Skip to main content

(私の視点)在留外国人の泣き寝入り 今こそ人種差別禁止法を

 米国から世界に広がった「ブラック・ライブズ・マター(BLM、黒人の命も大切だ)」のうねりは、日本社会でも知られるようになったが、その意義にぴんときていない人が多いように思う。日本社会に人種差別がないからではない。むしろ差別は深刻なのにもかかわらず、被害者が泣き寝入りしている現実があるからだ。

 データも、差別の深刻さを物語っている。2017年に法務省が発表した調査では、外国人であることを理由に就職を断られた経験がある人は在留外国人の25%、入居を拒否された人は約40%にのぼる。差別は日常的に起きているのである。

 一方で、差別をどこかに相談した人は約10%にとどまっている。もし差別の経験を「聞かない」のだとしたら、差別が「ない」からではなく、被害者が泣き寝入りを強いられて、声を上げられていないからだ。

 コロナ禍で、こうした現実は悪化している。外国人支援団体には、解雇や派遣切り、休業などに追い込まれ、「所持金が2千円」「『仕事がない』と会社に言われ、川で魚をとって何とか生活している」などの悲痛な声が寄せられている。日本語の情報が理解できないため、支援にアクセスできない外国人も多い。

 16年に施行された「ヘイトスピーチ解消法」は外国人を含めた日本社会に生きるマイノリティーにとって欠かせない法律だ。だが、これで十分とはいえない。

 コロナ禍以前には、日本政府は慢性的な人手不足の解決策の一つとして、外国人労働者のための新しい在留資格をつくった。コロナの感染拡大で雇用が縮小している今こそ派遣切りが横行しているが、感染が収束すればふたたび海外からの働き手を積極的に迎える状況に戻る。日本に来る外国人を自国の都合で振り回さないためにも、必要最低限の枠組みとして、ほかの多くの先進国で導入されている包括的な「人種差別禁止法」の制定を急ぐべきだ。

 日本も批准している人種差別撤廃条約は、人種差別とは人種だけでなく皮膚の色や民族による差別も含むと定める。この機会に来日外国人はもちろん、日本で生まれ育った在日コリアンら外国ルーツの人びとへの差別の禁止を明文化するのである。

 政府がこうしたルールを定める効果について、私たちはすでに知っている。男女雇用機会均等法が成立して数十年で、採用や解雇、セクハラなどの分野で社会は大きく変わった。むろん真の男女平等とはほど遠いが、この法律がなかったとしたらと考えてほしい。人種差別禁止法についても、近い未来にそう思えるように今すぐ議論を始めるべきだ。

 (どいかなえ 国際NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ日本代表)

朝日新聞社に無断で転載することを禁じる(承諾番号:20-3637)

Your tax deductible gift can help stop human rights violations and save lives around the world.