2010年3月、ビルマの人権状況に関する国連特別報告者のトマス・オヘア・キンタナ氏は、ビルマにおける国際法違反の調査委員会設立の可能性について考慮するよう、国連に求めました。ビルマで広範囲にわたって組織的に横行している国際人権・人道法の重大違反とその不処罰について、ヒューマン・ライツ・ウォッチも深く憂慮しています。ビルマ国軍や非政府系武装集団がビルマで犯している人権侵害の一部は、戦争犯罪に該当するほか、人道に対する罪にも該当する可能性があります。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、国連総会に対し、2002年以来ビルマの全当事者が犯した国際人権・人道法違反を調査するとともに、犯罪者のアカウンタビリティ(責任追及)の確保に向けこうした犯罪を犯した個人を特定する事実調査委員会を設立するよう国連事務総長に求める決議案を、今秋の国連総会にて採択するよう求めます。

背景

ビルマは現在も世界で最も抑圧的な国のひとつです。1962年以来、軍事政権(現在は「国家平和発展評議会」=SPDC)の過酷な支配の下にあります。政府の治安部隊は、恣意的逮捕、拷問、強制失踪、超法規的処刑といった犯罪を繰り返していますが、処罰を一切免れています。表現や結社、団結の自由に関わる権利は著しく制限されています。諜報機関や治安機関がいたるところに存在しています。報道の自由もほとんどありません。強力な「報道審査委員会」によって、政治体制に関する批判的な分析が規制されているからです。司法制度も政府から独立しておらず、弾圧の片棒を担いでいます。2,100人以上の政治囚が劣悪な環境の刑務所に収容されており、野党党員、仏教の僧侶や尼僧、ジャーナリスト、活動家などが日々拷問や虐待に直面しています。

また民族的少数者が暮らす地方で続く内戦(武力紛争)に関わる人権侵害行為も止みません。ビルマでは世界最長の内戦が行われており、独立直後の国家と民族集団の間の内戦が始まったのは、1949年にさかのぼります。80年代の一時期には、反政府武装勢力や民族ゲリラ、共産主義ゲリラが30近く存在し、中には2万もの兵力を備え、高地ビルマに広大な支配地域を確保していた組織もありました。80年代後半から90年代初頭になると、軍事政権はほとんどの反政府武装勢力との間に暫定的な休戦協定を結びました。しかし現在も、3つの主な民族的反政府武装勢力がビルマ東部、特にカレン(カイン)州、カレンニー(カヤー)州、シャン州で戦闘を継続しています。これらの地域では現在も、ビルマ国軍の圧倒的な存在感を示す一方で、低強度の内戦が続いています。1996年以来の戦闘で、50万人以上が国内避難民となっており、数万人が隣国タイで難民生活を強いられています。

ビルマ西部では、ムスリム系少数者集団であるロヒンギャが何十年にもわたって、政府からの迫害を受けており、1982年の国籍法の差別的な規定により無国籍状態におかれ続けています。1978年と1991年には大規模な強制排除政策の標的となり、数十万人が隣国バングラデッシュへの移動を余儀なくされました。ビルマ西部では、推計百万人のロヒンギャ族がきわめて悲惨な生活をしています。移動や信仰の自由に対する広範な規制ばかりでなく、医療や教育といった基本的なサービスや、雇用や生計の手段へのアクセスも著しく制限されています。マイノリティであるロヒンギャ民族に対し、彼らをビルマから追い出そうとする長期的であからさまな国家政策の一環として人権侵害も行われています。

ビルマでどんな国際人道法違反が犯されたと報告されていますか?

長期化するビルマの内戦ですが、この内戦の当事者である同国政府と非国家武装組織は、国際人道法(戦時国際法)に拘束されています。ビルマ国軍はこれまで深刻な国際戦時法違反行為を数多く犯しました。意図的・無差別な民間人攻撃、民間人や戦争捕虜の略式処刑、成人および未成年の女性への性暴力、拷問、子ども兵士(少年兵)の使用、住民の生計手段や食料への攻撃、住民の強制移動、対人地雷の使用などです。一方、非国家武装組織も、強制労働や子ども兵の使用、対人地雷の使用などの重大な人権侵害に関与しています。

ビルマでおきていると言われる国際犯罪について、これを調査する事実調査委員会の設置を求める声があがっていますか?

