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World Report 2014: ベトナム

2013年の出来事

Keynote

 
Rights Struggles of 2013

Stopping Mass Atrocities, Majority Bullying, and Abusive Counterterrorism

Essays

 
Putting Development to Rights

Integrating Rights into a Post-2015 Agenda

 
The Right Whose Time Has Come (Again)

Privacy in the Age of Surveillance

 
The Human Rights Case for Drug Reform

How Drug Criminalization Destroys Lives, Feeds Abuses, and Subverts the Rule of Law

ベトナムの人権状況は2013年にはっきり悪化。数年来の明確な傾向が強化された。2013年、反政府派への厳しく強力な弾圧が特に目立った。たとえば、政治変革を求めることが「犯罪」とされ、多くの非暴力活動家に長期刑が宣告された。

ベトナム共産党は1975年の南北統一以来、一党独裁制を維持している。国家権力を独占し続ける一方で、基本的自由の欠如に対する一般の不満の高まりに直面している。権利の否定と役人の腐敗の蔓延は、ベトナムの政治・経済発展の抑制要因として広く認識されている。統治の正統性の危機と経済停滞の解決策をめぐり、ベトナム共産党内部では政争と経済政策における対立が生じている。このため一般民衆が、とくにソーシャル・メディアを使って意見を述べるようになった。

 2013年には、デジタルメディアなどで政府に批判的な意見が掲載されることがきわめて増えた。政府の政策を疑問視し、役人の腐敗を明らかにし、土地の接収に抗議し、信教の自由を擁護し、一党支配に代えて民主主義を導入するよう求めるなど、政府に批判的な意見だ。きわめて注目すべき取り組みとして「憲章72」がある。これは当初知識人72人が署名したが、その後約1万5,000人が加わった。憲法を改正し複数政党制に基づく選挙を認めるよう求めるものだ。ほかにも「宣言258」がある。これは刑法258条(民主的自由の濫用)改正を求めるものだ。この規定は言論の自由を罰するためによく用いられる。

政府は積極的措置も講じた。2013年11月7日、ベトナムは国連の拷問等禁止条約に署名した。9月24日には、同性婚の結婚式に対する行政罰を廃止する命令を出した。しかし政府が提出した結婚家族法改正案では、同性婚に法的地位は認められなかった。政府はまた2013年に、セックス・ワーカーの拘束と強制的な社会復帰事業の段階的廃止に着手した。

政治囚と刑事司法制度

本報告書執筆時点で、ベトナムには推計150~200人の政治囚が存在する。低地に住むベトナム人と山地に住む少数民族の政治囚もおり、一部は宗教活動との関係が、少なくとも理由の一つとなって投獄されている。全体数には、政治支配されている裁判所で2013年に有罪とされた政治囚少なくとも63人が含まれる。2012年の約40人に比べて増加。2012年の数字は2010年と2011年の数字を共に越えていた。

 ベトナムの裁判所は、国際法が求める独立と公平性を欠いている。共産党または政府が訴訟結果に利害を持つとき、事実や法ではなく党や政府が結果を左右する。審理は手続き上などでの不正行為により頻繁に損なわれる。不正行為は、政治的に予め決定された結果を達成するために行われる。

非暴力による政治変革の支持者の弾圧に最もよく用いられる刑法の規定は、79条、87~89条、91条、258条だ。税法などその他の法律もよく用いられる。たとえば、著名な人権弁護士でブロガーのレー・クォック・クアン(Le QuocQuan)氏が2012年12月27日に逮捕された。共産党の政治的独裁を批判した直後のことだった。逮捕理由は脱税容疑とされたが、不当容疑である。氏の釈放を求める国内外からの要求により、裁判は延期されたが、10月2日に2年6か月の刑が宣告された。

表現・言論・情報の自由

政府の弾圧は多くの独立系文筆家、ブロガー、人権活動家を標的としている。警察による脅迫、嫌がらせ、恣意的逮捕、弁護士や家族の面会禁止のついた長期拘束、裁判への出頭命令のほか、長期刑が科せられることも多い。政府はすでに、デジタル情報の自由の行使を罰し、そうでなければ妨げる広範な権力を有しているが、これを強化するためにグエン・タン・ズン首相は2013年9月1日に、政令72号を発効させた。これはコンテンツ・フィルタリングと検閲を合法化する条項を含んでおり、曖昧に定義された「禁止された行為」を非合法化するものだ。また個人がニュースをまとめてブログや個人のウェブサイトに掲載することも禁止された。

2013年のブロガーへの迫害は、刑法第258条違反容疑によるチュオン・ズイ・ニャット(TroungDuyNhat)、ファム・ヴィエト・ダオ(Pham Viet Dao)両氏の逮捕が象徴的だった。2人が有罪となれば、最長7年の刑が下される。

集会・結社・移動の自由

ベトナムは、ベトナム共産党または政府から独立するあらゆる政党、労働組合、人権団体を禁じている。当局は集会開催を許可制とし、政治的か容認できないものであると判断した会合、デモ、抗議活動に許可を出すことを拒否した。もしこうした出来事がそれでも行われれば、主催者と参加者が罰せられることがある。2013年、こうした措置が政府の国内政策と外交政策に意義を唱えた個人、土地の強制接収の疑いのある事件に抗議した個人に適用された。

