Five plaintiffs who filed a lawsuit against North Korea for the “Paradise on Earth” campaign hold a banner, accompanied by their supporters, in Tokyo, August 19, 2018.

© 2018 Kanae Doi/Human Rights Watch

(東京)― 日本政府は、北朝鮮政府に対し、北朝鮮に騙されて日本を出国した在日コリアンとその親族について日本への帰国を直ちに認めるよう、公的な場で強く求めるべきだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。安倍晋三首相は、金正恩・朝鮮労働党委員長との首脳会談が開催されれば、これを要求すべきである。

在日コリアン向けに北朝鮮を「地上の楽園」とうたい、嘘の約束で北朝鮮に渡航させた北朝鮮帰国事業の被害者5人は2018年8月19日、北朝鮮政府に損害賠償を求める訴えを起こした。東京地方裁判所で開かれた記者会見で、原告5人と代理人は、北朝鮮が帰国事業被害者とその親族に出国を認めるべきだと述べた。

「帰国事業の被害者たちは『地上の楽園』というプロパガンダを信じたが、実際に北朝鮮で目にしたのは地獄のような光景だった」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチ日本代表の土井香苗は述べた。「日本政府はこの歴史的過ちに当事者だった事実を直視し、被害者が今なお苦しむ現実を認めた上で、被害者の要求を支持して状況を正すべきである。」

1959年~1984年まで、在日コリアンと日本人約93,000人が、帰国事業で北朝鮮に渡った。北朝鮮政府は、在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)を主たる窓口として、北朝鮮は「地上の楽園」であり、「衣食住など生活に必要なものはすべて保証される」などと宣伝した。

北朝鮮政府と日本政府はこの事業を政権の最高レベルで(日本は閣議決定により)支持した。しかし日朝両国間に外交関係がなく、事業を主に進めたのは朝鮮総連だ。これを日朝の赤十字社が実施し、赤十字国際委員会が支援した。

今回の裁判で、原告側は北朝鮮政府に対し、在日コリアンを虚偽の宣伝で勧誘したと損害賠償を求めた。そして北朝鮮政府は、在日コリアン移住による労働力補充、とくに技術などの導入を目的としたと指摘した。被害者たちは、その多くが北朝鮮に入港した時点で、北朝鮮側の約束が嘘だと知ったが、当局は日本への帰国を決して認めなかったのである。

帰国事業の被害者は、北朝鮮に入るやいなや、政府から自分たちの生活を微に入り細に入り管理された。何を考えてよいか、何を言ってよいか、そしてどこに住み、勉強し、働くかといったことまで指示された。当局により食糧は配給され、日本にいる家族との連絡を検閲・妨害し、隣人の同行をスパイ、密告するよう強いた。北朝鮮政府から忠誠心を疑われれば、強制労働キャンプや政治犯強制収容所送りとなり、強制失踪や時には死がもたらされた。

今回提訴した原告5人は、1960年~1972年に日本を出国した帰国事業被害者で、2001年~2003年に脱北している。ヒューマン・ライツ・ウォッチは2018年に5人からそれぞれ話を聞いた。

  • 川崎栄子さん(76)… 17歳で一人で日本を出国。2003年に脱北した。
  • 榊原洋子さん(68)… 11歳のとき、北朝鮮に渡れば暮らし向きが良くなると信じた両親に連れられ、日本を出国した。
  • 高政美さん(57)… 1963年、2歳のときに家族と日本を出国。兄は北朝鮮の現実にショックを受けて下船を拒否し、日本に戻すよう訴えた。兄は直後に北朝鮮当局に拘束され「精神病患者」用の施設に送られ、1971年頃に収容下で亡くなった。高さんは2003年に脱北した。
  • 石川学さん(60)… 中学生だった1972年に長兄と姉と出国。姉は北朝鮮到着直後から精神に異常をきたし、1991年に施設で亡くなった。石川さんは2001年に脱北した。
  • 齋藤博子さん(77)… 日本人妻として、在日コリアンの夫、1歳の長女と1961年に日本を出国。長女は北朝鮮の収容施設で死亡。齋藤さんは2001年に脱北した。

今回の訴訟は、日本在住者が北朝鮮政府を相手取った初めての訴訟だ。主権免除の原則に挑み、北朝鮮政府の責任を直接問う点で、オットー・ワームビアさんの両親が起こした訴訟と似ている。米国人の大学生で北朝鮮に拘束されたワームビアさんは、脳に激しい損傷を受けた状態で釈放された後、ほどなくして死亡した。

脱北した帰国事業被害者には、現在も北朝鮮にいる親族への報復を恐れて名乗り出ない人も多いが、法による裁きを求めて活動を続ける人びともいる。高政美さんは2008年にも朝鮮総連を相手に裁判を起こしたが、時効を理由に訴えは退けられた。

2015年1月、今回の原告5人を含む12人は日本弁護士連合会(日弁連)に対し、人権救済の申立を行い、帰国事業の責任を審査するよう求めた。そして帰国事業の被害者全員が北朝鮮出国を認められるべきだとした上で、日弁連に対し、日朝両政府、朝鮮総連、日朝赤十字社、赤十字国際委員会に被害者の帰国実現に向けて動くよう警告するよう求めた。日弁連はこの申立てを調査するパネルを立ち上げており、現在も活動が続いている。

2018年2月、川崎栄子さんは国際刑事裁判所に申し入れを行った。帰国事業が人道に対する罪に該当するとし、検察官による捜査開始を求めたのだ。今回の原告5人はヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、苦しみ続けているが、声を上げることのできない在北朝鮮の被害者たちのために、正義を求めて立ち上がる決意だと繰り返し述べた。

2014年に提出された、北朝鮮における人権に関する国連調査委員会最終報告書は、人道に対する罪が、政治犯収容所などの収容施設に拘束されている人びと、北朝鮮から逃れようとした人びと、キリスト教徒、反体制的な影響をもたらしたと非難される人びとらに行われていることを明らかにした。さらに調査委員会は、次のように認定している。「1959年からは、93,000人以上の人々が偽りの約束につられ日本から朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)に移住した(…)。多くの者は北朝鮮国内の政治犯収容所やその他の拘留施設に入れられた。その中には朝鮮民主主義人民共和国を離れる権利を明確に保証されていた数千人の邦人が含まれていた。」

「安倍首相は、帰国事業被害者である今回の原告5人と面会し、刺激を受けて、原告に正義の実現に向けた粘り強い活動を行うべきだ」と、前出の土井・日本代表は述べた。「安倍首相は、金正恩・朝鮮労働党委員長と今後首脳会談する場合には、帰国事業問題を取り上げ、北朝鮮に残る人びととその家族の日本への帰国を求めるべきである。」