事実調査委員会を設置し、ビルマで起きている深刻な国際犯罪行為を調査すべきとの声は何度となくあがっており、例えば、現在及び過去のビルマの人権状況に関する国連特別報告者もこれを支持しています。

国連は、長年にわたり、無数の報告書や決議、文書を作成し、ビルマ国内での深刻な人権侵害と国際人道法違反を終わらせるよう訴えてきました。こうした要求が最近になって大きくなったきっかけは、2010年3月に、国連のミャンマーの人権状況に関する特別報告者のトマス・オヘア・キンタナ氏が国連人権理事会に提出した報告書でした。キンタナ氏は「長年横行し続けてきた、重大かつ組織的な人権侵害のパターン」について報告したのです。氏の報告書は以下のとおり結論づけました。

以上のような人権侵害は、行政、軍、司法のあらゆるレベルの関係者がかかわる国家政策の結果であることが示唆される。これまでの一貫した報告を踏まえれば、これらの人権侵害行為の一部は、国際刑事裁判所(ICC)規程が定める戦争犯罪あるいは人道に対する罪のカテゴリーに該当する可能性がある。このような可能性が単に存在するだけでも、ミャンマー政府にはこうした事実を調査するために即時かつ有効な手段を講じる義務がある。責任を明確にすることが明らかに必要なケースがあるが、責任追及は行われてはいない。このようなアカウンタビリティ(原因究明と責任追及)の欠如を考え合わせると、国連機関は、国際犯罪の問題に応えるための事実調査の権限 (マンデート) を有する事実調査委員会の設置の可能性を検討することができる。

2010年、欧州連合の諸政府とオーストラリア政府が、特別報告者による調査委員会設置の提案を公式に支持。2010年5月、欧州議会は調査委員会支持の決議を成立させています。同年7月30日には、米国上院議員32人がヒラリー・クリントン国務長官に書簡を送付。「ビルマでの人道に対する罪と戦争犯罪の発生の有無について調査する国連特別委員会を設置することへの支持」を求めました。

多数の非政府組織(NGO)や元国連特別報告者がビルマでの深刻な国際法違反行為について報告してきていますが、その一部が事実調査委員会設置を求めています。たとえば、団体としてはヒューマン・ライツ・ウォッチ以外に、赤十字国際委員会(ICRC)、アムネスティ・インターナショナル、ハーバード大学ロースクール人権クリニック、移行期の正義のための国際センター(ICTJ)など、元国連高官としてはパウロ・ピニェイロ氏や横田洋三氏などです。なお国連人権理事会におけるキンタナ氏の発言の後、ビルマ軍事政権は即座に当該提案に対する反対を表明しました。

国際事実調査委員会はどのようにして設立されるのですか?

国際調査委員会は、国連人権理事会、国連総会、国連安保理が採択した決議、または国連事務総長自らのイニシアティブによって設立可能です。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、今年の秋に開催される国連総会で、事務総長に調査委員会の設立を求める決議を採択するのが最適と考えています。

国際事実調査委員会はどんな権限(マンデート)を有する委員会となるのでしょうか

調査委員会は、ビルマの全当事者に関して国際人道・人権法違反の容疑を調査し、責任追及を前提とした犯人の特定の権限を持つべきです。委員は国際人道法の専門家を含む有識者で構成されるべきでしょう。また、委員会は、重大な法違反のアカウンタビリティ(原因究明と責任追及)についてしっかりと提言を行うとともに、国連事務総長に対してこの点について6カ月以内に報告と提言をするよう求めるべきです。

国際調査委員会が2010年に実施されるビルマ総選挙に与える影響は?