2013年5月、ベトナムの3つの市の当局が、非暴力の「人権ピクニック」の開催を阻止し、または解散させることを目的に、暴力と一時的な身柄拘束、組織的嫌がらせによる介入を行った。活動家側は、この企画で世界人権宣言などの人権規範を広く伝え、議論する計画だった。

政府はまた、反体制活動家のベトナム出国を「国家安全保障上の理由」により繰り返し妨害した。高名な知識人であるフィン・ゴック・チェィン(Huynh Ngoc Chenh)、グエン・ホアン・ドゥック(Nguyen HoanDuc)両氏は2013年5月と6月に海外渡航を禁止された。

信教の自由

2013年1月、首相は政令第92号を発効させ、宗教団体への統制をさらに拡大した。政令を実施に移すにあたり政府は、政府に登録された政府管理下の公式な宗教施設の外で活動する宗教団体を監視し、嫌がらせを行い、時には激しく弾圧した。2013年に対象となったのは、カオダイ教の非公認支部、ホアハオ教、中央高地など全国の独立派のプロテスタントとカトリックの家庭教会、クメール民族の仏教寺院、ベトナム統一仏教会など。

ゲアン省人民裁判所により、14人の活動家(大半がカトリック)が2013年1月に有罪判決を受け、投獄されたことは、同年の政府による反体制派攻撃の増加の開始を示すものだった。このとき弾圧の理由となったのは、「政府転覆」を目的とした活動を禁じた刑法第79条。この活動家14人は、教会での奉仕活動と非暴力の政治的抗議への参加など、基本的人権を行使していたにもかかわらず攻撃の対象となった。

身柄拘束時と刑務所内での人権侵害

政府メディアと消息筋は、収容者に対する警察の虐待、拷問、さらには殺害の事例を、引き続き多数報告した。2013年5月、グエン・ヴァン・ドゥク氏はヴィンロン省警察による拘束中に死亡した。死因は「頭蓋骨陥没による脳出血、右脳の損傷、左脳の血栓、肋骨2本と胸骨の骨折」だった。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、この死亡事件の捜査が行われたことを確認していない。

健康状態を害している政治囚は多いが、十分な医療措置を受けていない。クー・フイ・ハ・ヴュ(Cu Huy Ha Vu)、グエン・ヴァン・ハイ(ジェウ・カイ) (Nguyen Van Hai <Dieu Cay>)、ホー・ティ・ビック・ケオン(Ho ThiBichKhuong)の3氏は2013年にハンガーストライキを行い、十分な医療を受ける権利など、国際的に認められた囚人の権利が否定されていることに抗議した。

憲法改正

2013年11月28日、ベトナム議会は憲法改正を行ったが、政治経済体制の大幅な変革を望む人々を失望させる内容だった。今回可決された政府提案の改正案には、人権への関与が言葉の上では示されているが、深刻な欠陥が放置されている。改正後の憲法も、基本的人権の尊重と保護の多くを確実に実施するには不十分だ。

恣意的拘禁

薬物依存者は、未成年者を含めて政府の収容施設に収容される状態が続いた。収容者は「労働療法」の名目で雑多な作業を強制される。この拘束措置に対して司法審査に訴えることはできない。作業割当の未達成など規則違反は殴打による懲罰の対象となり、懲罰室に収容される。収容者の話では、水と食糧が絶たれる。

国際社会の主要アクター

ベトナムの最も重要な相手国は中国と米国だが、日本、EU、ASEAN諸国とオーストリアとの関係も重要だ。

ベトナムの対中関係は2013年に領海紛争で複雑なものとなった。しかし両国にとっては、それぞれの国内で共産党支配の継続に注力することが、より重要な問題であろう。

米国はベトナムとの軍事・経済関係の改善に引き続き務めた。武器装備品の禁輸措置は2013年も維持された。米国は人権状況改善に向けてベトナムに若干の働きかけを行ったが、バラク・オバマ米大統領とチュオン・タン・サン国家主席との7月の首脳会談で、人権問題が大きく取り上げられることはなかった。EUの人権尊重に関する働きかけは生ぬるいものだった。また日本はこの問題で沈黙し続け、ベトナム最大の二国間ドナーという立場を一切用いなかった。

EUとベトナムは自由貿易協定(FTA) 交渉を続け、年次人権対話の第3回目が2013年9月に行われた。2013年4月、欧州議会はベトナムでの継続的な人権侵害に対する非難決議を採択し、EUに対し、ベトナム当局に懸念を表明するよう求めた。EU首脳陣は、キャサリン・アシュトンEU外務・安全保障政策上級代表をはじめ一切発言を行わなかったが、EUのベトナム訪問団は声明のなかで、反体制派の弾圧、刑事囚への死刑再開、政令72号によるインターネット規制に懸念を表明した。