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本Q&A集では、イスラエルと、ハマスおよびガザ地区内のパレスチナ武装集団との間で進行中の敵対行為に適用される国際人道法(戦時国際法)に関する問題を取り上げる。本稿の目的は、国際人道法の違反行為を抑止し、人権侵害行為へのアカウンタビリティ(説明責任)を促すべく、紛争に関わるすべての当事者の行動についての分析を円滑に行うことにある。

本Q&A集は、敵対行為時の行動を定めた国際人道法に焦点を絞っている。パレスチナ武装集団またはイスラエルの過去・現在の攻撃が正当性を有するのかという問題や、武力行使が、国連憲章等の下で、いかなる場合に正当化されるのかといった問題については扱っていない。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、jus ad bellum(武力行使がいかなる場合に正当化されるかに関する法)の諸問題については立場を取らない。我々の第一の目標は、国際人道法に反する行為を記録し、武力紛争のすべての当事者に戦時国際法すなわちjus in belloを遵守するよう促すことである。

 

Q&Aリスト

 

1.     イスラエルとパレスチナ武装集団との現在の武力紛争には、どのような国際人道法が適用されるのか?

2.     占領への抵抗やパワーの不均衡といった政治的背景は、国際人道法の下でなされる分析に影響を及ぼすか?

3.     誰と何が軍事攻撃の対象として合法的とされるのか?

4.     人質を取ることは国際人道法上許されるのか?

5.     イスラエルとパレスチナ武装集団は、人口の密集する文民地帯での戦闘について、どのような義務を負っているのか?

6.     交戦当事者は攻撃に先立って文民に警告を与えるべきか?「効果的な」警告とは何か?

7.     病院、医療従事者、救急車はどのような法的保護を受けるのか?

8.     イスラエルがガザのモスクや学校を攻撃することは許されるのか?

9.     パレスチナ武装集団がイスラエルに向けて発射したロケット弾は合法なのか?

10.        パレスチナ武装集団の指導者やかれらがいる事務所、その自宅を標的にすることは合法なのか?

11.        文民に対する「集団的懲罰」とは何を意味するのか?

12.        ジャーナリストは攻撃から特別に保護されているのか?

13.        ラジオ局やテレビ局などの報道機関(ハマスが運営するものを含む)に対するイスラエルの攻撃は合法か?

14.        イスラエルとパレスチナ武装集団は、人道支援機関に対してどのような義務を負っているのか?

15.        国際人権法はなお適用されるのか?

16.        国際人道法違反の責任を問われる可能性があるのは誰か?

17.        重大犯罪の嫌疑について国際刑事裁判所(ICC)で訴追できるのか?

18.        ICCの他に説明責任(アカウンタビリティ)を追及する場所はあるのか?

 

 

  1. イスラエルとパレスチナ武装集団との現在の武力紛争には、どのような国際人道法が適用されるのか?

国際人道法上、イスラエルによるヨルダン川西岸とガザの占領は、現在進行中の武力紛争として認識されている。イスラエルと、ハマスなどパレスチナ武装集団との間で発生中の敵対行為や軍事攻撃には、国際人道法上の敵対行為に関する行動規範が適用される。この規範は、1949年のジュネーブ諸条約共通3条などの国際条約と、内戦に適用される慣習国際人道法からなる。なお、これらは、1977年のジュネーブ条約追加議定書に反映されるに至っている。こうした一連の規則は、国家と非国家武装集団の双方に関わるものであり、戦闘の方法と手段、および文民と敵対行為にもはや加わっていない戦闘員の基本的保護の方法と手段について定めている。

国際人道法で最も重要なのは、交戦当事者は常に戦闘員と文民とを区別しなければならないという原則である。文民を攻撃の標的とすることは決して許されない。交戦当事者には、文民、および家屋、商店、学校、医療施設などの民用物に対する損害を最小限に抑えるため、実行可能なあらゆる予防措置を講じることが義務付けられている。攻撃は戦闘員および軍事目標のみを対象とすることができ、文民を標的にする攻撃や、戦闘員と文民を区別しない攻撃、予期される軍事的利益との比較において、文民に過度な損害を与えるような攻撃は禁止されている。

さらに、共通3条は、文民および敵対行為にもはや参加していない者(捕虜となった戦闘員や、投降あるいは行動不能となった戦闘員など)への基本的保護について多数規定している。例えば、これらの者に対する殺人、残虐な扱い、拷問といった暴力や、個人の尊厳に対する侵害、品位を傷つけるような取扱い、屈辱的な取扱い、人質を取ることが禁止されている。

 

  1. 占領への抵抗やパワーの不均衡といった政治的背景は、国際人道法の下でなされる分析に影響を及ぼすか?