ビルマ関係者の中には、国際事実調査委員会の設置や、アカウンタビリティの追及が1990年以来初めて行われる総選挙にマイナスの影響を与えかねないと主張する人々もいます。ビルマ軍事政権を国際的に一層孤立させ、民主化拡大の圧力に今まで以上に抵抗する結果を招きかねないというのです。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、国際社会が国際調査委員会の設置を求めることは、総選挙や、野党活動の自由の拡大や政治囚の釈放などの政治改革の可能性に直接の影響を与えないと考えます。したがって調査委員会の設置要求は、政治上の戦術や国際的な圧力のための新しい方策として利用・誤用されるべきではありません。それ自体として必要な手段であります。

政治的安定と正義を対立させて捉える政府関係者は、多くの場合、重大な国際犯罪のアカウンタビリティから逃れることを狙っています。ヒューマン・ライツ・ウォッチが長年にわたり紛争地域で調査報告してきた経験からも明らかなように、こうした犯罪に対するジャスティス(法の正義、法の下の裁き)を確保することは、安定した平和の達成に向けて、短期的にも長期的にもプラスに働く傾向があります。そして、対照的に、不処罰は高い代償を伴うことになる傾向があります。

ビルマでは、政府軍や政府関係者の行った重大な人権侵害を不問とする不処罰状態が現在まで続いています。2010年総選挙後に2008年憲法が施行されると、こうした不処罰が法律となって、法的にも認められる危険性があります。2008年憲法の3つの主要な条項によれば、ビルマ国軍関係者ならびに1988年以降の軍事政権、すなわち国家法秩序回復評議会(SLORC)と国家平和発展評議会(SPDC)のメンバーは、過去の行為に関する訴追を免れ、軍事裁判権は国軍司令官が完全に掌握することになります。こうした条項は、戦争犯罪や人道に対する罪、拷問に対する免責を禁止する国際法に違反するとともに、強制失踪に対する免責を禁ずる国際法にも違反するとみられます。

なぜアカウンタビリティ(真相究明と責任追及)が重要なのですか?

国際人権・人道法の重大違反を犯した個人を調査・訴追することは、国際法上の義務です。人権侵害や戦争犯罪に関係した個人の責任追及は、とても重要です。なぜなら、責任追及によって将来の違反行為が抑制され、法の遵守が促進され、被害者へ補償の道筋が示されるからです。法に従い個人の犯罪を裁けば、軍隊や法執行者の規律や専門性があがるのはもちろん、責任ある統率を維持し、一般市民との関係を改善することもできるでしょう。こうしたアカウンタビリティを放棄した国家や非政府武装集団は、紛争地域の人びとの間はもちろん国際社会でも足場を失いますし、国際的な制裁の対象となる可能性も増します。

戦時国際法遵守のための、国家の一般的な義務とは何ですか?

紛争の当事者であるか否かにかかわらず、すべての国は1949年ジュネーブ諸条約に従い、可能な限り国際人道法違反を止める責任があります。そのための行動は単独でとることもできますが、複数国が共同でとることもできます。たとえば、特定の国、特定の武装集団、特定の個人に対して集団的制裁措置をとることなどがこれに当たります。

ビルマの武力紛争に適用される国際法は何ですか?

ビルマ政府といくつかの非政府武装集団との間で起こっている国内紛争に適用されるのは、国際条約と国際慣習法です。慣習人道法とは長年継続されてきた国家慣例に基づき、武力紛争におけるすべての勢力(ビルマ政府のような国家や、カレン民族解放軍(KNLA)のような非政府武装集団)の敵対行為を拘束します。関連する条約法には、1949年ジュネーブ条約の共通第3条があり、同条項では、敵の支配下における民間人・傷病者・捕虜の扱いについての最低基準が定められています。

人権法や戦時国際法に違反した個人のアカウンタビリティを確保する第一義的義務はだれにあるのですか?

