KIA officer visits his displaced family at their temporary shelter outside Laiza, Kachin State, January 29, 2012.

© 2012 James Robert Fuller

 

(バンコク)- ビルマ政府はカチン州北部での2011年6月以降の戦闘で、深刻な人権侵害を行うとともに、数万人の避難民に対する人道援助の供給を妨害している、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表した報告書でこう述べた。ビルマに住む民族グループの1つのカチン人のうち、民間人7万5千人が国内避難民や国境を越えた難民となり、食糧や医薬品、住居をただちに必要としている、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。

今回発表の報告書『語られない悲劇:ビルマ・カチン州での戦時人権侵害と強制移住』(全83頁)は、ビルマ国軍がカチン人の村を襲撃し、家を破壊し、財産を略奪し、何万もの人びとを避難に追いやる現状を明らかにした調査報告書。ビルマ国軍兵士は民間人の尋問にあたって脅迫や拷問を行い、女性を強かんしている。このほか国軍は対人地雷を敷設し、強制労働を徴用している。強制労働ではわずか14歳の子どもも前線で働かされている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長代理エレイン・ピアソンは「ビルマ軍によるカチン州での人権侵害はおとがめなしだ。しかも、政府は人道支援が必要な人びとへの援助提供を妨害している」と指摘。「国軍とカチン反政府軍は共に、すでに悲惨な状況におかれている民間人が更なる事態の悪化に直面しないよう行動すべきだ。」

ヒューマン・ライツ・ウォッチは2011年にカチン州内で2回調査を行い、国内避難民キャンプ9か所と、中国雲南省側の難民の避難地域を訪れた。また状況のモニタリングは現在も続けている。今回の報告書は、国内避難民と難民、人権侵害の被害者のほか、カチン軍兵士、ビルマ軍の逃亡兵、援助ワーカーなどへの100件ほどのインタビューに基づいている。

ビルマ政府とカチン独立軍(Kachin Independence Army, KIA)は、自軍が人権侵害を行うのをやめるよう効果的な手段をとり、人道的アクセスを保障し、全当事者による人権侵害についての独立した国際機構による調査の実施を許可すべきだ、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。

ビルマ国軍は、カチン独立軍への攻撃を昨年6月に再開した。戦闘は中国が開発を主導する水力発電ダムの周辺地域で起きている。これにより17年にわたる両者の停戦合意は崩壊した。

住む家を追われたカチン人民間人は、ビルマ軍のために前線で強制労働を行わされたこと、拷問を受けたこと、また兵士による発砲を受けたことなどを詳しく語っている。ヒューマン・ライツ・ウォッチの調査は、ビルマ軍部隊は小火器や迫撃砲でカチン人民間人を意図的かつ無差別に攻撃していることを明らかにした。またヒューマン・ライツ・ウォッチは、ビルマ兵が行った強かんの証拠も示した。

19日間ポーター(荷物運搬役)として国軍部隊に同行させられたある男性は、ヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、カチン人女性2人が繰り返し強かんされたところを目撃したと話す。「兵士たちが何度もやってきてこの女性たちを捕まえて、テントからテントへと連れ回した。あまりに恐ろしく、一晩中直視し続けることができなかった。翌朝、この女性たちはきちんと歩くことができず、痛みに苦しんでいるようだった。猫背になって歩き、叫び声を上げていた。」

カチン独立軍も、子ども兵士や対人地雷の使用などの深刻な人権侵害に関与している、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。両軍による対人地雷の使用は、この兵器が戦闘員と民間人を区別なく標的にするため、戦闘が終わってから避難民が安全に帰還する際に、問題が複雑化する要因となる。

ヒューマン・ライツ・ウォッチはビルマ政府に対し、国連人権高等弁務官事務所に標準的な保護と広報活動、技術支援をマンデートとするビルマ国内での事務所開設を要請するよう求めた。

ビルマ政府が新設した全国人権委員会(NHRC)は、カチン州での人権侵害のモニタリングに関して効果的な役割を果たしていない、とヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘。2012年2月、同委員会のウィンムラ委員長は、政府が停戦交渉に向けて努力していることを踏まえて、委員会としては国内の民族紛争地域での人権侵害行為に関する訴えを調査するつもりがない、と発表した。