戦時国際法は、パワーの不均衡やその他の基準によって交戦当事者を形式的に区別しておらず、国際人道法の基本原則は、そのような場合であってもなお適用される。意図的に文民を標的にしたり、無差別攻撃を行ったりすることによる違反行為は、政治的状況のもたらす不正義を指摘したり、その他の政治的・道徳的主張を持ち出すことで正当化されるものではない。文民敵対勢力間に力の差がある状況は、他の多くの紛争事例でも見られることであり、このような状況では文民を標的にすることを認めるとするのであれば、これは、戦争のルールを骨抜きにするような例外を認めることとなってしまう。

つまり、交戦当事者は、国際法上合法的に武力を行使できるか否かにかかわらず、戦時国際法を常に遵守しなければならないのである。

また、交戦当事者は、他の交戦当事者がいかなる行動を取るかにかかわらず、国際人道法を遵守する義務を負う。つまり、一方による戦時国際法の違反行為があったとしても、他方による違反行為が正当化されるわけではない。一定の状況下では適法とされるいわゆる戦時復仇についても、文民または文民住民に対してこれを行うことは許されない。

 

  1. 誰と何が軍事攻撃の対象として合法的とされるのか?

戦時国際法は、武力紛争中に文民の犠牲が避けられない可能性を認めているが、交戦当事者は常に、戦闘員と文民を区別した上で、戦闘員とその他の軍事目標のみを標的にする義務を負う。国際人道法の基本的な考え方は、「文民の除外」と「区別」の原則である。

戦闘員とは、その国の軍隊の構成員、非国家武装集団の指揮官や常勤戦闘員などを指す。こうした人びとは、捕虜にされるか行動不能となった場合でない限り、敵対行為中にはいつでも攻撃の対象となる。

文民は、敵対行為に直接参加しているような場合に限り、例外的に合法的な攻撃の対象となる。赤十字国際委員会(ICRC)のガイダンスによると、戦時国際法は、非国家当事者の組織的戦闘部隊の構成員と、一時戦闘員とを区別しており、前者については武力紛争中に標的とされうるが、後者についてはあくまで文民として扱われ、敵対行為に直接参加しているような場合に限り、例外的に合法的な攻撃の対象となる。同様に、国軍の予備役兵も、原則として文民とみなされ、任務に就いている場合にのみ、攻撃対象たる戦闘員として扱われる。武装集団から離脱した戦闘員も、文民生活に復帰した常備軍の予備役兵も、再び任務に召集されるまでは文民である。

個人の行為が敵対行為への直接参加にあたるといえるためには、その行為は、対立する集団に危害を及ぼす切迫した可能性を有したものであり、かつ、一方当事者を支援するために意図的に実行されたものでなければならない。なお、敵対行為への直接参加には、行為実行を準備するためになされた措置、および行為が実行される場所への展開とそこからの帰還が含まれる。

また、ICRCのガイダンスによれば、武装集団において、政治的役割や管理的役割などの非戦闘的役割のみを担っている人びとや、軍事部門を有する政治団体(ハマス、イスラーム聖戦、パレスチナ解放人民戦線など)の構成員や関係者にすぎない人びとについても、他の文民と同様に、敵対行為に直接参加している場合でない限り、いかなる場合であってもこれを標的にしてはならない。つまり、軍事部門を有するパレスチナ系組織への加盟や所属は、個人を合法的軍事目標とみなす十分な根拠とはならないのである。

また、戦時国際法は、「正当な軍事目標とはみなされないすべての物」と定義される民用物を保護している。民用物への直接攻撃が禁止されており、民用物の例としては、戸建住宅、集合住宅、礼拝施設、病院などの医療施設、学校、文化的記念物などがある。民用物が正当な攻撃対象となるのは、軍事目標となった場合、すなわち、当該民用物が軍事行動に効果的に寄与しているために、その破壊や捕獲、あるいは無力化が、比例原則の下で相当といえるような明確な軍事的利益をもたらす場合であり、これには、通常は民用物である場所に、武装集団や軍隊の構成員が存在する場合も含まれる。なお、対象物の性質に疑義がある場合、それは民用物と推定されなければならない。