アカウンタビリティの第一義的責任を担うのは、重大な違反行為を犯したとされる個人の国籍国政府です。国はこうした重大違反を調査する義務があり、調査対象は政府関係者やその他管轄内にいる個人となります。軍事法廷か国内の一般法廷、またはその他の機関で、重大な違反行為の有無を公平に調査し、公正な裁判の国際基準にそって犯罪者を特定・訴追するよう確保する義務があります。また、被告に有罪判決を言渡す場合は、犯した罪の重大性に見合う刑を科さねばなりません。 一方、非政府武装集団には、国家と同様に戦時国際法違反者を訴追する義務まではないものの、依然として法の遵守を確保し、訴追をする場合は公正な裁判に関する国際基準に従う責任を負っています。

ビルマ軍の犯罪に対する軍事裁判管轄は存在しますか?

ビルマ国軍の行動を規制する規則は、国防服務法(1958年)及び国防服務規程(1960年)に記されています。一連の規則は民間人の殺害や虐待などの重大犯罪を明確に禁止し、兵士への最低採用年齢を18歳と定めています。しかし実際には、ビルマ国軍兵士の重大犯罪が調査・処罰されることはまれで、将校が関与したケースではさらに珍しくなります。非政府武装組織の多くには、基本的な行動規約や簡単な軍事裁判制度がありますが、こうした組織についても、国際的に公正とされる裁判の基準に従って、重大犯罪が調査・処罰されることはほとんどありません。

ビルマ内戦の当事者なのは、ビルマ政府以外どんな組織ですか?

ビルマの武力紛争に関わる主要な非政府系武装組織(停戦済を除く)は以下の通りです。

  • カレン民族解放軍(KNLA):カレン民族同盟(KNU)の軍事部門。1949年設立
  • シャン州軍・南部方面軍(SSA-South):シャン州復興評議会(RCSS)の軍事部門。シャン州軍は1964年設立。シャン州軍・南部方面軍は1996年設立。
  • カレンニー軍(KA):カレンニー民族進歩党(KNPP)の軍事部門。1970年代設立。
  • チン民族軍(CNA):チン民族戦線(CNF)の軍事部門。1970年代設立。
  • アラカン解放軍(ALA):アラカン解放党(ALP)の軍事部門。1980年代設立。

これらの組織は戦時国際法違反行為を犯していると見られます。具体的には、子ども兵士の強制採用と使用、住民の強制移動、拷問、国軍兵士への虐待や超法規的処刑、成年と未成年の女性への性暴力、民間人居住地域での対人地雷の広範な敷設などです。ビルマの非国家武装組織による子ども兵士の使用と対人地雷の使用については多くの記録がありますが、その他の戦時国際法違反行為については調査がほとんど行われていません。

現在17以上の非政府武装組織が、ビルマ政府との間で口頭での暫定的な停戦合意を結んでいます。これらの武装勢力は、ビルマ国営メディアから「合法的な枠組に復帰した」と婉曲な言い方で位置づけられていますが、多くが大規模な軍事部門を有しており、かなり広い支配地域で、臨時かつ一時的で条件つきの自治を行っています。また準合法的あるいは非合法な形でタイ、ラオス、中国またはインドとの国境貿易に関わっています。主要な組織にはワ州連合軍(UWSA、兵力は推計で20,000~25,000人)、カチン独立機構(KIO、正規兵数千人)、民主カイン仏教徒軍(DKBA、兵力5,000人以上)、パオ民族機構(PNO、兵力1,000~3,000人)、新モン州党(NMSP、兵力2,000~4,000人)があります。これ以外の民族武装勢力の多くは小規模で、ビルマ国境地帯の孤立した地域に点在しています。ビルマ国軍はまた数十の民兵組織を支配下に置いています。これらの民兵組織は政府の治安部隊に協力していますが、法的権限が明確に定義されたことはありません。

国際人権法や国際人道法において、「人道に対する罪」とされるのは、どんな行為ですか

人道に対する罪は、戦時、平時にかかわらず、一般市民(民間人)に対してなされる広範あるいは組織的な禁止行為のことを指します。人道に対する罪は、個人が、拷問や市民の強制移住、または殺人などの広範あるいは組織的な違反行為を行なった場合成立します。

