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アパレルブランド、コロナ世界的流行の中 アジアの労働者を見捨てる

企業による発注キャンセル、雇用喪失と賃金未払いに拍車

Garment factory workers wear face masks as they end their work shift, near Phnom Penh, Cambodia, March 20, 2020. (c) 2020 AP Photo/Heng Sinith

(ロンドン)- COVID-19(新型コロナウイルス)対応でのアパレルブランドの行動により、アジアの縫製労働者数百万人の経済的苦境は深刻化していると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。数多くのアパレルブランドや小売業者が、労働者が製品を仕上げた後ですら、金銭的補償なしで注文をキャンセルしているのだ。

こうしたブランドの行動は、解雇やレイオフによって労働者の雇用損失を増大させるもので、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」や経済協力開発機構(OECD)の「衣料・履物セクターにおける責任あるサプライチェーンのためのOECDデュー・ディリジェンス・ガイダンス」が示すブランドが負う人権上の責任に反するものだ。アジアの多くのサプライヤー工場は、こうしたブランドの行動により、資金繰りに窮し、労働者に対して賃金やその他の補償金を支払うことができない状態だ。

「今はきわめて難しい状況だ。しかし、新型コロナウイルス危機を乗り切るため、ビジネス上の厳しい決断を迫られている衣料品ブランドは、自社ブランド製品を製造する工場の労働者を見捨てるべきではない」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチ女性の権利局の上級顧問アルナ・カシャップは指摘する。「ブランドは、自社のグローバル・サプライチェーンで働く縫製労働者と、その収入を頼りに生活する家族が被る、壊滅的な経済的被害を最小化するための対応をとるべきだ。」

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、ブランド側の代表者を含む、11の製造業者や業界専門家にインタビューを行い、新型コロナウイルス危機がバングラデシュ、ミャンマー、カンボジアなどアジア諸国の工場にもたらす影響を調べた。また、ブランドの代表者が自社のグローバル・サプライヤーに送った電子メールの検討、労働者権利団体へのインタビューを行った。

新型コロナウイルスの世界的流行(パンデミック)により、衣料品ブランドと小売業者の売り上げは急落した。多くのブランドは、ウイルス拡散防止のため小売店を閉鎖した。この危機を乗り切ろうとするなかで、一部のブランドや小売業者は、不当な行動に出ている。ヒューマン・ライツ・ウォッチが2019年4月の報告書「バス代で飛ぶことを期待」で明らかにしたこうした行動、労働者の人権侵害を深刻化させている。

2020年3月、各国の製造業者らはヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、発注時にビジネスリスクを想定しているブランドはまれだと指摘した。カンボジアの縫製工場の元マネージャーは、自分の経験によれば、ブランドはあらゆる支払期間と条件を一方的に課し、交渉の余地はないのがふつうだと述べた。大手ブランドや小売業者は前払いをせず、商品が出荷されてからの支払い期限も長かったという。

対照的に、この工場は、中小ブランドとは交渉を通じてよりよい条件で取引を行っていた。原材料購入時に発注価格の最大 3割が支払われ、納品または発注完了後 7日から 10 日以内に残金が清算されていた。

前払いが行われ、支払いまでの期間が短ければ、サプライヤーは良好なキャッシュフローを維持でき、賃金を期限通りに支払う能力にも好影響が生じる。しかし、大多数のブランドや小売業者はそのような支払い条件を提示していない。2018年後半に発表された「Better Buying Purchasing Practices Index Report」によると、調査に参加したサプライヤーの73%が、取引先のブランドや小売業者から前払いを受けていないか、有利な支払い条件を提示されていないと回答している。

新型コロナウイルス危機のなかで、多くのグローバルブランドや小売業者は、サプライヤーに「フレキシビリティ」と「理解」を求め、以下のような要求を行っている。

  • 労働者がすでに生産した商品の注文のキャンセル
  • 労働者が生産中の商品の注文をキャンセル
  • 1月にさかのぼり、出荷済み商品の値引きを要求
  • すでに発注済み、または発注中の場合であっても、支払い義務を認めず、支払い時期を明示しない

世界労働者権利センター(CGWR)と労働者の権利コンソーシアム(WRC)が3月27日に公表した、バングラデシュにおける新型コロナウイルス危機の影響にかんする調査では、バングラデシュのサプライヤー316社から回答を得た。サプライヤーからは、95%以上のブランドや小売業者が、一時休業させた労働者の賃金の一部や、解雇した労働者への支払負担を拒否したとの声が上がった。

上述した国連指導原則は、OECDの衣料品に関するデュー・ディリジェンス・ガイダンスとともに、ブランドに対し、自社サプライチェーンにおける人権問題の直接の原因、またはその一因となりうるリスクを特定し、軽減するために、人権デュー・デリジェンスを実施すべきと定める。これには、実際のまたは潜在的な人権への影響を「考量評価」すること、「その結論を取り入れ実行すること」、「それに対する反応を追跡検証すること」、またどのようにこの影響に対処するかについて、外部に積極的に「知らせること」が含まれている。

これまでのところ、H&Mグループ、インディテックス(Zaraなど)、Target USAは、正しい措置をとっている。これらの企業は、すでに生産されている、または生産中の商品の引き取りを行い、事前の合意通りに代金を支払うことを約束している。

賃金やその他の補償金の支払いを含む、労働者の公正な待遇を確保し、雇用損失を最小限に抑えるために、より多くのブランドが同様の措置をとるべきだ、とヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘した。約200の機関投資家が企業に対し、サプライヤーとの関係を可能な限り維持し、速やかにサプライヤーへの支払いを行うよう促している

一部のグローバルブランドは、サプライチェーンを活用し、医療用の手袋やマスクなどの個人用保護具の生産を行っている。ブランドと政府は、必要不可欠な医療用具を生産する労働者が、適切な個人用保護具を装着し、世界保健機関(WHO)が発行した労働安全衛生ガイダンスに則って作業できるよう、引き続き支援すべきである。

しかし、個人用保護具を生産しても、すべての労働者を対象とするだけの代替雇用を生み出すことはできないだろう。バングラデシュでは、100 万人の労働者がすでにレイオフや一時的な雇い止めに遭ったと見られるが、大半は、現地の法律が定める賃金やその他の支払いを受けていない。ミャンマーではすでに2万人の労働者が失業しており、ある業界専門家の推計によると、1週間以内に7万人もの縫製労働者が失業しかねない。カンボジアでは、20 万人の縫製労働者が失業するとの試算もある。

これらの政府には、欧米政府が発表したような経済救済策を提供するだけの資金力はない。ドナーや国際金融機関は、労働者の経済的・社会的苦境を直ちに緩和するための計画の策定と実行に焦点を当てるとともに、労働者に社会的保護を提供するための長期策を講じるべきであると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘した。

「グローバルな衣料品ブランド、ドナー、国際金融機関は力を合わせ、労働者権利団体とも協力し、新型コロナ危機にさらされる低所得労働者への支援策を緊急実施すべきだ」と前出のカシャップ上級顧問は述べた。「しかし、長期的な対策も必要だ。この世界的流行は、労働者に対する社会的保護制度、そして自社サプライチェーンにおけるブランドの不当な行動を抑制するための効果的な強制力ある規制の両方の必要性を示している」

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