外務大臣 河野太郎殿

貴殿の9月11日~13日のベトナム訪問と9月13日のファム・ビン・ミン副首相兼外務大臣との会談におきまして、同国の深刻な人権問題を提起していただきたく、本書簡を送らせていただきます。とくに政治囚の問題に公に取り上げていただくこと、また日・ベトナム関係の強化には、人権問題の改善が必要との日本のお立場をベトナム政府に強くお示しいただきたく存じます。

ご承知のとおり、ベトナム政府はきわめて深刻な人権問題を行っています。表現、結社、集会、信教など基本的な自由は制限されています。国内メディアはすべて国の所有・管理下にあり、インターネットは検閲されています。ベトナム共産党はすべての公的機関の高官の地位を独占し、権力維持に用いています。ベトナム共産党は1954年の政権獲得以来、自由で公正な選挙の実施を一度も許していません。また、同国では、真の民主主義のプロセス自体が存在しません。つまり、国会の議席は共産党が指名する同党党員がほぼ独占し、裁判所や各省庁は共産党の統制下にあり、独立した労働組合は許されず、社会団体、宗教団体、市民社会グループも厳しく規制されているのです。

ベトナムにとって最大の二国間援助ドナーであり、重要な輸出先でもある日本は、同国のきわめて深刻な人権状況の改善に向けてベトナム政府に働きかけられる特殊な立場におられます。

今回の貴殿のベトナム訪問において取り上げられるべき人権問題は、言論・結社の自由の制限、宗教実践と信仰の制限、政治囚の投獄、労働権の侵害など多岐にわたります。詳しくは本書簡添付の付録をご覧ください。

改めまして、ファム・ビン・ミン副首相兼外務大臣との会談で人権問題を取り上げ、ベトナム政府に人権尊重型改革への着手を促していただきたく強く要請いたします。ベトナムでは多くの活動家が、自ら大きなリスクを引き受けて国際人権基準の実現を求めています。そして活動家らは、日本政府が国際基準を示してくれるよう、期待をして見守っております。勇敢な活動家、そして、ベトナム社会全体が、基本的自由を求めて闘っています。日本政府はその味方であるとご表明いただくよう求めます。

あわせて、貴殿から、ベトナムでの人権問題が改善されない場合、日本政府はベトナムに対する経済支援、および同国との経済、軍事、安保上の関係の見直しを開始する旨、明確かつ公の形で伝えていただくことをお願い致します。

ご検討に御礼申し上げますと共に、今後もこれらの問題について貴省の皆様との意見交換の機会を頂けましたら幸いです。どうぞ宜しくお願い申し上げます。

付録:深刻な人権状況について

政治囚

ベトナムの刑務所には現在130人の政治囚が収監されています。ベトナム政府は多くの場合、民主主義と人権を訴える人びとを犯罪者扱いし、国家安全上の脅威とみなします。2018年1月から8月までのあいだだけでも、少なくとも28人の人権活動家とブロガーが訴追され、長期刑を宣告されました。著名ブロガーのチャン・フイン・ヅウィ・ドウック(Tran Huynh Duy Thuc)氏は、民主主義と複数政党制を非暴力により訴えたとして16年の刑に服していますが、2018年8月14日からは自分自身への人権侵害に抗議して、刑務所内でハンガーストライキを行っています。

今回のベトナム訪問にあたり、貴殿が公の場で政治囚の問題を取り上げ、全員の即時無条件釈放を求めていただくようお願いいたします。また、個々の政治囚の釈放は歓迎すべきステップではありますが、あわせて、釈放だけでは改革とは言えないことも明確にしていただくことを期待しております。

活動家と反体制派への暴行や嫌がらせ

反体制派や人権活動家が、制服警官や私服の政府関係者とみられる人物から嫌がらせを受けたり、暴力を振るわれる事例が増えています。こうした事態にも懸念を表明いただきたく存じます。ヒューマン・ライツ・ウォッチは2017年6月、制服を着ていない人物による活動家の暴行事件36件(2015年1月から2017年4月の間)を詳述する報告書を発表しました。この多くの事件で被害者は重傷を負いました。暴漢による人権活動家の襲撃事件も多くの地域で起きています。制服警官の目の前で起きた事件に対し、警察官が一切介入しないこともありました。

ラムドン省では6月、制服を着ていない人物がカオダイ教の活動家であるフア・フィー(Hua Phi)氏の自宅に押し入り、暴行を加え、あごひげを剃り落としました。6月~7月にかけて、同じくラムドン省では、正体不明の男たちが、労働運動家で元政治囚のドー・ティー・ミン・ハン(Do Thi Minh Hanh)氏の自宅に岩や手製の発火装置を投げ込みました。8月、治安部隊の隊員はホーチミン市で開かれたコンサート会場を襲撃し、ブロガーのファム・ドアン・チャン(Pham Doan Trang)氏、歌手のグエン・ティン(Nguyen Tin)氏、権利活動家のグエン・ダン・カオ・ダイ(Nguyen Dang Cao Dai)氏に無慈悲な暴行を加えました。8月、カインホア省の警察は活動家のNgo Thanh Tu氏を拘束して繰り返し暴行しました。9月、制服を着ていない男たちがホーチミン市で、オートバイで職場から帰宅中の活動家のホアン・コン・トゥアン(Huynh Cong Thuan)氏を襲撃しています。