国際人道法で「戦争犯罪」とされるのはどんな行為ですか。

犯意(つまり、意図的又は重過失)をもって、国際人道法の重大な違反を犯した個人は、戦争犯罪の責任を負います。戦争犯罪に該当する行為には様々あり、一般市民に対する意図的又は無差別な攻撃や過剰な攻撃、人間の盾の使用、拷問、強制失踪、略式処刑などがその例です。また、こうした戦争犯罪の未遂行為、幇助行為、教唆行為などを行った個人も、犯罪に問われえます。

戦争犯罪を計画したり、煽動したとして個人の責任が問われることもあります。また、軍司令官や市民リーダーが個人の戦争犯罪について知り、または知るべきであったにも拘わらず、予防措置を十分取らなかったり、責任追及しなかったりした場合などにも、上官責任として戦争犯罪が問われうるのです。

ビルマ政府は、戦時国際法違反が指摘される行為を調査する義務を果たしているのでしょうか。

ビルマ政府はこれまで一度も、国軍兵士や警察官が行った重大犯罪行為と言われる事件について十分な調査を行ってきませんでした。反対に、深刻な虐殺に関連する不処罰と人権侵害行為は、ビルマ軍政指導部から命令、実行、容認されていると見られています。2002年にシャン女性アクションネットワーク(SWAN)が発行した報告書『強かんの許可証』(Licence to Rape)は、シャン民族の成人と未成年の女性への性暴力がビルマ国軍部隊によって広範に行われていることを明らかにしましたが、これを受けてビルマ軍政は、軍当局者と政府が支援するミャンマー女性問題連盟(MWAF)会員による「調査」なるものを行い『嘘の許可証』(Licence to Lie)という題名の報告書を発行しました。この軍政による報告書は、SWANによる報告書が指摘した事例を一つとして真剣に検討せず、報告書の執筆者の攻撃に終始したものでした。

2004年に軍政は未成年者採用防止委員会を設置しました。これは国軍の管理下にあり、子ども兵士の強制採用の廃絶を目指すとされる組織です。ビルマ政府は、強制採用に関する訴えの調査や国軍から未成年者を除隊させる措置の実施について、ユニセフや国際労働機関(ILO)に一定の協力を行っています。18歳未満の少年を国軍が採用する行為を、ビルマ民法と軍法は違法としています。ユニセフは国連の子どもと武力紛争に関する特別代表に定期的に報告書を送付しています。またILOは子どもと武力紛争に関する2005年の国連安保理決議第1612号に基づくモニタリングと報告義務を負う国連機関です。国軍兵士が戦時国際法違反行為で処罰されたと言われる事例はごく少数です。下級兵士については違法な殺害や性暴力、窃盗などの犯罪で処罰されることが時にはありますが、その場限りのもので地域司令官の判断によっています。2010年には3人の下級将校が子ども兵士の採用に関連して懲役刑を宣告されています。ビルマ国軍の対ゲリラ軍事作戦行動に関する大規模な調査は、多数の人権侵害行為が報告されているにもかかわらず、一度も行われていません。

非国家武装組織は、組織の成員が行った可能性のある重大犯罪について成員を調査あるいは処罰することをめったに許可しません。カレン民族解放軍とカレンニー軍の2組織は国連との間で、子ども兵士の使用廃絶を目的とする行動綱領(Deeds of Commitment)に署名しました。

ビルマ政府が人権侵害疑惑について調査するよう、ビルマの被害者、市民社会、メディアが求めることはできますか?

政府による人権侵害の被害者やその家族が、国家治安部隊によって深刻な人権侵害を受けているという訴えに関して、政府に調査を要求するための仕組みがほとんどないのが現状です。人権侵害の実態を直接政府関係者に訴えれば、相当の報復が予想され、行動に移す人はほとんどいません。司法制度が独立していないので、こういったことを法廷に持ち出すことは非現実的なのです。国際労働機関(ILO)が、ビルマにおける子ども兵の徴用を含む強制労働の実態の報告を受け付ける仕組みを維持しています。しかし、ビルマのメディアは厳しい検閲を受けていて、政治、人権、防衛に関するセンシティブな情報を報道することができません。こうした分野の報道をしたジャーナリストは、頻繁に投獄されています。政府の支配下にあるメディアは、紛争地域における一般市民の殺害や子ども兵の徴用などは非政府武装集団によるものだとし、これらの疑惑を公平な機関によって検証・調査することなしに大々的に報道しています。

国が戦時国際法違反行為の調査を怠っている場合、それに代わる制度はありますか?