戦時国際法は無差別攻撃を禁じている。無差別攻撃とは、軍事目標と、文民・民用物を区別なく攻撃することを示し、その例としては、対象を特定の軍事目標に限定しない攻撃や、対象を特定の軍事目標に限定することのできない兵器を用いる攻撃がある。禁止されている無差別攻撃の一つに「区域砲撃」があり、これは、文民と民用物が集中する地帯に存在する複数の独立した軍事目標を、単一の軍事目標とみなし、砲撃等の手段で攻撃をすることをいう。

比例原則に反する攻撃は、他に違法な点がない場合であっても、禁止されている。比例原則に反する攻撃とは、文民当該攻撃に付随的に生じうる文民の死亡や民用物の損傷が、当該攻撃により得られると予期される具体的かつ直接的な軍事的利益に比して過度であるような攻撃をいう。

 

  1. 人質を取ることは国際人道法上許されるのか?

ジュネーブ諸条約共通3条1項(b)および慣習国際人道法により、非国際的武力紛争において人質を取ることは禁止されている。共通3条に関するICRCコメンタリーの定義によれば、人質を取ることとは「一定の人物(人質)の拉致、拘禁またはその他の拘束のうち、その人質の解放、安全またはウェルビーイングのための明示的または黙示的な条件としての一定の作為または不作為を第三者に強制するため、その者を殺害し、負傷させ、または拘束し続けるという脅迫を伴うもの」をいう。人質となりうるのは、文民や敵対行為に直接参加していない者(すでに投降したか、拘束されている軍隊の構成員など)である。人質を取ることは、国際刑事裁判所(ICC)ローマ規程等の下での戦争犯罪である。仮に人質に取られた場合であっても、これらの者は、他の理由での拘束を受けるすべての人びとと同様、人道的に扱われなければならず、人間の盾として使用されてはならない。

また、ICRCコメンタリーは、人質に取られるのは、多くの場合、安全保障上の脅威を与えない文民など、違法に身体を拘束され、拘禁される人びとであるとも指摘している。しかし、違法な拘禁がなくても人質を取ることにはあたりうる。例えば、捕虜となった兵士のように、合法的に拘束されうる個人であっても、人質として利用される可能性はあるのである。

合法的に拘禁されている人物を拘禁し続けるという脅迫は、人質を取ることにはあたらない。例えば、捕虜交換をめぐる交渉の一環として、捕虜となった戦闘員といった、法律上釈放する必要がない人物を拘禁し続けても、違法とはならない。しかし、違法に拘禁されている文民について、そのような脅迫を行えば違法となる。

人質を取ることは、人質を取った側が強要する行為のいかんにかかわらず、禁止されている。したがって、敵対する勢力に違法行為をやめさせようとする場合でも、人質を取ることが違法行為であることに変わりはない。

 

  1. イスラエルとパレスチナ武装集団は、人口の密集する文民地帯での戦闘について、どのような義務を負っているのか?

国際人道法は、都市部での戦闘を禁じていない。しかし、多くの文民がいるため、交戦当事者は文民の被害を最小限にする措置を講じる義務を負う。なお、ガザは世界で最も人口密度の高い地帯の一つである。

戦時国際法は、交戦当事者に対し、軍事行動を行うに際して文民に被害を与えないよう不断の注意を払い、また、巻き添えによる文民の死亡・民用物の損傷を可能な限り回避するため「すべての実行可能な予防措置を講じる」ことを求めている。これらの予防措置には、攻撃対象が軍事目標であって文民・民用物でないことを確認するためのすべての実行可能なことを行うこと、可能な限り事前の警告を行うこと、比例原則に反することが予想される場合には攻撃を控えることなどが含まれる。また、建物などの構造物がある人口密集地においては、地上、地下のいずれについても、高度な監視技術を用いても文民の存在を確認することができない場合もあり、文民の特定は困難であるため、交戦当事者はこのことを考慮に入れるべきである。