地方警察は活動家を自宅軟禁や短期間拘束し、抗議活動や人権問題議論への参加、活動家仲間の裁判の傍聴を妨害しています。政府が反体制派や人権活動家の出国を禁じるケースも増えています。最近では2018年5月、警察が人権活動家のディン・フー・トアイ(Dinh Huu Thoai)神父に対し、米国への個人的な旅行を認めない事件がありました。8月には、警察が元政治囚のレ・コン・ディン(Le Cong Dinh)氏に対し、理由を明らかにすることなく旅券発給を拒否しています。

司法の改革

ファム・ビン・ミン副首相兼外務大臣との会談にあたり、表現、集会および結社の自由のための司法改革の必要性について強く言及していただきたく存じます。

ベトナムはきわめて抑圧的な法制度を有しています。政府批判が刑事犯罪とされるほか、宗教団体、労働組合、非政府組織(NGO)、報道機関の活動を制限するさまざまな法律が存在しています。

こうした問題がある法律に対する日本側の重大な懸念を表明するとともに、問題の規定について名指ししていただきたく存じます。例えば、「人民の行政の転覆を目的とする行為の実行」や「国民団結政策の毀損」、「ベトナム社会主義共和国に反対するプロパガンダの実施」、「治安の妨害」を犯罪化する刑法の規定です。

与党・共産党の実質的な統制下にあるベトナム議会では2017年6月、刑法改正案が成立し、治安関連などの禁止行為の実行準備行為が犯罪化され、5年以下の刑となりました。つまり、喫茶店で友人と社会問題を論じたり、政府について批判的な見解を述べたりするだけで、反政府プロパガンダの実行準備行為として訴追される可能性があるのです。また、人権教育に参加しているだけの人物も「人民の行政の転覆を目的とする行為の実行」を準備しているとして訴追されかねません。

改正刑法では、今挙げた曖昧な規定の政治犯罪を含む多数の犯罪について、依頼人を当局に通報しない弁護士が罪に問われうることも定められました。これは政府を批判する人びとが弁護士を選任する権利を侵害するものです。このほか、「自由と民主主義への権利の濫用による、国益および個人と団体の合法的な権利と利益の侵害」、「公共秩序の妨害」、「公務にあたる公務員への抵抗」などの行為を犯罪化する条項も、基本的な市民的・政治的自由の行使を抑圧するために用いられています。

あわせて刑事訴訟法にも懸念を表明していただきたく存じます。とくに国家安全関連容疑に問われた者について、 外部交通を遮断した過度の起訴前拘禁が認められる条項が問題です。

2018年6月、ベトナム議会は国内外においてきわめて問題のあるサイバーセキュリティ法を成立させました。国の内外で大きな批判を呼ぶこの法律は2019年1月1日に施行予定で、インターネット・サービスプロバイダに対し、情報通信省または公安省からの要請を受けてから24時間以内に不快なコンテンツを削除することを求めるものです。インターネット企業はデータをローカルに保存し、ユーザー情報を「検証」し、裁判所命令がなくともユーザーデータを当局に開示する義務を負います。こうしたすべての規定はプライバシー権を脅かすものであり、オンラインでの表現や反体制運動、政治活動へのさらなる弾圧に拍車をかけることにもなりかねないものです。

ファム・ビン・ミン副首相兼外務大臣に対し、同法の有害な影響について深刻な懸念を表明していただくとともに、ベトナム政府に対し、同法については国際人権基準に完全準拠させるような法改正がなされるまで、施行を延期するよう求めていただきたく存じます。

労働権

ベトナムでは独立した政党、労働組合、人権団体の設立や活動が禁じられています。集会には当局の承認が必要であり、政治的に看過できないと見なされれば、会合やデモ行進、集会が許可されません。すべての労働組合は法により、共産党の直接の統制下にあるベトナム労働総同盟(VGCL)に加盟し、その下で活動しなければなりません。

独立した組合の構成員は嫌がらせや脅迫、さらには報復を受けることがあります。独立労働運動家のチュオン・ミン・ドウック(Truong Minh Duc)氏には2018年4月に12年の刑、また同じく労働運動家のホアン・ドウック・ビン(Hoang Duc Binh)氏には同2月に14年の刑が宣告されています。

ベトナム政府に対し、こうした労働法規定を改正・廃止することは、外交的・政治的問題であり、結社の自由と関連する権利を認め、またベトナム労働法をILO第87号および98号条約に完全に準拠させるべく、直ちに行動すべきであるという立場を示していただきたく存じます。

宗教と信仰の実践への制限

ベトナム政府は、政府統制の枠組みの外で活動する宗教団体について監視し、嫌がらせを行い、時に暴力的な弾圧を加えています。カオダイ教の非公認支部、ホア・ハオ(Hoa Hao)仏教教会、独立系のプロテスタントとカトリックの家庭教会、クーメル・クロム(Khmer Krom)仏教寺院、ベトナム統一仏教教会(Unified Buddhist Church of Vietnam)は恒常的な監視と嫌がらせ、脅迫にさらされています。独立した宗教団体の信者らは公的な批判、強制棄教、身柄拘束、尋問、拷問、投獄の対象となっています。少なくとも10人のホア・ハオ仏教教会の活動家が、2018年1月から2月の間に長期刑を宣告されています。7月に当局は、宗教の自由を訴えたとして牧師のディン・ジエム(Dinh Diem)師を訴追し、16年の刑を下しました。

ファム・ビン・ミン副首相兼外務大臣との会談にあたり、ベトナム側に対し、すべての独立した宗教団体に自由な宗教活動と自主運営を認めるよう求めていただきたく存じます。