歴史的にみれば、戦時国際法の重大違反に対する調査を怠った国々は、調査が放置されていることに対応して、他国やその他の外部機関が調査を開始しようとすると、国家主権を引き合いに不処罰を深刻化させることが頻発してきました。

一方で、ここ20年の間に、国際刑事法の分野で重要で意義深い前進があったのも確かです。つまり、国家がアカウンタビリティの義務に積極的でない場合でも、アカウンタビリティの実現がより現実的になっているのです。 1998年に採択され、2002年に発効した条約(ローマ規程、ICC規程)により、国際刑事裁判所(ICC)が設立されました。ICCは、国家に代わる犯罪調査と訴追を可能にしています。戦争犯罪、人道に対する罪、ジェノサイド罪などを裁くことを国家が怠った場合は、ICCが代わって犯罪の責任者を裁くことができるようになったのです。ただし、これには容疑者の国籍国又は犯罪発生国がICCに加盟しているか、又は、非加盟国ならばICCに事態を付託することが前提です。ビルマはまだICCに加盟していません。しかし、国連安全保障理事会がビルマの事態をICCに付託すると決定すれば、ICCはこの件に対し管轄権を得ることができるのです。実際に、ICCに加盟していなかったスーダンに関し、2005年、国連は、ダルフールの事態をICCに付託しました。国連によるICC付託の条件として、安保理理事会のメンバー国15カ国中9カ国の賛成が必要です。また、常任理事国5カ国が反対票を投じず、拒否権を発動しないことも必要です。ジュネーブ諸条約や拷問等禁止条約など特定の条約では、管轄権内にいる犯罪者の引渡し又は国内での訴追を加盟国に義務付けています。国際慣習法は、ジェノサイドや人道に対する罪などの犯罪についても、国家が訴追をすることが一般的に認められています。

国連はビルマでの重大な人権侵害及び戦時国際法違反の疑いのある行為について調査することはできるのですか。

国連はこれまで、数多くの調査委員会を設置し、国際法の違反を調査してきましたが、ビルマについてはその限りではありません。国連は過去20年近くにわたって、ビルマに関する重要な報告書を発表してきました。これらの報告書は、ビルマの国家治安部隊が広範かつ組織的におこなってきた重大な犯罪を明らかにしてきました。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、ビルマにおける人権侵害の状況を、記録・出版し続けるだけでは不十分であると考えます。その代わり、国連が現存する報告書に基づき、被害者に正義をもたらすとともに犯罪者の法的責任を追及することを目的とした公平な国際事実調査委員会を設立し、いかなる国際刑事犯罪が行われてきたのかを調査する必要があります。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、国連事務総長に対し事実調査委員会設立を要請する決議が、国連総会で採択されることを強く求めます。

事実調査委員会のメンバーがビルマ入国を許可されない場合、調査委員会はどの程度効果を持つのでしょうか?

ビルマ政府はこれまでも、国連の人権状況についての特別報告者の入国を許可しておきながら、その渡航、旅程、面会者を厳しく制限したりと、国連機関のビルマ国内における調査を阻害してきました。しかしながら、ビルマ政府の非協力的な姿勢に直面しても、調査委員会が達成できることはたくさんあります。まず、ビルマ国外で、被害者や目撃者の聞き取り調査を行うことができます。次に、近時の人権侵害に関する膨大な量の国連文書やその他の情報にアクセスすることができます。そして、戦争犯罪や人道に対する罪の法的なマッピングを作成することができます。最後に、ビルマへのアクセスが可能でなくても、深刻な国際犯罪のアカウンタビリティ実現に向けた道筋を提示することもできます。