人口密集地に展開する部隊は、実行可能な限り、人口が密集する地帯またはその近傍に軍事目標(戦闘機、弾薬、武器、装備品、軍事インフラなど)を設けることを避けるとともに、文民を軍事目標の近傍から移動させるよう努めなければならない。交戦当事者は、軍事目標または軍事行動を攻撃から守る手段として、文民を「盾」として使用してはならない。「盾」とは、特定の場所・地帯または軍事勢力が、軍事攻撃の対象とならないよう、文民の存在を意図的に利用することである。

もっとも、正当な軍事目標となるようなものを、人口密集地またはその近傍に設けたことにつき、防御する側に責任があると考えられる場合であっても、攻撃する側は、文民への過度な損害を回避する義務をはじめとする、文民に危険が及ぶリスクを考慮する義務を、当然に免れることとはならない。つまり、ハマスの司令官やロケットランチャー、その他の軍事施設が人口密集地に存在したとしても、戦闘員と文民を区別する義務や比例原則を無視するなど、脅威にさらされる文民のことを考慮せずにその地帯を攻撃することは、正当化されない。

現代の武力紛争において、人口密集地での爆発性兵器(通称EWIPA)の使用は、文民への最も深刻な脅威の一つである。広域的な効果をもつ爆発性兵器は、直接的に文民の死傷を招くだけでなく、橋、水道管、発電所、病院、学校といった民用インフラを損壊することが多く、これにより、生活の基礎となる公益事業の継続困難を招くなど、文民に長期的な被害をもたらす。こうした爆発性兵器は、爆発半径が広い場合、攻撃精度が低い場合、多数の弾頭の同時投下を伴う場合などには、広範囲に影響を及ぼすこととなる。こうした兵器が人口密集地で使用されると、人びとは家を追われ、人道上の状況は悪化することとなる。

破壊半径が大きい兵器としては、大量の爆薬を爆発させるもの、破片を広範囲に拡散させるもの、あるいはその両方を兼ね備えるものがある。大量の爆薬を使用する弾薬が使用されると、広範囲に予測不能な拡散をもたらす破片化が発生しうる。また、強力な爆風波が発生する場合もあり、これにより、人体や物理的構造物に深刻な物理的損傷が生じたり、鈍器による傷害や飛散破片による物理的損傷が生じたり、他の負傷の発生・持病の悪化を招いたりすることとなる。成形破片弾頭をもつ弾薬は、数十個の破片を広範囲に拡散させるように設計されているため、こうした兵器の効果を制限することは困難または不可能である。

ガザでは、220万人のパレスチナ人が、長さ41km、幅6~12kmの細長い土地で生活している。こうした人口密集地帯で、広範囲に効果を及ぼす爆発性兵器が使用され、重要なインフラが標的とされることもあるとすれば、文民や民用物に深刻な被害をもたらすことが予想される。さらに、精度の低いロケット弾、あるいは広い範囲を集中攻撃するために設計されたロケット弾をガザが発射した場合、イスラエル側の文民や民用物に着弾する可能性が高く、そうなれば、やはり文民や民用物に被害がもたらされることが予想される。

 

  1. 交戦当事者は攻撃に先立って文民に警告を与えるべきか?「効果的な」警告とは何か?

戦時国際法は、交戦当事者に対して、状況が許す限り、文民に影響を及ぼす可能性のある攻撃について「効果的な事前警告」を行うことを求めている。何をもって「効果的な」警告とするかは状況によるが、その評価に際しては、警告がいつ行われるか、および、文民がその地帯を離れることができるかが考慮される。文民に対して、より安全な地帯に避難するのに十分な時間を与えない警告を発しても、「効果的」なものとは扱われない。

文民は、警告を受けたにもかかわらず避難を行わなかったとしても、国際人道法上、完全に保護される。仮に保護が及ばないとしてしまうと、交戦当事者は、警告に従わなければ意図的に危害を加えると文民を脅迫し、警告を利用してかれらを強制移住させることができることとなってしまうし、健康、障がい、恐怖、他に行く所がないという事情などにより、避難警告に従うことのできない文民も存在するからである。そのため、警告が発せられた後でも、攻撃部隊は、文民の生命や財産への損害を避けるために、実行可能なあらゆる予防措置を講じる義務を引き続き負う。例えば、標的が文民であることが明らかになった場合や、予期される軍事的利益との比較において、文民に過度な損害がもたらされるだろうことが明らかになった場合には、攻撃を中止することが求められる。

