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日本は今やベトナムへの3番目の投資国だ。多くの著名な日本企業が、より安上がりの労働力を求め、中国からベトナムに拠点を移している。若くて勤勉なベトナム人は政治的、社会的な不安と無縁だと考えられており、海外投資を呼び込む要因にもなっているが、現実は違う。

 ベトナムの労働者らも、世界金融危機の影響を受けている。インフレの加速と生活コストの上昇により、1日2~3ドルの資金では暮らしていくのは困難だ。政府が定める外資系企業での最低賃金も月62ドルに上がったが、生活維持にはギリギリだ。労働者の抗議行動は日本の工場でもあり、08年5月にはハノイのパナソニックの工場で賃上げを求める1000人規模のストライキが起きた。

 ベトナムでは共産党1党支配が続き、言論の自由は大幅に制限されている。ストライキはおおむね非合法で、独立した労働組合の結成も禁止だ。労働者の権利などを主張する活動家は「民主主義的自由の乱用」という罪で罰せられ、多くの労働運動家らが投獄され、刑務所での厳しい生活を余儀なくされている。ベトナムでは、国際水準の公平な裁判や公正な手続きすら保障されていない。

 日本は、アジアで先頭に立つ民主主義国家として、また最大の援助国家として、ベトナムに対して多大な影響力を持つ。2国間協議や貿易交渉を通じ、ベトナムに対し、労働や人権に関する国際基準を守るよう圧力をかけるべきだ。

 今月、国連人権理事会が、4年ごとに行う人権状況の検証結果を報告する。しかし、ベトナムは言論や集会、メディアの自由などの確立を求める関係国からの提案を拒否する意向のようだ。

 日本は、政府開発援助(ODA)に絡む汚職事件を機に08年12月から停止していたベトナムへのODAを再開した。しかし、無条件に許してはいけない。手始めに日本は、人道目的以外の開発援助に関し、基本的人権を順守することを契約条件にしてはどうか。また、ベトナムへの貿易優遇措置と労働者の権利保護をリンクさせることもできる。日本はその影響力を無駄にせず、ベトナムの人権状況改善に向け、同国政府に具体的措置を即刻取るよう求めるべきだ。

ヒューマン・ライツ・ウォッチ アジア局長 ブラッド・アダムズ

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