1997年に、国際労働機関(ILO)は、ビルマの強制労働条約違反を調査するための事実調査委員会を設立し、翌年に重要な報告書を発表しました。この報告書は今でも、ビルマにおける人権関係の調査報告書としては、これまでに発表されたものの中でもっとも詳細でしっかりと現実を捉えたものと評価されています。この報告書は、ビルマ政府の協力がなくても、大規模な調査が可能であるということが証明しています。

1990年代から、国連、ヒューマン・ライツ・ウォッチ、アムネスティ・インターナショナル、アースライツ・インターナショナルなどや、国境なき医師団などの人道援助団体、ビルマ人による様々な人権団体やメディアなどが同国の人権状況を報告してきました。ビルマ人調査員が、個人的なリスクを背負ってビルマ国内で定期的に作成している詳細な人権関連文書は、ビルマ国外で発行されています。非政府武装集団による人権侵害の実態で、調査されなければならない分野もまたたくさんあります。事実調査委員会が入国させてもらえないのは、理想的な状況ではありませんが、必要とされる貴重な調査を実施できないほどの障害というわけではありません。ただ、シャン州をはじめとする東ビルマなど、ビルマ国内でも孤立した地域では、人権侵害の実態に関する報告書の作成および発表が、依然としてかなり遅れているといった問題があります。

ビルマにおける重大な国際法違反の容疑者が、他国で訴追される可能性はありますか?

前述のように、ビルマは国際刑事裁判所(ICC)の加盟国でない上に、国連安保理がビルマの状況をICCに付託していませんので、ビルマにおける犯罪行為の調査および訴追はできない状況になっています。このように国際的正義の実現には制限要素はあるものの、(前述の)普遍的管轄権の原則を適用すれば、国際人権法や人道法の重大違反を犯した人物の不処罰と闘うために、他国の国内法廷がその役割を果たすこともできるのです。普遍的管轄権の行使により、戦争犯罪や拷問、さまざまな状況下における人道に対する罪を犯した個人の訴追を認める法律がある国はたくさんあります。 過去10年間、普遍的管轄権に基づいた訴追の数は増加し続けており、特に西ヨーロッパに顕著です。フランス、英国、オランダ、スペイン、ベルギー、そしてノルウェーなどの国内法廷では、モーリタニア、アフガニスタン、コンゴ民主共和国、ルワンダ、ボスニア・ヘルツェゴビナなどで起きた国際犯罪が実際に訴追されており、普遍的管轄権の行使が現実化していることを示しています。

政治的影響力の小さい国々の個人のみが国際的な法の正義の名目で訴追されているのは、ダブル・スタンダードではありませんか?

国際的な法の正義があらゆる人に公平に適用されているわけではないと批判をする人々はいます。確かに、国際法の重大違反を犯した者は、国籍に関係なく、責任を問われるべきです。しかし、国際的な法の正義の実態は、確かに一様だったとはいえません。力を持った国やその同盟国の指導者に対する重大な国際法違反疑惑が、国際法廷で訴追されることはまれです。これらの国々がICC条約を批准していないということと、国連安保理のメンバー国が政治的利益を有する問題をICCに付託する可能性が低いということなどが、影響しているといえるでしょう。しかし、あらゆる人のための法の正義を実現することが不可能であるという理由だけで、一部の被害者の正義が果たされないということがあってはならないのです。むしろ、重大な犯罪が起きた場所にかかわらず、アカウンタビリティが適用されなければならないのです。これまで、ICCによる調査がアジアで実施された実績はありません。残念ながら、ICC規程を批准している国はアジアにおいて数カ国(バングラデシュ、カンボジア、日本、韓国、サモア、フィージー、東ティモール民主共和国)のみです。ビルマでは、長年にわたって国際人権法・人道法に対する重大な違反行為が起きており、ビルマ政府はそれを全く調査・訴追しようとしてこなかったことから、今こそ公平かつ独立した組織がこうした容疑ついて調査する必要があります。