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朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の人権状況は悲惨である。政府に反対意見を述べる政治組織、独立した労働組合、報道の自由や市民社会は存在しない。恣意的な逮捕・抑留や法の適正手続きの欠如は深刻な問題である。

北朝鮮政府は巨大な収容所を設置し、子供も含め数十万人の人々を悲惨な奴隷状態においている。北朝鮮政府は、国有財産を盗んだ、食料を秘密裏に貯蔵した、その他なんらかの「反社会的な」罪を犯したなどとして、定期的に市民の公開処刑を実施している。信教の自由は存在しない。

政府の許可なく出国した者は反逆者とみなされることが多く、帰国した際には長期に及ぶ投獄や死刑とされることもある。北京五輪の直前およびその開催期間中、中国は、北朝鮮難民および移民に対する逮捕・送還を強化した。

米国政府高官及び韓国の政府高官は、金正日は2008年9月に脳梗塞で倒れたと見られると述べた。金正日は非常に大きな権力を握っているため、金正日の健康状態の悪化が事実であれば、北朝鮮の人権と統治に広範な影響を及ぼすであろう。

食糧への権利

90年代の全国的な飢饉の際の状態にまで逆戻りしてはいないとはいえ、北朝鮮の食糧不足は続き、国内における脆弱な層が2008年もまた飢えに苦しんだ。特権階級以外の人々は、既にほとんど機能していない配給制に取って代わった市場で食料や生活必需品を購入している。労働党高官と軍の治安や情報に携わる極めて一部の人間だけが、今なお、定期的な配給を受給している。

北朝鮮における食糧の物価は、2007年ほど急激ではないものの、2008年も上昇を続けた。もっとも、食糧不足がどの程度深刻かについては、北朝鮮の農産業についての専門家が実にさまざまな評価をしており、一様ではない。

中国に在住する北朝鮮の人々の状況

数十万人の北朝鮮人が、1990年代、中国へ逃れた。多くは北朝鮮国境近くの吉林省東部にある延辺朝鮮族自治州に住んでいる。中国は1951年難民条約の締約国であり、中国政府には難民保護の義務がある。しかし、中国政府は、中国に滞在するこうした北朝鮮人をまとめて違法な経済移民とみなし、日常的に北朝鮮に送還している。前述したとおり、送還された北朝鮮人たちは、北朝鮮で過酷な状況におかれる可能性がある。

中国人と同居し事実上の婚姻関係にある北朝鮮女性たちは、長期間中国で生活しても、在留許可が与えられず、逮捕・送還の危険にさらされ続けている。北朝鮮女性や少女のなかには、誘拐され、あるいは騙されて、中国で結婚させられ、あるいは売春させられている人びともいる。

2008年8月の北京五輪の期間中及びその直前、中国警察当局は、延辺に住む多くの北朝鮮人を逮捕して送還した。公式な統計はないものの、付近住民によれば、いくつかの村では、一年前に居住していた北朝鮮人のうちごくわずかしか残されていない状況だ、という。逮捕・送還された者がいる一方で、最終的な目的地である韓国を目指して第三国へ逃げる者もいた。

延辺に住む北朝鮮人を母親に持つ多数の子どもたちは、身分証明をもらえず、小学校へ通うことができない。中国に移り住んだ北朝鮮の子どもたちには、戸籍登録証(戸口簿)をもつ権利がないが、多くの小学校が、入学の際に戸口簿の提出を求める。中国人の父親を持つ子どもについては、北朝鮮人の母親の存在を隠すため、戸籍登録が行われないこともある。

中国の法律では、国籍にかかわらず9年間の教育を受ける権利が与えられている。よって、法律によれば、北朝鮮人の子どもも、中国人と北朝鮮人の間の子どもも、身分証明書がなくとも、学校への入学が許されねばならない。しかし、現実には、ほとんどの学校が、そうした書類を要求する。北朝鮮人の子どもたちが学校に入学できるよう、賄賂や偽造を行う親や保護者もいる。

