May 26, 2009

ビルマにおけるロヒンギャに対する国籍の権利の否定

アラカン州西部は他の地域から孤立し、開発から取り残されている。このため、出生が登録されているロヒンギャも、国籍を証明する書類を持っているロヒンギャもほとんどいない。この状況は現在も変わっていない。ロヒンギャがビルマ国籍を保持していない状況は現在も変わらない。ロヒンギャは公式には外国人で、非合法な集団とされる。また政府が認める 135の「先住民族」には含まれていないため、大半の人々には国民登録証を持つ権利がない。こうした扱いを受ける一方で、ビルマから逃れ、送還されたロヒンギャは、不法出国を理由に投獄されることが多い。ビルマには厳格な家族管理制度があり、個人の動向を記録しているが、調査時に家を空けていれば、このファミリーリストから名前が削除されてしまい、法外な罰金を科せられて投獄されることも多い。

このようにロヒンギャが法的地位を欠いていることは、治安部隊による人権侵害行為の実態を覆い隠す役目を果たしている。治安部隊たちは、ロヒンギャに対して、特にビルマ西部でたびたび人権侵害を行なってきたが、ロヒンギャの法的地位の欠如を理由に、責任を問われずに不処罰のままに放置されている。同地域では治安部隊が地元住民に対する宣撫工作にかかわっている。

ビルマ軍政は、タイ、インドおよびインドネシア沿岸にロヒンギャが漂着した最近の一連の事件について、公式見解を出さなかった。しかし最終的には、ロヒンギャはビルマ国民でないので、この出来事はビルマとは関係がないとの発表を行い、今回の悲惨な出来事はバングラデシュ人だけにかかわるものだという虚偽の印象を与えている。また 2月の ASEAN 首脳会談でビルマ軍政は、ビルマで生まれたと証明できる「ベンガル人」なら誰でも受け入れると述べた [22] 。ビルマ国籍を証明するために必要な書類をロヒンギャに発給していないのは、他でもないビルマ政府であることを考えれば、こうした見解は不誠実なものだ [23]

ロヒンギャに対する差別は、ビルマ国民全体に受け入れられているとはいわないものの、ビルマに深く根ざしている [24] 。ロヒンギャの法的地位を認めないビルマ軍政の姿勢は、アラカン民族やそれ以外の民族の間から、また反政府勢力や国外の亡命組織の一部から根強く公然と支持されている。多民族間の亡命団体の運動や会合から多くのロヒンギャ団体が排除されている [25] 。アラカン人仏教徒は何世紀にもわたってロヒンギャの隣人だったが、彼らの中にはロヒンギャの存在自体を認めず、ビルマに居住するベンガル人だと主張する人々もいる。

ロヒンギャが長期にわたって置かれている法的な無権利状態と、ロヒンギャには社会の完全な成員としての資格を与えるべきではないとする見方は、あからさまな人種主義と結合することもある。ビルマでは、南アジア系の人々を指す「カラー」(外国人の意)という侮蔑的な表現があるが、ロヒンギャはこれよりもさらに見下された扱いを受けることが多い。この事実がはっきりと見て取れる最近の事例は、 20092月に、イエミンアウン在香港ビルマ総領事が他国の領事たちに宛てた書簡の内容だ。

〔......〕実際、ロヒンギャは「ミャンマー国民」でもなく、ミャンマーに住む民族集団でもないのです。写真をご覧になれば、彼らの皮膚の色が「薄黒い」のがお分かりかと存じます。ミャンマー人の皮膚の色は白く透き通っていて、見た目にも美しいのです。〔......〕彼らは鬼のように醜いのです[26]

ロヒンギャを外国人とするビルマ政府の見解は、ロヒンギャは非国民で、ビルマの国家安全保障の重大な脅威だという根拠薄弱な主張という形を取ることもある。当局者はこうした恐怖感をたびたび煽るが、実際の歴史では事情はまったく別だ。ビルマ独立以来、ロヒンギャの大半は平穏な生活を送っており、他のビルマ国民と同等の権利を享受してきた。武装闘争を行った人々も確かにいたが、ビルマの国家としての一体性を深刻に脅かす存在になったことは一度もない。アラカン州では 1950年代にムジャヒディン蜂起が短期間発生したが、ロヒンギャからの広い支持を得ることなく失敗に終わった。ロヒンギャによる現在の武装抵抗は、政治組織間や武装抵抗組織間で分裂があり、細かい論争が続いているために、小規模にとどまり、軍事的脅威になっていない。テロリストになるために中東に渡ったとされる少数のロヒンギャ男性はいるものの、いわゆるイスラム急進主義的な陰謀を携えて帰国したわけではないことははっきりしている。ビルマではムスリムが関与したテロ事件は一度も起きていない[27]

1990年代初頭以降、ビルマ西部では劇的な勢いで軍事化が進行している。陸軍の大隊の数は3大隊から43大隊に増強されており、国内で最も高い伸びを見せている[28]。国軍は、部隊の駐留を維持するために現地住民を働かせ、食糧を盗み、土地を占有しているほか、非戦闘員に駐屯地建設や道路掘削、物資運搬を強要している。

軍事的プレゼンスが増大する背景には、大規模なインフラ整備事業を警備する必要性が存在している。 200812月、中国の国営エネルギー企業 中国石油天然気集団公司(ペトロチャイナ)は、ビルマ政府と、アラカン州西部の沖合にあるシュエガス田からの天然ガス購入のための 30年のリース契約を結んだ。この共同事業体にはインド、タイ、韓国、中国、ビルマの企業が参加している。天然ガスはこのパイプラインでビルマから中国雲南省に輸送され、平行するもう一つのパイプラインでは中東産原油が輸送されることになっている。ロヒンギャ住民の大半は、このルートの北西に住んでいるものの、駐屯する兵士の数が増加することで、元々悲惨な暮らしがさらに悪化している[29]

[22]Thanida Tansubhapol and Anucha Charoenpo, “Burma: We’ll take Bengali’s, not Rohingya,” Bangkok Post, February 28, 2009.

[23] When the SPDC benefits from treating Rohingya like citizens, it does. The Rohingya were granted the right to vote during the May 2008 constitutional referendum in Burma, with many granted temporary cards to allow them to cast a ballot. The SPDC claimed to have won 92 percent voter support our of a 98 percent voter turnout throughout Burma. This was yet another irregularity in a sham system of political reforms conducted by the military government. There are also plans to permit the Rohingya to vote in the 2010 multiparty elections, although there has been official word on whether the right to vote will also entail a right to citizenship.

[24]“Plain Speaking,” The Irrawaddy, vol.17, no.2, March-April 2009, pp.26-27.

[25]Human Rights Watch interview with Rohingya asylum seeker, Tokyo, July 6, 2007.

[26]Letter from Ye Myint Aung, Consul General of Myanmar in Hong Kong, to heads of Mission, Consul Corps, Hong Kong and Macau SAR, February 9, 2009, copy on file with Human Rights Watch.

[27] As the Australian security analyst Andrew Selth has pointed out, Muslims in Burma are more likely to be terrorized by the Burmese military than to be terrorists. Andrew Selth, Burma’s Muslims. Terrorists or Terrorized? Canberra, Australian National University, Strategic and Defence Studies Center, Canberra Papers on Strategy and Defence no.150, 2003.

[28]Network for Democracy and Development, “Civil and Military Administrative Echelon of State Peace and Development Council in Burma,” Mae Sot, Documentation and Research Department, NDD, May 2007.

[29]Hannah Beech, “The New Great Game,” Time Magazine, March 30, 2009, pp.28-31.