また、戦時国際法は「文民たる住民に恐怖を広めることを主目的とする暴力行為および暴力の脅迫」を禁じている。避難を呼びかける声明のうち、真正の警告ではなく、住民にパニックを引き起こしたり、安全確保以外の理由で自宅を離れさせたりすることを主目的としたものは、この禁止規定に該当する。この禁止規定は、合法的な攻撃の影響(攻撃が恐怖を発生させることは通常避けられない)を念頭に置いたものではなく、むしろ上述のような特定の目的を持った文民に対する脅迫や攻撃を念頭に置いたものである。

 

  1. 病院、医療従事者、救急車はどのような法的保護を受けるのか?

医療施設は、爆撃、砲撃、略奪、強制進入、銃撃、包囲、あるいは電気設備・水道設備の意図的な機能停止などの強制的干渉といった攻撃その他の暴力行為に対して、戦時国際法の下で特別な保護を受ける民用物である。

医療施設には、軍用・民用を問わず、病院、研究所、診療所、救護所、輸血センター、およびこうした施設の医療用具・医薬品倉庫などが該当する。民用物との推定がはたらく一般の建造物については、軍事目的で使用されていれば軍事目標になるが、これに対し、病院が攻撃からの保護を喪失するのは、人道的機能以外の「敵を害する行為」を実行するために使用されているときに限られる。なお、一定の種類の行為は「敵を害する行為」にあたらず、例えば、武装した警備員がいたとしてもこれにあたらないし、負傷者が武器を持っていたことが発見されても、小さな武器であればこれにあたらない。たとえ軍隊が、病院を、武器の保管場所や健常な戦闘員をかくまう場所として悪用したとしても、攻撃部隊はこれをやめるよう警告を発し、そのような形での利用を停止するための合理的な期限を定めなければならず、それでも警告が聞き入れられなかった場合でなければ攻撃してはならない。

戦時国際法では、医師、看護師、その他の医療従事者は、いかなる状況においても、その職務を遂行することを許され、保護されなければならない。かれらが保護されなくなるのは、みずからが果たす人道的機能以外の「敵を害する行為」を行ったときに限られる。

同様に、救急車やその他の医療輸送手段は、いかなる状況においても、その機能を果たすことを許され、保護されなければならない。これらが保護されなくなるのは、弾薬や健康な現役戦闘員の輸送といった「敵を害する行為」に使用されている場合に限られる。前述したように、攻撃部隊はこのような悪用をやめるよう警告を発する義務があり、警告が聞き入れられなかった場合に限って攻撃を行うことができる。

 

  1. イスラエルがガザのモスクや学校を攻撃することは許されるのか?

モスクや教会(それ以外の礼拝施設と同様である)、学校は、軍隊司令部や武器弾薬の保管場所などとして軍事目的に使用されている場合でない限り、攻撃対象としてはならない民用物と推定される。

また、比例原則は、これらにも適用される。

すべての当事者は、軍事作戦において、学校や礼拝施設、その他の文化施設に損害を与えないよう特別な注意を払う義務を負っている。

 

  1. パレスチナ武装集団がイスラエルに向けて発射したロケット弾は合法なのか?

武力紛争当事者として、ハマスの軍事部門、イスラーム聖戦、その他のパレスチナ武装集団には、国際人道法の遵守義務がある。軍事施設やその他の軍事目標を標的にすることは戦時国際法で認められているが、それは文民への危害を避けるために実行可能なあらゆる予防措置が講じられた場合に限られる。戦時国際法の下、パレスチナ武装集団は、文民を標的にした攻撃を行うこと、無差別攻撃を行うこと、予期される軍事的利益との比較において、文民に過度な損害をもたらす攻撃を禁じられている。さらにパレスチナ武装集団の指揮官には、正確に軍事目標を標的とすることができ、文民の巻き添え被害を最小限に抑えることができるような攻撃手段を選択する義務がある。使用する武器の精度が低く、軍事目標を標的にしようとすると必然的に文民に危害を及ぼす大きなリスクを発生させてしまうというのであれば、そもそもそうした武器を配備すべきではない。

