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(ニューヨーク)-ヒューマン・ライツ・ウォッチは、本日、治安当局の権限を強化する中国政府の法案について、犯罪容疑者を最長で6カ月間秘密裏に拘禁することを認めるものであり、基本的人権の大きな後退だ、と述べた。中国の人権活動家や弁護士、法律専門家らは、中国の国際法上の責務に反するとして、本法案に強く反対している。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの中国担当ディレクターであるソフィー・リチャードソンは、「中国政府提出の法案が、治安当局に合法的“失踪”という手段を与えることになりかねない」と指摘。「秘密拘禁の合法化により、被拘禁者が拷問や虐待にあう危険性が増す。」

2011年8月30日に政府が公表した刑事手続法改正案は、法執行当局に対し、国家安全保障、テロ、重大汚職に関する事件の場合、警察が決定した場所に最長6カ月まで、容疑者を拘禁することを可能にする内容。また同法案は、親族や弁護士に拘禁を通知することが“捜査の妨害”になると法執行当局が考えた場合、拘禁を秘密にしておくことができるようになる。

本法案は、中国ですでに活動家や反体制派に対して日常的に行われている居住監禁(警察用語で“軟禁”)の正式な承認にも繋がりかねない。

政府に批判的とみなされた人物や反体制派の個人に対し、国家安全保障に関する容疑を適用することはすでに中国では日常的に行なわれており、特にここ数年の間に強制失踪事件が急増。2009年にノーベル平和賞受賞者の劉曉波(Liu Xiaobo)氏、2011年には辛口の政府批判者として知られる芸術家の艾未未(Ai Weiwei)氏を、“居住施設での監視”下に置いたと中国政府は主張、拘禁場所の非公開を正当化した。警察は、いずれの事件においても両氏に弁護士との接見を許可せず、家族への所在告知も拒否している。

前出の中国ディレクターのリチャードソンは、「秘密拘禁措置の制度化は司法制度を弱体化するのみならず、法の支配に向けた希望を大きく後退させる」と述べる。「ひとたび治安当局にこのような権限を与えてしまえば、将来取り返しのつかない事態になる可能性がある。」

国際法の下では、国家機関が個人を拘禁したにもかかわらずその事実を否定したり、その所在を明かさなかった場合、国家が強制失踪を犯したこととなる。“失踪させられた”人びとの多くは拷問の危険にさらされ、刑務所や留置所などの正式な施設外に拘禁された場合、その危険はいっそう高くなる。失踪者の所在や健康状態、法的地位について家族や弁護士に知らされることもない。

ヒューマン・ライツ・ウォッチはここ数年、こうした中国の強制失踪問題について調査して取りまとめてきた。たとえば、新疆ウイグル自治区チベット自治区における抗議行動の後に発生した強制失踪事件や、北京などの都市に存在し、“裏監獄(black jails)”として知られる違法な拘禁施設内で起きる強制失踪事件、更には人権弁護士の滕彪(Teng Biao)氏や唐吉田(Tang Jitian)氏などのように、中国政府が沈黙させたい著名な活動家の強制失踪事件などだ。

提出された法案が施行されれば、すでに中国で慢性化している拷問と虐待の危険性が、著しく増大するはずだ。司法制度の域外に容疑者が拘禁されることになり、従ってそうした人びとは拘禁施設や刑務所規則の適用外となる。容疑者はまた、弁護士との接見が不可能であることから、法廷で自らの拘禁に異議申立てをすることもできない。

中国国営メディアは、この法改正は人権保護の改善を目的にしており、秘密拘禁の実施はしっかり監督され、例外的状況下でしか適用されないと主張している。

しかし、警察は事実上すき放題(unaccountable)というのが現状だ。警察の権力は、“居住施設における監視”の監督責任を表向き担う裁判所や国家検察の権限よりも、はるかに大きいからだ。中国の司法制度は法的に共産党の指導下にあり、独立した弁護士協会は存在しない。結果として、法執行機関がこれらの条項を濫用したり、政治的動機に基づく訴追が行なわれても、実効的な救済措置がないのが現状なのだ。

恣意的拘禁の禁止は司法の根幹となる原理である。これは、国際慣習法の反映とみなされる世界人権宣言で謳われている。

中国が1998年に署名したものの批准していない「市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下、自由権規約)」は、「刑事上の罪に問われて逮捕され又は抑留された者は、裁判官又は司法権を行使することが法律によって認められている他の官憲の面前に速やかに連れて行かれるものとし、妥当な期間内に裁判を受ける権利又は釈放される権利を有する」と明言している。自由権規約は更に、「逮捕又は抑留によって自由を奪われた者は、裁判所がその抑留が合法的であるかどうかを遅滞なく決定すること及びその抑留が合法的でない場合にはその釈放を命ずることができるように、裁判所において手続をとる権利を有する」と規定している。同規約の署名国である中国政府は、「条約法に関するウィーン条約」に則り、条約の「趣旨及び目的を失わせることとなるような行為を行わないようにする」義務がある。

また、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、中国政府に対して、「強制失踪からのすべての人の保護に関する国際条約(強制失踪禁止条約)」批准の要請を再三行っている。

前出のリチャードソンは、「中国政府は強制失踪を禁止するどころか、それを合法化しようとしている」と述べる。「改正案は撤回されるべきであり、政府は強制失踪の根絶に向け全力を尽くすべきである。」

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