前出のアジア局長代理ピアソンは「関係諸国はカチン州などの少数民族居住地域での紛争に関し、全当事者による人権侵害を調査する、独立した国際的メカニズムの設置を直ちに支援するべきだ」と述べる。「ビルマの民族居住地域での人権侵害に関する客観的調査は、国連が関与して初めて実現する。そしてそうした取り組みは、将来的な人権侵害行為の予防につながる。」

昨年6月以来土地を追われたカチン人7万5千人のうち、少なくとも4万5千人が中緬国境一帯のカチン独立軍支配地域内の国内避難民キャンプ30か所に避難している。ビルマ政府は国連機関に限定し、12月に一度だけ訪問を許可した。しかしその時も、国連機関は避難民数万人が住む複数の地域を訪問することができなかった。カチン独立軍支配地域では、カチン独立軍と地元のカチン人組織のネットワークが、増大する人道的ニーズを満たす努力を続けている。しかしカチン州内で活動する民間支援団体への国際的な支援は散発的で不十分なままだ。

カチン州内の避難民には、食糧のほか、医薬品、毛布、暖かい衣類、薪、燃料、十分な数の住居などの生活必需品の人道支援が望まれる。

ここ数か月、ビルマの都市部では著名政治囚の釈放や報道の自由の大幅な拡大など人権状況について前向きなニュースがある一方、カチン州での情勢の悪化はこれとはっきり対照的だ。4月1日に予定される補欠選挙では、民主化指導者アウンサンスーチー氏が国会議員に立候補している。

「ビルマ国民、なかでも紛争地域に生きる人びとが、ここ数か月の改革の成果を実感できるまでには、まだ相当の時間がかかる」とピアソンは指摘する。「国際社会は、今もビルマを襲う深刻な人権侵害に無頓着であってはならない。」

 

 

報告書『語られない悲劇』に掲載された証言より

「水浴びをしているときのことだった。ビルマ兵たちがやってきてマシンガンを撃った。子どもたちは小屋から飛び出して畑に身を隠し、私も標的にならないように身を隠さなければならなかった(……)。兵士たちは(……)仁王立ちになってわめき散らしていた。もし逃げなければ私たちは射殺されていたところだった。天井に銃弾が当たっていた。」

―F.F.(35、女性)、ビルマ・カチン州、2011年11月16日。

 

「連中[=ビルマ軍部隊]は、私たち村の住民がKIAで、KIAは村の住民のことだから、私たちを撃つのだと言った。兵士たちはある地点から先に行くな、発砲するぞと言ってきた。また『誰であっても引き金を引く。老若男女関係ない』と言ってもいた。『もしお前の曾祖父母がKIAの兵士なら、お前たちの親を殺すし、お前たちの孫も殺す』とある兵士は言った。『3世代皆殺しだ』と。」

―A.E.(40、女性)、中国・雲南省、2011年11月。

 

「まず連中はその男性を殴った。そして頭にプラスチックの袋をかぶせて首のところできつく縛った(……)。袋で頭が覆われているところに水を掛けた。すると袋が鼻と口にへばりつくので息ができない。この状況で口がきけるわけがないのに、連中は『お前はKIAの兵士か』とこの男性を尋問し続けた。そして激しく殴るのを止めなかった。」

―メーヌ(40)、ビルマ兵による18歳の男性の拷問を証言、カチン州、2011年11月15日。

 

「[ビルマ兵たちは]息子に縄を掛けて、自分たちの前を歩かせた。義理の娘と息子と私が前を歩かされた。しばらく歩くと義理の娘と、私と息子を縛った。私は左手を縛られて、長いひもで息子の右手とつなげられた。私と息子は一列で歩かされた。脇には兵士が2人、後ろには兵士が4人いた。トウモロコシの大きな袋を3つ持たされた。全部で10袋ほどを運ばされた。」

―マルモー(70)、ビルマ軍のポーターを強要され、脱走した際に発砲された。カチン州、2011年11月21日。

 

「私たちは射撃訓練、行進訓練、生活訓練について、またジャングルでの生活訓練などを受けた。これ[=基礎教練]には3か月掛かった。200人以上が参加していた。大半は自分より年長だったが、自分と同い年の友人もいた(……)。私は自分用の銃はなかったし、持つこともできなかった。まだ若すぎると判断されて。上官用の食事の用意と通信文のやりとりを担当することがほとんどだった。」

―マルーP(16)、KIAの子ども兵士、カチン州、2011年11月14日。