ヒューマン・ライツ・ウォッチによる過去の敵対行為における調査によれば、パレスチナ武装集団が発射したロケット弾(自家製造の短距離ロケット弾や改良型長距離ロケット弾、ロシア製BM-21グラート多連装ロケット砲、他から輸入したロケット弾など)は精度が低く、人口密集地に向けて発射された場合、軍事目標と民用物を識別するような形で照準を合わせることができない。イスラエルに向けて発射されたロケット弾は射程距離を長くとったものもあったが、射程距離が長くなると、こうした精度や軍事目標への照準可能性はさらに下がる。

このようなロケット弾を文民地帯に対して使用することは、意図的かつ無差別な攻撃の禁止に違反する。同様に、人口密集地帯からロケット弾を発射したり、文民居住地域やその近傍に軍事目標を複数設けたりすることがあれば、交戦当事者は、その支配下にある文民を攻撃の影響から守るための実行可能なすべての予防措置を講じられていないという疑いがあるといえる。

 

  1. パレスチナ武装集団の指導者やかれらがいる事務所、その自宅を標的にすることは合法なのか?

国際人道法は、武力紛争の過程で指揮官を標的とすることを認めている。ただし、そのような攻撃が、均等性を有するなど、他の点においても文民を保護する法律を遵守していることが必要である。軍事作戦に参加していない政治指導者は、文民であり、正当な攻撃対象とはならない。

交戦部隊を指揮するパレスチナ武装集団の指導者は、正当な標的である。しかし、ハマスは軍事部門だけでなく、民政にも関わっているため、単にハマスの指導者であるというだけでは、当該個人を合法的に軍事攻撃の対象とすることはできない。

戦闘員は、自宅や職場への攻撃から免除されない。しかし、軍事目標への攻撃と同様、攻撃部隊が文民(戦闘員の家族を含む)に過度な損害を与える場合や、戦闘員と文民を差別しない方法で攻撃を行うこととなるような場合には、攻撃部隊は攻撃を控えなければならない。文民への危害を回避するために実行可能なあらゆる予防措置を講じなければならないという義務の下で、攻撃部隊は、文民を危険にさらすことなく戦闘員を標的にできるような代替地点があるかも検討すべきである。

攻撃時点においては不在である戦闘員の住居を攻撃することは、民用物への不法な攻撃となり、そのような不法な攻撃が意図的に行われれば、戦争犯罪となる。文民の住居である以上、それが戦闘員の家であったとしても、その時点において当該戦闘員がいるわけではないのであれば、民用物として保護された地位を喪失するわけではないのである。また、戦闘員の家族に危害を加えるためになされるような攻撃は、集団的懲罰として禁止されている。

軍事作戦に使用される人員や装備は攻撃の対象となる。もっとも、それらが存在する可能性のある大きな建物全体を破壊することが正当となるのは、その攻撃が文民や民間財産に過度な損害を与えない場合に限られる。

 

  1. 文民に対する「集団的懲罰」とは何を意味するのか?

戦時国際法は、ある者が個人的に犯した違法行為を理由に他の者を罰することを、禁止している。集団的懲罰とは、国際法の用語であり、司法上の罰に限られず、「行政上のもの、警察活動によるものその他いかなる種類の」制裁をも含む、懲罰的な制裁やハラスメントのうち、特定の集団に対し、かれら自身が個人的に関与していない行動に対して科されるもののすべてを指す。戦時国際法に違反して、戦闘員の家族の家屋を取り壊したり、懲罰の一形態として多層建築物などの民用物を取り壊したりすることといった集団的懲罰は、戦争犯罪である。ある攻撃や措置が集団的懲罰に該当するかは、その措置の対象やそれが懲罰として与える影響など、複数の要因によって決まるが、特に重要なのは、特定の措置の背後にある意図である。かりに、その意図が、第三者による行為を唯一の理由あるいは主たる理由として処罰するというものであった場合、その攻撃は集団的懲罰であった可能性が高いということになる。

 

  1. ジャーナリストは攻撃から特別に保護されているのか?

