し、国際的な拉致、強制失踪ほかの犯罪について協議した。

10月20日〜26日には韓国・北朝鮮両政府の企画により、朝鮮戦争で離散した186家族の再会を2014年2月以降初めて実現。

2015年1月にはバラク・オバマ米大統領が、北朝鮮が関係する集団によるものとされる2014年後半のソニー関連会社へのサイバー攻撃を受け、制裁措置を科す大統領令に署名。この北朝鮮に対する制裁には、初めて人権条項も含まれた。