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スリランカ:「タミルの虎」メンバー容疑をかけられた人びと 無期限拘禁される

完全隔離の‘リハビリ’拷問と強制失踪の懸念

(ニューヨーク)-スリランカ政府は、1万1千名を超える人びとを強制収容施設(スリランカ政府は「リハビリセンター」と呼ぶ)に恣意的かつ無期限に拘束中である。スリランカ政府は刑事訴追もなく拘束されている人びとを釈放するべきである、と本日ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。

30ページの報告書「法の狭間で:スリランカで拘束中のLTTE被疑者の運命」は、拘束されている人びとの親族や人道支援関係者、人権活動家などへの聞き取り調査をもとに作成された。スリランカ政府が、拘禁中の人びとの様々な基本的権利を侵害していることを、ヒューマン・ライツ・ウォッチは明らかにした。

ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長ブラッド・アダムズは「スリランカ政府は、何ヶ月間も法律的に曖昧な根拠で1万1千人を拘束してきている。」と語った。「今こそ、スリランカの治安に対し本当に脅威である人びとを特定し、その他の脅威でない人びとは釈放すべきだ」

スリランカ政府は、被疑者の基本的権利を奪っている。具体的には、逮捕された具体的理由を告知される権利や、独立かつ中立な司法当局に拘束の違法性について異議申立をする権利、弁護士や家族と面会する権利など。拘束されている人びとは、何らかの犯罪で訴追されているのか、拘束される理由となった容疑事実は何かなど、不明なままである。

確かに、スリランカ政府には、公共の安全を守る権利と責任がある。しかし、その責任も、基本的人権を尊重しつつ合法的な手法で行なう必要がある。

スリランカ政府と反政府武装勢力タミル・イーラム解放のトラ(LTTE)の26年間に及ぶ内戦は、2009年5月にLTTEの敗北で終結した。その終盤の数ヶ月の間、政府は30万人近い戦争被災者難民たちを、北部にある「福祉キャンプ」と称する強制収容施設に閉じ込めた。2008年の初め以来に戦闘を逃れた民間人のうち、ほぼすべてがこれらの強制収容施設に閉じ込められた。スリランカ政府は、これらの人びとのうちLTTE関係者であると疑いをかけた者1万1千名以上を、検問所や収容所から連れ出し、「リハビリセンター」に送った。そのうち550名以上は未成年の子どもである。

スリランカ政府は、拘束中の人びとの多くはリハビリのために自主的に投降してきたと言い張っている。しかし、人道援助機関などの中立な第三者による被拘禁者への面会が認められないため、降伏して拘束された人の数もわからないし、そのうち自主的に投降したグループの数や逮捕者の人数なども、知ることは困難である。

手続の透明性や被拘束者の消息や所在についての情報が欠如しており、一部の被拘禁者に拷問などの虐待が行なわれている懸念がある。また、一部については、強制失踪させられている懸念もある。ヒューマン・ライツ・ウォッチが2008年に作成したレポート「悪夢の再来:「失踪」と拉致に関するスリランカ政府の国家責任についての報告」(日本語の概要はこちら)で調査報告したとおり、強制失踪はスリランカで長く続く問題であり、数千から数万の人びとが今も尚行方不明のままである。

この懸念が現実のものとなっている。ジェガナサン(Jeganathan :32歳)は、妻のアーナシ(Aanashi)と1歳の息子と一緒に、政府支配地域に避難。その後の2009年5月15日、ジェガナサンはスリランカ政府軍に拘束された。アーナシは収容所に拘束され続けていると軍は主張するものの、妻のアーナシに、夫からの音沙汰は何週間もなかった。アーナシはヒューマン・ライツ・ウォッチに「希望はまったくなくなった。夫には2度と会えないだろう、って思った」と語った。

その後、ジェガナサンがあるリハビリセンターに収容されているのを、アーナシの親族がやっとのことで突き止め、アーナシは時々夫に面会できるようになった。拘束されて数ヵ月たっても、スリランカ政府は、ジェガナサンに、リハビリセンターに拘束される期間を告知しなかった。彼は、弁護士との接見も許されなかったし、裁判所で自分の拘束を争うことも許されなかった。アーナシが最後に夫に面会しに行った際、夫は、まだ当局の尋問が続いていること、他の「投降者」の一部に当局が暴行を加え始めたことなどを、彼女に伝えたという。

スリランカ政府は、諸外国政府に、「リハビリセンター」に対する資金援助を要請してきた。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、被拘禁者の人権が完全に尊重されない限り、諸外国政府は当該センターを支援してはならない、と述べた。

「適正手続の保証がないところで、こうしたセンターに支援しても、政府の違法な拘禁政策への支援となってしまう」と前出のアダムズは語った。「諸外国政府は、こうした事態ときっぱり手を切るべきだ。」

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