ジャーナリストおよびかれらの機材は、文民および民用物が享受する一般的な保護を受けており、敵対行為に直接参加していない限り、攻撃の標的にしてはならない。ジャーナリストの表現の自由や移動の自由などの諸権利は、法律により、事態の緊急性が真に必要とする限度において、一定の正当な制限に服す場合がある。しかし、ジャーナリストとしての仕事をしているからという理由だけで、逮捕されたり、拘束されたり、その他の処罰や報復措置を受けることは、あってはならない。

 

  1. ラジオ局やテレビ局などの報道機関(ハマスが運営するものを含む)に対するイスラエルの攻撃は合法か?

ラジオやテレビの施設は民用物であり、一般的な保護を受ける。戦時国際法の下、軍事通信に使用される放送施設への軍事攻撃は正当である。しかし、民間のテレビ局やラジオ局への軍事攻撃は、それらが保護された民用建造物であり、正当な軍事目標ではないため、禁止されている。さらに、攻撃が、主に文民の士気低下や、文民への心理的嫌がらせを目的とする場合、そうした攻撃も禁止された戦争目的である。民間のテレビ局やラジオ局が正当な軍事目標となるのは、正当な軍事目標となる基準を満たす場合、すなわち、「軍事行動に効果をもたらす」ような形で使用され、かつ、その時点での破壊が「明確な軍事的利益」をもたらす場合に限られる。具体的には、ハマスが運営する民間の放送施設は、例えば、軍事命令を送信するために使用されるなど、ハマスによる対イスラエル軍事作戦を具体的に進めるために使用される場合、軍事目標になりうる。しかし、民間の放送施設が親ハマスであるとか、反イスラエルであるとか、あるいは、どちらか一方の戦時国際法違反行為について報道しているというだけでは、正当な軍事目標にはならない。文民の士気を下げるために文民を攻撃することが違法であるのと同様に、単に報道によって民間世論を形成したり、外交的圧力を生み出したりするにすぎない報道機関を攻撃することも不当である。これらはいずれも、軍事作戦に直接的に貢献しているわけではないという点においては、異なるところがないからである。

放送施設が、軍事通信の伝達に使用されているために正当な軍事目標になった場合でも、攻撃時には、比例原則が遵守されなければならない。つまり、イスラエル軍は、そのような攻撃を行う際の文民へのリスクが、予期される明確な軍事的利益を上回らないことを常に確認しなければならない。都市部にある建物に対しては、可能な限り攻撃の事前警告を行うなど、特別な予防措置を講じるべきである。

 

  1. イスラエルとパレスチナ武装集団は、人道支援機関に対してどのような義務を負っているのか?

国際人道法の下、交戦当事者は、公平に配分された人道支援が、これを必要とする人びとに迅速かつ円滑に行きわたるようにすることを許さなければならず、また、これを促進しなければならない。交戦当事者は、救援活動の実施に同意しなければならず、恣意的な理由によって同意を拒んではならない。交戦当事者は、輸送物資に武器など他の軍事物資が含まれないようにするための措置をとることができるが、救援物資を故意に妨害することは禁じられている。

加えて、国際人道法は、人道支援要員について、職務遂行に不可欠な移動の自由を確保することを、交戦当事者に求めている。移動は、軍事的に必要不可欠な理由がある場合に限って、一時的に制限することができる。

 

  1. 国際人権法はなお適用されるのか?

国際人権法は、戦時国際法が適用される武力紛争時や平時を含め、いかなる時にも適用される。イスラエルとパレスチナは、市民的及び政治的権利に関する国際規約(ICCPR)や拷問等禁止条約などの中核的な国際人権条約に加盟している。これらの条約は、基本的人権の保障の大枠を規定しているが、その多くは国際人道法の下で文民に認められている権利(拷問の禁止、非人道的で品位を傷つけるような取扱いの禁止、差別の禁止、公正な裁判を受ける権利など)の保障に対応する。

国際人権規約は、「国民の生存を脅かす」緊急事態が公式に宣言された場合、その間における、一定の権利の制限を認めているが、緊急状況下における権利の制限は、例外的かつ一時的なものでなければならず、「事態の緊急性が真に必要とする限度において」なされなければならない。また、人種、宗教、その他の理由による差別を伴うものであってはならない。生存権、拷問その他の不当な扱いを受けない権利、同意のない拘禁の禁止、拘禁の適法性に関する司法審査を確保する義務、公正な裁判を受ける権利など、一定の基本的人権は、たとえ公式の緊急事態中であっても、常に擁護されなければならない。

 

  1. 国際人道法違反の責任を問われる可能性があるのは誰か?

