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バングラデシュ:洪水や土砂崩れに苦しむロヒンギャの人びと

将来のミャンマー帰還を待つためにより安全な難民キャンプが必要だ

A Rohingya refugee camp in Cox's Bazar, Bangladesh, September 19, 2017. Said Reuters photographer Cathal McNaughton: “It was important to show the scale of the situation. To show the terrain, the earth where the Rohingya had to live. I waited for the element that would bring all this image together. The person in the bottom left of the frame holds the umbrella in the monsoon rains in an attempt to bring some respite from their situation.” © 2017 Reuters/Cathal McNaughton

(バンコク)- バングラデシュ政府は、同国のコックスバザール県に設置された巨大難民キャンプに、過酷な過密状態で暮らすロヒンギャ・ムスリム難民を、より安全な土地に移転させるべきだ、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表の報告書内で述べた。2017年8月に始まったミャンマー軍の民族浄化運動を逃れた難民たちが、今度は洪水や土砂崩れに苦しんでいいはずがない。長期の滞在を見据え、頑丈なつくりのシェルターと十分な教育機会が求められている。

報告書「『バングラデシュは私の祖国ではない』:ミャンマーのロヒンギャ・ムスリム難民の窮状」(全68ページ)は、2018年5月にヒューマン・ライツ・ウォッチが実施したコックスバザール県における現地調査に基づいている。本調査で、当該の巨大難民キャンプが過酷な過密状態にあることがわかった。使用可能なスペースは1人当り平均1.07平米で、国際的に推奨される基準の4.5平米を大きく下回る。詰め込まれた状態で、難民は伝染病や火災、コミュニティ間の緊張、家庭内暴力および性暴力の高いリスクに直面。バングラデシュ当局は、現在巨大キャンプが設置されているウキヤ(Ukhiya)付近のより平らでアクセスがしやすい土地に、小規模かつ密集していないキャンプを設置して、ロヒンギャ難民を再定住させるべきだ。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの難民担当ディレクターで、本報告書を執筆したビル・フレリックは、「バングラデシュは70万人ものロヒンギャ難民を受け入れ、国際社会の賞賛を受けた。が、依然として難しい状況に直面している」と指摘する。「バングラデシュは逃れてきたロヒンギャの人びとを難民として登録したうえで十分な保健医療と教育を確保し、キャンプ外での自立した暮らしを促すべきだ。」

同国への新しい到着者の多く、そしてミャンマーにおける過去の迫害を逃れた20万人が、今や世界最大となったクトゥパロン=バルカリ難民キャンプに暮らす。難民および援助関連機関による仮設小屋の補強、より安全なインフラの整備、安全対策の策定などが進められているが、キャンプとその住民は破壊的な気象現象を前にかなりぜい弱な状態のままである。
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Bill Frelick, director of the refugee rights program at Human Rights Watch, spent 10 days in May at the world's largest refugee camp in Cox's Bazar, Bangladesh. He detailed what he saw, the risks the Rohingya refugees face, and Bangladesh’s misguided plans to relocate refugees to a flood-prone island.

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バングラデシュ当局は、帰還に同意するようミャンマーに圧力をかけるためにも、難民キャンプは一時的な措置だと主張する。しかしながら、政府がサイクロンに耐えうる建物といった恒久的な建築物や、長期滞在を示唆するその他のインフラストラクチャーの建設を許可していないため、粗悪なキャンプ内の状態は悪化するばかりだ。かつ教育機会も十分ではない。

難民キャンプ内の急な斜面に建てられた仮設小屋に住んでいる4人の子どもの母親(26歳)は、「地滑りが恐ろしい」と語る。「小屋が丘の下に滑り落ちないよう、その横に土嚢を置き続けています。もっと安全な場所に移りたい。考えるのはそのことばかりですが、これまでそれについて話したり、提案してくれた人は誰もいません。」

環境的なリスクを最低限に抑え、社会サービス基準を十分に維持しつつ、密度の低いキャンプに多くを移動させることが、すべての難民の保健および福祉にとって重要だ。しかし、出身村や広い意味でのロヒンギャ難民コミュニティのつながりを損なわないためには、この過程で難民との相談・同意が欠かせない。

© 2018 Human Rights Watch

バングラデシュ海軍と中国の建設作業員がコックスバザール地域から難民を移住させるために、無人島ブハシャンチャール(Bhasan Char)の準備を進めている。ヒューマン・ライツ・ウォッチの書簡に対するバングラデシュ外務省の回答によると、難民の存在が「経済的、社会的、環境的な状況を広く一般に破壊している」ため、政府はすぐにでも10万人のロヒンギャ難民を無人島に移住させる計画を開始するという。島は満潮時や高波から守るための防波堤で囲まれる予定だ。しかし、この20年の間にバングラデシュを流れるメグナ川の泥土が溜まって形成されたマングローブと草の島は、難民の受け入れに適しているようにはみえない。専門家は、満潮時に強いサイクロンが通過すれば、島が完全に水没してしまう可能性を指摘している。

島での教育および医療保健サービスへのアクセスが非常に限られることは目に見えており、生計や自給自足の機会もほとんどないだろう。バングラデシュ政府は、島の出入りなどの移動の自由を難民に認めることを公約していない。環境上の問題に加え、島への移住は難民を不必要に孤立させ、かつ去ることの難しさから、島が最終的に隔離・拘禁センターへと変貌してしまう可能性を秘めている。

ブハシャンチャール島が唯一の再定住オプションというわけではない。専門家たちは、ウキヤ郡内に6つの移住可能な土地を指摘しており、広さは合わせて1300エーカー超、263,000人を受け入れることができるという。これらの場所はクトゥパロン=バルカリ難民キャンプのほぼ真西、沿岸に向かって8キロ圏内に点在している。

バングラデシュ外務省は、難民に基本的なニーズは提供する一方で、「ロヒンギャ問題の最終的な解決策は尊厳があり、安全かつ自発的かつ持続可能な[難民の]帰還にある」と述べた。同省は難民のためにすでに6000エーカーの森林を伐採しており、「自国民のための土地不足」がすでに問題となっているため、これ以上の土地利用は不可能であるとしている。唯一残された再定住の道はブハシャンチャール島のみというのだ。

援助国政府および政府間組織は、すべてのロヒンギャ難民の人道的なニーズを満たすため、バングラデシュを強固かつ真に支援しなければならない。ロヒンギャの人道危機に対する援助活動に拠出するだけでなく、ロヒンギャ難民の尊厳があり、かつ安全で持続可能な帰還に必要なすべての条件を満たすべく、協調的かつ持続的な圧力をミャンマーに対してかけ続けるべきだ。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの聞き取り調査に応えた難民たちは全員、ミャンマーへの帰還を望んでいた。が、それが自発的にできる状態になっていることが前提だという。具体的には、国籍取得やロヒンギャ・ムスリムとしてのアイデンティティの認知、行われた犯罪に対する法の裁き、住宅や財産の返還、安全の保証、平和、そして基本的権利の尊重などだ。

ブレリック難民担当ディレクターは、「ミャンマーの殺人・レイプ・放火キャンペーンがロヒンギャの人びとを国外脱出に駆り立ててからほぼ1年になる。難民の大量流入の負担はバングラデシュに重くのしかかっているが、この危機の責任はミャンマーにある」と述べる。「ロヒンギャの人びと対する近時の残虐行為や、あるいは数十年にもわたる差別と弾圧に、ミャンマーが何ら意味のある手を打たないでいることが、難民の帰還を遅らせる根本的な原因となっている。」

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