中国以外にいる北朝鮮難民の状況

中国にいる北朝鮮人のうち、モンゴルやタイなどその付近の第三国を経由して、韓国、日本や米国にたどり着く人びとも一部いる。韓国は、憲法の定めにより、全ての北朝鮮人を国民として受け入れている。2008年の執筆現在の時点で、韓国は13,000人、日本は100人超、米国は数十名の北朝鮮人を受け入れた。近年、カナダ、日本、ドイツ、イギリス及びその他のいくつかのヨーロッパの国々は、合計数百人の北朝鮮人に、難民としての地位を認めている。

北朝鮮の労働者の状況

北朝鮮の開城(ケソン)工業団地では、35,000人以上の北朝鮮人が、韓国ビジネスむけの商品を中心に、製造業に従事している。工業団地で施行されているの労働関連法規は、団結権、団体交渉権、性差別、セクハラ、児童の危険な労働についての国際基準を全くみたしていない。

北朝鮮労働者はブルガリア、中国、イラク、クウェート、モンゴル、ロシアなどでも雇用されていると報告されている。こうした国の中には、活動家たちが、労働者の基本的な権利について懸念を表明している国もある。たとえば、北朝鮮政府による労働者の移動、表現、及び、結社の自由に対する制限、労働者に常に同行する「管理人」の存在、及び、北朝鮮政府やその他の期間が給与の相当部分を差し引いてから支払をするという間接給与支払い疑惑などについて、懸念が表明されている。

拉致被害者

北朝鮮に拉致されたとされる外国人(大部分の拉致は70年代及び80年代に行われた)の問題は解決されていない。韓国政府は、北朝鮮の機関に拉致された496人の韓国国民がその意思に反して北朝鮮に留まらされていると述べている。北朝鮮政府は、これらの韓国人は自分の自由意思で北朝鮮に留まっていると主張しているが、韓国にいる親戚が、これらの韓国人と連絡を取ることを認めていない。

 他方、北朝鮮は、日本人13人を拉致したことを認めた。そのうち5人は、2002年に日本に帰国した。北朝鮮は、他の8人は既に死亡したとし、また、その他には拉致された日本人はいないと述べている。日本政府は、他にも何人もの日本人が拉致されていると主張している。

主な国際社会の対応

2008年2月、韓国の北朝鮮政策を転換するという公約を掲げ、韓国大統領として李明博(イ・ミョンバク)氏が就任した。李大統領は、北朝鮮の人権問題の歴史を非難し、戦時中に捕えられた韓国人囚人と拉致被害者の送還を要求している。前大統領である金大中(キム・デジュン)氏・盧武鉉(ノ・ムヒョン)氏の政権下では、北朝鮮の指導者・金正日(キム・ジョンイル)二世との間で南北首脳会談が行われ、韓国は大規模な援助提供と北朝鮮における大型経済プロジェクトを開始。しかし、北朝鮮で行われている人権侵害については沈黙を守っていた。

李大統領の就任後、両国の関係は急速に悪化した。3月には、北朝鮮が韓国に近い朝鮮半島西海岸に向けミサイルを発射し、7月には北朝鮮兵士が韓国人観光客を金剛山観光地の付近で射殺した。また、8月には韓国内に住む北朝鮮の難民である男性一名と女性一名を、北朝鮮からのスパイ容疑で逮捕したと韓国の検察庁が発表した。

悪化した両国間の関係は、食料援助の中断が原因とも見える。北朝鮮がまず援助協力を拒否し、その後韓国も、新たに食料援助を行うという世界食糧機関(WFP)からの請願を8月に受けたにも関わらず、迅速に対応することができなかった。近年、韓国は中国と並び北朝鮮に食糧の無条件援助を行う最大ドナー国だったのだ。

一方、北朝鮮と米国政府の関係は改善しつつあるようだ。2月26日、ニューヨーク・フィルハーモニックが平壌(ピョンヤン)で公演し、多くの観客はこの公演を両国間の緊張緩和の前触れだと捉えた。また5月には、米国が2008年中期までに500,000トンもの食料援助を行うと発表。この報告書を執筆している11月現在では、既に120,000トンが支給されたそうだ。そして2008年10月12日、米国政府は北朝鮮をテロ国家指定から解除した。

2008年3月に発表された国連人権理事会の報告書によると、ウィティット・ムンタボーン国連北朝鮮の人権状況特別報告者は、北朝鮮国内の「悲惨な」収容所の状況と、「拷問と公開処刑の過剰な執行」について北朝鮮を批判した。