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イエメン:武装集団の襲撃からデモ隊を守れ

サヌアで、政府支持派がデモ参加者1名を殺害 38名が負傷

(ニューヨーク)-2011年2月22日夜、イエメンの首都サヌアで武装集団が非暴力のデモ隊を襲撃した。そして、警察はこの襲撃を傍観していた、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。目撃者らによると、武装集団によるこの襲撃で、デモ隊の少なくとも1名が死亡、38名が怪我をした。

警察は、表向きは、デモ参加者の警護のためにサヌア大学門へ派遣された。しかし、実際には、AK-47突撃銃・拳銃・棒・大型ナイフなどで武装した大集団の襲撃を許し傍観していた、と目撃者らはヒューマン・ライツ・ウォッチに語った。武装集団は複数のトラックに乗って到着、そのトラックのうち1台は大統領の大きな肖像を掲げていた。イエメンのサレハ大統領が「政府部隊は、正当防衛の場合しか発砲しない」と約束したにもかかわらず、こうした事態が起きた。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの中東・北アフリカ局長サラ・リー・ウィットソンは、「警察は、他の者に汚い仕事をさせて自らは傍観していた。警察はその責任を問われなければならない」と指摘。「サレハ大統領は暴力行使をやめると約束した。しかし、平和的なデモ隊への襲撃が続く限り、約束は殆ど意味をなさない」と語る。

襲撃現場に居合わせたある医師は、ヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、警察は初めのうちは、デモ隊と武装集団を広場の両端に分ける予防線をしいていた、と証言。しかし、それが突然「その予防線を武装集団が越えるのを許したんですよ、やつらはそれで私たちに向かって石を投げ始めたんです。その次に警察はいなくなり、暴漢たちは民衆から100mくらいの所から、撃ちだしたんです」と述べた。

ある別の目撃者は、1台の車が広場に入って来て、降りた2人がデモ隊に向かってAK-47を発砲した、その他にも政府支持派グループで拳銃を持っていた人びとがいた、と話していた。デモ参加者たちは、襲撃直後に広場で見つけたといって、AK-47及び拳銃の薬きょうおよそ20個を、ヒューマン・ライツ・ウォッチに見せてくれた。人権活動家たちは、ヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、複数の男たちが近接する建物から発砲したのを見た、と証言した。

政府支持者の集団が少なくとも5分間にわたり発砲を続けていたが、その間、警察はどこにもいなかった、と目撃者たちはヒューマン・ライツ・ウォッチに話した。その後、警察の増援が到着し、警察は空に向かって威嚇射撃を始めたものの、その後の20分間にわたり政府支持派の襲撃を制止せず、その間、散発的な発砲が続いた、と目撃者たちは指摘する。

前出の医師によると、発砲が始まった直後、4名のデモ参加者が医療用テントに運び込まれたとのこと。「4人とも全部、体の色々な部分に弾の傷があった。1人は頭を撃たれていた。1人は即死し、もう1人が危篤状態だった」と語った。メディア報道やイエメンの人権活動家たちは、その他に、もう1人の市民が怪我を負い死亡した、としている。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、これについて独自に確認を取ることができなかった。

負傷者38名の内、約10名が重体で病院に搬送された。前出の医師によると、政府系のアル・クウェイト(Al-Quwait)病院は、負傷者の受け入れを拒否。負傷者たちを、別の医療機関に搬送してもらわなければならなかったそうである。

2月23日現地時間午前1時30分現在、多くの反政府デモ隊が広場に残っている。政府支援派も、まだその広場の大きな部分を占拠しており、踊りながら政府をたたえる歌を歌っている。

サレハ大統領の辞任を求めるデモ隊は、2月11日以来、同地で毎日集会を開き、週末にかけて座り込みを始めた。サレハ大統領を支持する工作担当者たちによる襲撃が何度も行なわれたが、2月20日、地元警察はデモ隊の安全を保証すると確約した。

イエメン政府は2月22日、この襲撃事件で1名が死亡したことを認めるとともに、それ以前の事件でも4名が死亡したことを認めている。しかし、その氏名は公表していない。

ヒューマン・ライツ・ウォッチがイエメンの複数の人権団体から入手した情報によると、2月16日以来、サレハ大統領の辞任を求める集会で少なくとも12名が殺害されている。ある人権団体は、首都アデンの南部にある港町で殺害された14歳の少年1名を含む16名の市民の氏名を示した上で、殺害された人の数はもっと多いと述べた。地元の複数の人権団体は、デモは概ね平和的だったのに、政府軍などの政府治安部隊がデモ参加者を殺害した、としている。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、死亡者が出るに至った状況についての独自の裏付けをとる事はできていない。

2月18日にタイズ(Taizz)市で正体不明の襲撃者たちが手榴弾攻撃を行い、その襲撃による傷で1人が2月20日に死亡している。イエメンの複数の人権団体は、殺害された人びとの氏名を病院や遺族から入手している。

地元団体は、ヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、イエメン全域で2月3日に始まった一連のデモで、少なくとも200名が負傷、2月16日から18日にかけてのアデンでのデモの際で負傷したのが、うち76名だと伝えている。タイズ(Taizz)は、87名の人びとが、2月18日に起きた前出の手榴弾攻撃で負傷している。

イエメン政府は、警察や軍などの治安部隊のこれらの襲撃事件への関与について、直ちに調査しなければならない、とヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘。

前出のウィットソンは、「少なくとも18名のイエメンの若者が、政府に対して基本的人権を尊重するよう要求しただけなのに、命を失った。イエメン政府当局は、デモ参加者たちに、治安部隊や親政府派武装集団に殺されたり怪我をさせられたりする危険なしに自らの怒りを表明するのを認めるべきである」と述べる。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、連日デモが行われ始めた2月11日以来、武装工作担当者と親サレハ派デモ隊との間をイエメン政府が連動させている実態を調査・報告してきた。

イエメン政府当局者は、タイズでの手榴弾攻撃に関与したした者9名を拘束した、と述べている。また、サレハ大統領は、2月21日、イエメン治安部隊に正当防衛の場合にのみ発砲することを命じたと述べた。大統領は、チュニジアとエジプトから拡大してきた抗議デモのことを蔑み、"ウィルス"だとした。

市民的及び政治的権利に関する国際規約(国際人権B規約:ICCPR)の締約国として、イエメン政府は、人びとに対し、生命に対する権利、身体の安全、表現・結社・平和的な集会の自由を保障するよう義務付けられている。また、イエメン政府は、法執行職員による強制力および武器の使用についての基本原則(United Nations Basic Principles on the Use of Force and Firearms)に従わなければならない。同原則は、法執行職員が「命を奪う可能性のある有形力」を行使することが認められるのは、生命を守るために不可避であるという極めて限定的な状況に限られ、かつ、その行使は任務の遂行に必要とされる範囲内に抑制されるべきであるとともに、対処する危機と均衡のとれたものでなければならない、と明言している。

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