犯罪の意図をもってなされた戦時国際法の重大な違反行為は、戦争犯罪となる。戦争犯罪は、ジュネーブ諸条約における「重大な違反行為」に関する規定に列挙されているほか、国際刑事裁判所規程などに慣習法として列挙されているが、これには、文民に危害を及ぼす意図的、無差別的、かつ相当性を欠く攻撃、人質を取ること、人間の盾の使用、集団的懲罰の実行などといった、幅広い違反行為が含まれている。また、個人も、戦争犯罪の未遂、幇助、促進、援助、教唆について、刑事責任を問われる可能性がある。

戦争犯罪を計画、または扇動した者にも責任が及ぶことがある。指揮官や文民指導者は、戦争犯罪の実行を知り、または過失により知らなかった場合において、それを防止し、または責任者の処罰を行うなどの措置を十分に講じなかったときは、指揮責任を問われ、戦争犯罪で訴追されうる。

各国は、戦争犯罪に関与した自領域内にいる個人を捜査し、公正に訴追する義務を負う。

 

  1. 重大犯罪の嫌疑について国際刑事裁判所(ICC)で訴追できるのか?

イスラエルとパレスチナ武装集団との戦闘中になされた戦争犯罪の嫌疑については、国際刑事裁判所(ICC)検察官によって捜査される可能性がある。2021年3月3日、ICC検察官は2014年6月13日以降にパレスチナで行われた重大犯罪の疑いについて捜査を開始した。ICC条約は2015年4月1日、パレスチナに対して正式に発効した。同裁判所の裁判官は、これにより、1967年以降イスラエルに占領されている地域、すなわちガザ、および東エルサレムを含むヨルダン川西岸地区につき管轄権を有するに至ったと述べている。ICCは、この領域でなされた戦争犯罪、人道に対する罪、ジェノサイドについて、加害者とされる者の国籍に関係なく管轄権を有する。

イスラエルはICC条約に署名したが批准しておらず、2002年には加盟するつもりはないと発表した。

2016年以来、ヒューマン・ライツ・ウォッチはICC検察官に対し、パレスチナで重大犯罪がなされたという確かな証拠があること、また、そうした犯罪の不処罰が当然になっていることを踏まえ、パレスチナについて正式な捜査を行うよう求めてきた。ハマスとイスラエルとの最近の武力衝突は、同裁判所による捜査の重要性と、パレスチナでなされた重大犯罪に対する法的正義の喫緊の必要性とを浮き彫りにしている。ヒューマン・ライツ・ウォッチはまた、ICC検察官に対し、パレスチナ人に対するアパルトヘイトと迫害という人道に対する罪に関与するイスラエル当局を捜査するよう求めている。

 

  1. ICCの他に説明責任(アカウンタビリティ)を追及する場所はあるのか?

戦争犯罪や拷問など、国際法に違反する一部の重大犯罪は、「普遍的管轄権」の対象となる。これは、一定の重大犯罪が、その国の領土内で行われた場合、その国の国民によって行われた場合、またはその国の国民に対して行われた場合のいずれにも該当しないときであっても、その国の国内司法制度の下で捜査し訴追することができるというものである。1949年のジュネーブ諸条約や拷問等禁止条約など、いくつかの条約では、自国の領土内または管轄下にある犯罪容疑者の身柄引渡しや訴追が国家に義務付けられている。慣習国際法の下では、ジェノサイドや人道に対する罪といったその他の犯罪について責任を問われるべき者を、そうした犯罪がなされた場所を問わずに裁くことが認められている。

各国司法当局は、普遍的管轄権の原則の下、国内法に従って、重大犯罪に関与していると信じるに足る者を捜査し、訴追すべきである。

2021年5月、国連人権理事会は、パレスチナ占領地およびイスラエルにおける違反行為と人権侵害行為に対処するために調査委員会を設置し、現在も進行中である。その目的は、国際法違反行為と侵害行為を監視、記録、報告し、加害者の説明責任と被害者への法的正義を前進させ、継続的な暴力を助長する根本原因と組織的な抑圧に対処することにある。

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